「あれっ、年金が少ないような…」通帳記帳した66歳元会社員“振込額30万円”を疑問視。年金事務所で尋ねると…まさかの100万円ゲット!〈忘れられがちな年金〉の正体【FPの助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

会社員であれば長い期間にわたり、厚生年金保険料を納めてきたことでしょう。老後に受け取る老齢厚生年金は、納めてきた保険料に応じて金額が決まる仕組みです。年金の支給が始まる前に、過去の年金記録に漏れがないかを確認している人は多いかと思います、それに比べて、見逃されたり忘れられたりしがちな「年金」があって……。本記事ではAさんの事例とともに、年金のもらい忘れについて、合同会社エミタメの代表を務めるFPの三原由紀氏が解説します。

62歳でリタイア…お金オンチの独身貴族

66歳の元サラリーマンAさんは、現在シングル、結婚歴はありません。首都圏の中高男子校から大学受験をして進学、学生時代は野球同好会に所属していました。いまでも年に数回、当時の野球仲間4人で集まり、ゴルフやコンサート鑑賞などを楽しんでいます。

大学卒業後は、百貨店に就職、販売部門へ配属されたことがきっかけでバイヤーの業務に携わることになります。6年間の百貨店勤務のあとは、外資系メーカー、コンサルティング、通販など多くの職場を渡り歩き、一貫して販売促進に関わる仕事をしてきました。

60歳で一旦定年を迎え、その後は1年単位の雇用契約で働いていましたが、運悪くコロナ禍に突入、会社の業績も悪化し人員整理が行われることに。肩叩きされたわけではありませんでしたが、いったんリセットして、これからの生き方を見つめ直そう、と62歳でリタイアしたのです。

例の仲間からは、独身貴族はいいよな、などと揶揄されましたが、たしかにそうかもしれません。

実のところリタイアできたのは、父親が賃貸しで所有していた2DKのマンションを譲り受け、持ち家を確保できていたことも大きな要因でした。学生時代の仲間の多くは、定年後も住宅ローンが残り65歳になるまではやめられないよ、とぼやいていましたから。築古マンションではありますが、かかるのは毎月数万円の固定費だけなので、小さな贅沢を楽しみながらなんとか暮らしていけています。

そんな折、65歳でリタイアした仲間たちと久しぶりに温泉とゴルフを堪能しよう、と箱根まで足を伸ばすことになりました。温泉で口も緩んだのか、夜の宴会はいつしか年金の話題に移り、良くも悪くもお金に無頓着なAさんは、老齢基礎年金、老齢厚生年金、企業年金と盛り上がる話の輪のなかに入れませんでした。

オレの年金、少なくないか?

帰宅したAさんは早々に通帳の記帳をして年金の振込額を確認しました。一回の振込で30万円ほどなので月額にすると15万円ほど、思ったより少ないことにがっかりしました。しかし、「うーん……。それにしても少ないような」と疑問を感じます。

日本年金機構から通知書が届いたのは知っていましたが、見てももらえる金額は変わらないしね、と家のどこかに放置、いや、ひょっとしたら捨ててしまっていたかもしれません。

探すのも面倒なので、いよいよ年金事務所へ話を聞きに行くと腹を決めました。というのも自分以外の仲間は、しっかり年金事務所に行って相談してきた、と言っていたのです。このままではマズいと焦る気持ちに火がつきました。

年金手帳片手に年金事務所へ…基金代行額が発覚

年金手帳を片手に相談窓口を訪れたAさん。気になっていた年金記録を確認してもらうと、漏れはなく、まずはひと安心です。

次に企業年金について聞いてみました。仲間たちが口々に企業年金があってよかったと言っていたからです。すると、Aさんの「年金見込額回答表」を見ながら『基金代行額13万7,294円(参考)』と記載があるので、くわしくは企業年金連合会に問い合わせてみるようにとアドバイスをもらえました。

企業年金とは、会社が掛け金を負担して公的年金に上乗せする形で支給する年金のことをいいます。いくつか種類がありますが、そのなかでも厚生年金基金などは忘れられがちな年金の1つといわれています。令和3年度からねんきん定期便に基金代行額を含んだ金額が記載されるようになりましたが、国からの支給ではないため注意が必要です。

特にAさんのように転職歴が多く、1つの企業での勤続年数が短い場合、企業年金連合会に年金資産が移されている可能性が高いのです。

嬉しいサプライズ、もらい忘れで100万円が!

Aさんが企業年金連合会に問い合わせると、2つの会社の在職時の厚生年金基金が移換されていることがわかりました。合計13年ほどの加入期間で、年額約32万円に上ります。

1958年(昭和33年)生まれのAさんの場合、本来は63歳から受け取れたことになります。年金の受給権には時効があり、5年を過ぎると原則受け取れないのですが、期限内のため、さかのぼって3年分もらえることになりました。

総額約100万円、そして今後は年額32万円が増額するのですからありがたいものです。「セーフでしたね。期限を過ぎていたらと思うと……。もしあのとき年金事務所に相談に行っていなければ、損してしまうところでした」と、企業年金連合会を案内してくれたことに心から感謝したAさんでした。

転職歴多い人は企業年金のもらい忘れに要注意

Aさんのように転職歴の多い人は、日本年金機構から届くねんきん定期便はもちろんのこと、企業年金の加入歴を確認することで年金額が増えるケースが散見されます。

ただし、勤務先の会社に企業年金があったのか覚えていないと、もらい忘れの事態に陥ることも。年金は請求の手続きを自らしないと受け取れません。

もちろん、企業年金連合会は支給開始時期になると請求手続きの案内を送付していますが、請求をしていない人が令和5年3月末時点で実に107万7,000人もいるのです。そのうちの6割以上は案内が届いていないからだと言います。転居などで住所不明になったり、結婚して姓が変わったりが主な理由のようです。

せっかく保険料を払ったのに、手続きを怠ったせいでもらえないというのも余りにも残念です。年金記録を調べるときは、過去の勤務先の企業年金についても調べておきたいところです。

三原 由紀

合同会社エミタメ

代表

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