診療所のデジタルヘルス導入の起点にはbr省人化目的が向いている

オンライン資格確認を皮切りにデータ連携へ

今回は、自分の診療所経営の経験も踏まえて、私の開業医の視点からデジタルヘルスに対する本音を話していきたいと思う。

本連載を読んでくださっている開業医の諸先輩方に今さら言うことではないが、診療所経営において一番大変なのは「ヒト」関連のものだと思う。しかし、診療所をワンオペでしない限りは、誰かしら看護師や事務職などを雇って診療所経営をする必要があり、避けては通れない問題だ。

本連載では「デジタルヘルス」と言って、遠隔診療・オンライン診療や、AI医療機器、治療用アプリをはじめ、日本政府が進めようとしている医療DXの最新動向をとても詳しく話しているが、そういうことは取り組みたい診療所がやっていけばよくて、自院には関係ないと思われる方がいるのもごもっともだと思っている。

ただ、昨今進められている「オンライン資格確認」に関しては、〝すべての医療機関〟が実施するように言われているため、今後も日本で医療機関を経営し、医療行為(特に保険診療)をしていくためには仕方なしと、導入された方々も多いのではないだろうか。
現に、電子カルテはいまだに診療所の導入率は50%前後だが、今回のオンライン資格確認に関しては導入率ほぼ100%になるはずである。
そして、本連載でも再三言っているが、オンライン資格確認を起点として、2025年4 月の運用開始に向けて患者の医療情報の共有がされる「全国医療情報プラットフォーム」も進められている。

これは国としては本気で、オンライン資格確認も当初は病院、診療所、薬局が対象だったのが、さらに、保険で運営される施設(訪問看護ステーション、整骨院など)でも来年4月くらいから導入しないといけないように進められている。日本で保険医療を行うあらゆる医療機関がデータ連携されていくのである。

デジタルヘルスは治療領域だけではない

このような不可抗力なデジタルの導入以外では、デジタルヘルスに対して診療所、特に「当院は普通だと思っている診療所」は何をすればいいのだろうか。本当に、「オンライン診療」「AI医療機器」「治療用アプリ」のようなキラキラしたものを導入すべきなのだろうか。
ここで伝えたいのは、導入する際には「価値を想像できるもの」を導入すべきだということだ。「価値があるもの」ではなく、「価値が想像できるもの」というのがポイントである。

新しいサービスや機器が出たときに、企業からその製品やサービスの「機能」を説明されることが多い。ただ、求めたいのはそれを導入することで、どれだけ診療所としてよくなるのかだ。

では、「診療所としてよくなる」とはどういったことだろうか。デジタルヘルスは「医療・ヘルスケア領域×デジタルテクノロジーの活用」なので、何もそれは診断や治療などに関連するものでなくてもいい。予約システムや患者向け専用アプリ、診察券アプリ、会計システムなどでもいいのだ。

私は自身で診療所を経営しているだけではなく、診療所を経営する医師ともとてもたくさん話をしてきて、診療所の求めているニーズが大きく3つに分類されると思っている。それは、「集患」「患者の診療の単価向上」「医療スタッフの生産性の向上」のつだ。

ただ、これら3つはどれも同じくらいのニーズではなく、それぞれのニーズの強さに差がある。実際は、集患≳患者の診療の単価向上≳医療スタッフの生産性の向上──のように感じている。

では、ここからは「集患」に関するデジタルヘルスを……というわけではない。集患に関しては私が今さら言わなくとも、診療所経営者は真っ先に投資するし、患者が十分増えたら投資を抑える。
そのため、ここでしっかり訴えたいのは、診療所経営者はデジタルヘルス製品・サービスとして「人手がいらなくなる、減らせる」ものに注目し、導入を積極的に検討してもらいたい。

新しい仕組みへの移行期には試行錯誤の時期が生じる

私が思うに、これは医療界だけではないが、今後はあらゆるサービスが〝無人化〟に向かっていく。たとえば、店員がいない「無人コンビニ」などが特徴的であるが、無人化だけではなく、それに合わせて〝少人数〟で運営できるようになるサービスが増えている。他業界のこの動向を、経営者としては注目していただきたい。

無人化や人手を減らす医療機関のサービスは、今まで診療所側がしていたことを患者側にしてもらうような仕組みが考えられるが、今回のオンライン資格確認を例に挙げると、初診の際の保険資格情報の入力などはマイナンバーカードをかざすことで自動入力され、それを確認するだけに変わる。
問診などに関しても、来院してから問診票を渡していたのなら、事前にWEBで入力してもらっておけばその必要はなくなる。

受付、患者情報入力、診察室への案内、診察内容や処方箋内容の説明、会計や支払い、次回の予約日の決定など、かかっていた人手が減るようなサービスが出てきているし進化していくと考えている。人手を減らすことができれば、本稿の冒頭に戻るが、「ヒト」関連の大変さが起こる割合を減らしていくことが期待できる。

しかし、まだまだ注意が必要なのは、これらの「人手を減らす」ためのサービスを導入したとしても、人手が減らなかったり、むしろフローがややこしくなって大変になったりすることがあるのだ。これはデジタルへの移行期間では仕方がない。
少し想像してもらうと、現代では当たり前に便利な「車」だが、人々の移動手段が馬車から車へ移行し始めたときは、「車というものは今まで必要なかったガソリンというものを入れておかないといけない」とか、「ガソリンがないと動かない」など、馬の管理とは勝手が違うことがあったに違いない。でも、今となれば馬車より車のほうが楽なのは明確だ。

移行期には、このような新しい導入による不都合が生じるが、それはサービスの進化や、自分自身の慣れが解決してくれるはずだ。
私自身も、積極的に人手を減らすようなデジタルヘルスサービスは自院に導入している。診療所に人がいることによるメリットを保ちながら人数は必要な少数にして運営していくことを、目標に日々試行錯誤をしている。(『CLINIC ばんぶう』2023年9月号)

加藤浩晃
(京都府立医科大学眼科学教室・デジタルハリウッド大学大学院客員教授/東京医科歯科大臨床教授/THIRD CLINIC GINZA共同経営者)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上

▼『CLINIC ばんぶう』最新号のご案内とご購入はこちら

© 株式会社日本医療企画