白内障手術、レーシック、ICL、どれも患者満足度は高いが…それでも「手術の選択は慎重にしたほうがいい」と眼科医が語る理由

白内障、レーシック、ICLなど、目の手術をすることは昔に比べて一般的になってきています。しかし眼球は非常に繊細な臓器であり、その眼球を数十分~数時間で手術するのはリスクが高いことだと語るのは、眼科医の窪田良氏です。本記事では、窪田氏の著書『近視は病気です』(東洋経済新報社)より一部を抜粋・再編集し、「目の手術」についての見解をご紹介します。

〝精密臓器〟にメスを入れる怖さ

眼球は、いろいろな方向を見るために〝浮いて〟います。ぶら下がっているという表現のほうが合っているかもしれません。まぶたの裏から来ている結膜というヒダが360度ハンモックのように吊るしています。

さらに目の周りの筋肉や脂肪組織なども支えとなり、特定の位置を保っています。そしてめまぐるしいスピードで精密に方向を変えながら動いています。

このようにきわめて精密に制御されている臓器である目にメスを入れるのは、できるだけ避けたほうがいいという考えを私は持っています。カメラのレンズは大変長い時間をかけて丁寧に磨かれて作られます。工業製品でもそうなのに、人間の目をわずか数十分~数時間でオペするとは、何と荒っぽいことではないかと思うからです。

私自身、手術に絶対という言葉は成り立たないことを、幾度となく経験しています。もちろんほとんどの手術は安全で、白内障やレーシック、最近のICLなどは患者満足度の非常に高い手術です。それでもまれに、合併症で手術前よりも悪い状態になってしまう人がいます。目の前の患者さんが絶対そうならないとは断言できないのです。

私が臨床医だった時代、「どうせ将来白内障になるのなら、早いうちに手術してしまおう」という動きが米カリフォルニア州から広がりました。「カリフォルニア白内障」なんて揶揄されていた記憶があります。まだ十分見えている目にそんな理由でメスを入れるなんて、とんでもないと思ったものです。

極端な言い方をすると、将来胃がんになるかもしれないからと、健康な胃を理由もなく切除するのに近いことです。もちろん、緊急で必要性の高い手術は致し方ありません。緊急でなくても、将来非常に高い確率で悪性腫瘍が発生すると遺伝的に決まってしまっている体質の人が、臓器を予防切除できることは大切です。ただ、そうでなければ手術の選択は慎重にしたほうがいい。いろいろな意見はあると思いますが、今も私はそう考えています。

誤解を承知で言うなら、ものが見えづらいことは、日常生活がしにくいというだけです。獲物をとりに行く、自動車を運転するといった視機能に依存した生活行動をしていなければ、見えづらい状態で放っておくことで、何か問題が起きるわけではありません。白内障の手術をしなくても、普通に生活を送ることができるライフスタイルの人もいます。

「風邪に抗生物質」は世界では異端

ちなみに臨床医時代には、薬もなるべく出さないようにしていました。病院やクリニックの経営的視点から見れば、手術件数が多いほうが儲かりますし、薬をたくさん処方したほうが儲かります。製薬会社からの評価も上がるし、いいことづくめです。

患者さんから「せっかく病院に来たのだから目薬をください」「ほかの先生はたくさん目薬をくれるのに……」と言われることもありましたが、私は「いらないものはいらない」を押し通しました。

投与しなければ命が危ない人、状態が悪い人にはもちろん薬を使うべきでしょう。しかし、そもそも人間には免疫力や自然治癒力があることをもっと認識するべきだというのが私の考えです。ちなみに薬の中には、単なるプラセボ効果を狙っているものもあります。

最近はさすがに日本でも減ってきたとは思いますが、かつては風邪をひくと、抗生物質を当たり前のように処方していました。欧米では、本来であればいらない薬を出すことは、かなりネガティブなことだと受け止められます。

体に入れる薬剤のような化学物質は、問題にもなったサプリメントを含め、特に長期投与した場合、肝臓や腎臓に負担をかけます。ですから、体の中に何かを入れるのは、よほど慎重になったほうがいいという共通認識があるのです。

窪田 良
医師・医学博士

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