真理は「逃げるが勝ち」!? 敵前逃亡で活路を見出した『ジョジョの奇妙な冒険』の主人公たち

アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』第2部キービジュアルより (C)荒木飛呂彦/集英社・ジョジョの奇妙な冒険製作委員会

1986年から『週刊少年ジャンプ』で連載がはじまった荒木飛呂彦氏による漫画『ジョジョの奇妙な冒険』は、1億部以上の全世界累計発行部数を誇る人気作品で、現在も第9部にあたる『The JOJOLands』が『ウルトラジャンプ』にて連載中だ。

『ジョジョ』は各部で主人公が変わり、性格も能力も違う。彼らはそれぞれ仲間を信頼し勇気を持って困難に立ち向かうが、ときには読者の想像もつかないアイデアでピンチを回避する場面も……。

そのうちのひとつが、各主人公が選択した「逃げる」という行為。今回は、少年漫画の主人公にしては珍しい「敵前逃亡」を果たし、潔く逃げることで活路を見出したシーンを振り返っていきたい。

■ジョセフ、カーズの目の前から退却

ジョースター家でもかなり毛色が違うと思われるのがジョセフ・ジョースターだ。ジョセフは第2部からの登場となり、3部、4部にも関わってくる。ジョセフの性格を一言であらわすと「ポジティブ」ではないだろうか?とにかくあらゆる局面で苦しい顔をせず、笑って乗り越えようとする気概の持ち主である。

そんなジョセフだが、第2部のラスボスであるカーズと戦ったときにはポジティブだけでは乗り越えられない状況となる。カーズがエイジャの赤石の力を得て究極生命体へと進化してしまったからだ。これまでカーズは、陽の光を浴びると消滅してしまう存在だった。それが弱点を克服し、不老不死になってしまったから倒す方法が見つからない……。こうしてジョセフたちは絶望へと叩き落されてしまう。

しかし、そんな中でもジョセフは諦めなかった。「たったひとつだけ策はある!!」と周りを期待させるような台詞を口にすると、「いいか!息がとまるまでとことんやるぜ!」と話して全速力で逃げたのだ。逃げの姿勢をカッコよく言い表したような感じだが……。

それでも、ジョセフは逃亡しながら生き残るための活路を探していた。そんな中、偶然にもカーズの力をエイジャの赤石で防御したうえで増幅させ、それによって刺激を与えて火山を噴火させる。その勢いにカーズを乗せて宇宙空間まで吹き飛ばしてしまったのだ。

あまりにも突拍子もない展開に驚いてしまったが、もし、あそこでジョセフがカーズと真っ向勝負をしていたら、絶対にそんな展開にはならなかったはずだ。敵前逃亡も作戦のひとつなのだとよく分かる場面だった。

■承太郎、ケーブルカーからの逃亡

次は第3部での空条承太郎とラバーソールとの戦いから紹介していきたい。承太郎といえば、まっすぐすぎるほどの正義感を持ち、どんな状況でも敵を真正面から打ち砕く……そんなイメージが強いはずだ。そんな承太郎が唯一信念を曲げた(?)ともいえる場面が、ラバーソールとの戦いである。

花京院に成りすましたラバーソールは、スタンド「イエローテンパランス」を使っていろんなものを取り込んで消化することで巨大化していった。一度でも取りつかれると引き離すのは不可能に近く、そのまま溶かされてしまう……。

あらゆる攻撃をしてもラバーソールには何も効かないとわかったので、承太郎は潔く諦める。それからジョースター家の伝統的な戦法のひとつである「逃げる」という選択を取り、乗っていたケーブルカーの床を撃ち抜いて脱出したのだ。このときの承太郎の、ジョセフの真似をするのは屈辱的だと言いたげな様子が面白い。

今までどんな敵も拳でぶちのめしてきた承太郎が、まさかの敵前逃亡である。しかし、そのまま水中へ落ちたためにラバーソールの呼吸が続かず、イエローテンパランスを引き剥がすのに成功。そこからの反撃に繋がったので意味ある逃亡だったといえる。

あっさりと逃げる承太郎は後にも先にもこの時だけなので、かなり珍しいシーンといえるだろう。

■仗助、バイクで逃走

最後は第4部での東方仗助と噴上裕也との戦いの場面だ。逃走のきっかけになったのは、岸辺露伴がトンネルの中に潜んでいた噴上のスタンドに襲われてしまったからである。

噴上のスタンド「ハイウェイ・スター」は狙った相手を執拗に追いかけ養分を奪うことができる。基本は人型だが足跡型に変化することができ、その状態だとこちらの攻撃がほぼ効かない。つまり、本体を直接叩かなければ絶対に倒せないスタンドでもあるのだ。

そのため、逃げるという選択肢しか残されておらず、仗助も露伴を助けるためにはそうするしかなかった。しかも「ハイウェイ・スター」に捕まらないようにするためには、時速60キロ以上で走らないとならないので無理難題といえるだろう。

しかしその課題を仗助はバイクに乗って見事解決!その後広瀬康一の協力もあって噴上のいる病室までたどり着くと、相手を容赦なくボコボコに……。「スゲーッ 爽やかな気分だぜ」「新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のよーによォ〜~~~ッ」と話す仗助の姿には笑ってしまった。

仗助はジョセフの隠し子でもあるので、逃げるという行為に関しての能力は一級品なのかもしれない。知らず知らずのうちに、逃げの美学を受け継いでいるところがすごい。

バトル漫画で主人公が敵前逃亡をするのはかなり珍しいといえる。これにはガッカリしてしまうかもしれないが、勝利につながるパターンもあるので、悪いことばかりではない。

ただ、そのキャラの性格によって、使えるタイプとそうではないタイプに分かれてしまう戦術だろう。

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