悔やんでいます…最愛のパートナーを亡くした50歳女性が「月10万円の遺族年金」を受け取れない理由【FPの助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

日本の「公的年金制度」は現役世代が高齢者を支える仕組みとなっているため、少子高齢化が止まらない日本では不満の声が聞かれることも少なくありません。しかし、公的年金は老齢年金だけでなく、障害年金や遺族年金など我々の「万が一」のときにも役に立つものです。具体的な事例をもとに、「遺族年金」の仕組みと受給できない場合の“救済措置”をみていきましょう。AFPの石川亜希子氏が解説します。

年金は「老後のためだけ」の制度ではない

日本の公的年金制度のキホン

年金は、私たちの老後の生活において大きな支えとなるものです。日本の公的年金制度は、現役世代が保険料を支払って高齢者の年金給付に充てる「賦課(ふか)方式」を採用しており、いわば仕送りのような形をとっています。

また、公的年金制度はいわゆる「2階建て」の仕組みになっており、1階部分が20歳以上のすべての国民が加入する「国民年金」、2階部分が会社員が加入する「厚生年金」となっています。

このうち、自営業など国民年金のみに加入している「第1号被保険者」は、保険料を自身で納める必要があります。他方、厚生年金に加入している「第2号被保険者」は、保険料を会社と折半で負担し、その負担分は給料から天引きされます(=会社がまとめて国に納める形をとっています)。

また、第2号被保険者の扶養に入っている主婦(主夫)は「第3号被保険者」に該当し、第2号被保険者の負担に含まれるため、個人としては保険料を負担する必要はありません。

年金は大きな支えだが…年金だけで生活することは難しい

2019年に世間を騒がせた「老後2,000万円問題」が、最近では「老後4,000万円問題」と老後必要とされるお金が倍増するなど、老後を年金のみで暮らすことは難しくなっており、自分自身でも老後資金を準備する必要性は増すばかりです。

こうした状況から「確定拠出型年金」など企業や個人で準備する私的年金も増えており、これを指して現在の公的年金制度は「3階建て」とも称されます。

「障害年金」や「遺族年金」も公的年金制度に支えられている

しかし、公的年金制度は老後のためだけの制度ではありません。病気やケガが原因で障害認定を受けた場合に支給される障害年金、被保険者にもしものことがあった場合に残された家族の生活を保障するための遺族年金、このような万が一の場合にも、私たちの生活は公的年金制度によって支えられています。

老齢年金や障害年金は被保険者(加入者)本人が受け取る年金ですが、遺族年金は被保険者が亡くなったあと、残された家族が受け取る年金となります。

家族にもしものことがあった場合についてはあまり考えたくはないものですが、遺族年金には受給要件があり、仕組みを理解しておくことはとても大切です。

遺族年金のキホン…夫を亡くしたのに「受け取れない人」も

遺族年金も、老齢年金と同じように2階建ての仕組みになっています。1階部分が「遺族基礎年金」、2階部分が「遺族厚生年金」です。

遺族基礎年金は、被保険者に生計を維持されていた「子のある配偶者」や「子」に対して支給されます。「子」は、18歳(に達する日以後最初の3月31日までの間)の子ども、あるいは20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある子を指します。

また、国民年金加入期間の3分の2以上、国民年金保険料の納付済期間(保険料免除期間を含みます)があることが必要です(ただし、死亡日が令和8年3月末日までのときは、死亡した方が65歳未満であれば、直近1年間に保険料の未納がなければよいという経過措置があります)。

仮に夫が亡くなり、子のある妻が受け取る場合、具体的な受給金額は下記のようになります(令和6年度)。

81万6,000円 + 子の加算額(1人目および2人目の子の加算額各23万4,800円、
3人目以降の子の加算額各7万8,300円)

しかし、以前、筆者が相談を受けたAさん(50歳、女性)は、夫が亡くなったにもかかわらず遺族年金を受け取ることができませんでした。

悔やんでいます…50歳Aさんが「遺族年金ゼロ」のワケ

Aさんは、個人事業主の夫と中高生のお子さん2人をもつ4人家族です。本来であれば、月に10万円ほどの遺族基礎年金を受け取ることができます。しかし夫は生前、「俺は生涯現役だから、老後のことを考える必要はない」と、年金保険料を滞納していたのです。

Aさんは、「生活費はきちんともらっていたので、保険などについては任せっきりで……。まさかそんなに滞納していただなんて。悔やんでも悔やみきれません」と目に涙を浮かべ、後悔を口にしていました。

なお、2階部分の「遺族厚生年金」は、亡くなった被保険者の老齢厚生年金、報酬比例部分の4分の3の金額を受給することができます。

こちらは、被保険者に生計を維持されていた遺族に対して支給されるもので、子がいるかどうかは要件に含まれません。

しかし、こちらは故人が厚生年金に加入している第2号被保険者であることが前提です。したがってAさんの場合夫は個人事業主(第1号被保険者)だったため、この遺族厚生年金も受け取ることができません。

では、Aさんは泣き寝入りするしかないのでしょうか。

「死亡一時金」「寡婦年金」…Aさんを助ける2つの措置

Aさんのように、遺族基礎年金を受け取ることができない場合の救済措置として、「死亡一時金」と「寡婦年金」があります。

「死亡一時金は、保険料を納めた月が36月以上あれば、保険料を納めた月数に応じて12万円~32万円が1度だけ支給されるというものです。

「寡婦年金」とは、夫を亡くした妻が、夫が受け取るはずだった老齢基礎年金の4分の3に当たる金額を60歳から65歳までの5年間毎年受け取ることができるものです。ただし、こちらは保険料を納めた期間が10年以上必要で、かつ、婚姻関係が10年以上継続していたこと、生計が同一であったことも要件となります。

また、この死亡一時金と寡婦年金は、どちらか一方のみを受け取ることも可能です。

年金制度は年々複雑に…情報は自分で取りにいく時代

1961年に国民年金制度が創設されてから50年以上が経ちましたが、当時の予想を超えるスピードで少子高齢化が進み、制度は複雑になっています。最近では、国民年金保険料納付期間の5年延長や、第3号被保険者についての改革も話題に上っていて、今後ますます複雑化していく見込みです。

Aさんのように、最愛のパートナーを亡くした悲しみや喪失感に加えて、遺族年金が受け取れないとなると、その後の人生に大きな影響を与えてしまいます。年金制度を正しく理解し、制度の改正などについても自分事として興味を持つようにしましょう。

また、人生100年時代、公的年金制度だけに頼らず、私的年金として自分で老後の生活費を用意していくことも大切です。

自営業者など第1号被保険者であれば、「国民年金基金制度」や「個人型確定拠出年金(iDeCo)」という方法がありますし、会社員など第2号被保険者であれば、iDeCoの他、会社によっては「企業年金制度」も利用できます。これらの制度には税制優遇制度があるため積立時からの節税効果も大きく、ぜひ利用していきたいところです。

情報が溢れている現代は、自分に必要な情報を自分で情報を取りにいかなければならない時代です。

自分が受け取れる公的年金はいくらくらいなのか、そこから逆算して自分でいくらくらい用意すべきなのか、そしてそのためにはどんな制度があるのか……元気なうちにしっかりと調べ、準備しておくようにしましょう。

石川 亜希子
AFP

© 株式会社幻冬舎ゴールドオンライン