三山凌輝が考える『虎に翼』が支持される理由 直明の役作りは「もし僕がこの時代にいたら」

戦争が終結し、第10週より新章に突入したNHK連続テレビ小説『虎に翼』。岡部たかし、上川周作、仲野太賀と猪爪家の男性たちを演じた役者陣が次々と退場していく中で、彼らと入れ替わるように本作に登場したのが猪爪直明役の三山凌輝だ。BE:FIRST RYOKIとしてのアーティスト活動と並行して役者としても活躍中の三山。2023年放送のNHKドラマ『生理のおじさんとその娘』の好演が本作の直明役にもつながったという。初の朝ドラ出演で三山は何を得ているのか。じっくりと話を聞いた。

◯「もし僕がこの時代にいたら」から始まった役作り

――初めての朝ドラ出演となりました。決まった際はBE:FIRSTのメンバーからお祝いの言葉はありましたか?

三山凌輝(以下、三山):最初に会ったときに、「朝ドラ俳優じゃん!」と言われました(笑)。そういうラフな感じで、すごく応援してくれています。撮影中にLIVE公演があったんですけど、忙しくて1回しかリハーサルに参加できないときもあって。でも、そのリハーサルに行ったら皆がいつも通り変わらなく接してくれて、ありがたい関係だなと思いましたし、それが僕たちの良さでもあるなと。グループとして変わらずにいてくれる。帰ってくる場所があるというのは、自分の中で新しい感覚でした。僕は俳優としてずっと1人でやってきたので、それが本当に嬉しくて、特別な存在だなと思いました。

――三山さんが演じる直明という人物をどう捉えていますか?

三山:自分の気持ちはあるけれど、それを人のために押し殺すことができる。でも、それは若さゆえのことで、本当にいいことかどうかはわからなくて。そんな直明が成長する瞬間も描かれているので、この作品は直明にフォーカスすると“まだ人間としての成長段階にある青年の物語”でもあるのかなと思います。直明は曲がってもいないし、ただ素直。家族からすごく愛情を受けている。それは僕も同じなので、本当にそのままの自分で飛び込めるなと思いました。人間を疑わないし、人間のことも好きだし、人間と接することも好き。心をえぐられるようなトラウマもなかったけれど、戦争によって「楽しく素敵な人生を送ってるだけじゃダメなんだ」「自分は幸せだったんだな」と初めて考えさせられる。僕にもそういう瞬間があったし、直明はすごく幸せな人間なんだと思います。

――直明を演じる上で心がけたことを教えてください。

三山:根本的な熱量や素直さみたいなものは僕とすごく似ているので、そういう“いいところ”はそのまま直明に出したいなと思っていました。あとは、自分のやんちゃな部分を一旦削ぎ落として(笑)、役に注ぎ込むような感じでした。直明は自分に近い部分がたくさんある役でしたし、衣装を着ることでだいぶ意識も変わるので、「もし僕がこの時代にいたら」というところから役作りを始めました。

――昭和の男性を演じるにあたって、意識していることは?

三山:今っぽい言葉は避けています。(両手を合わせる動作をしながら)「いただきます」とか、昔はやらないんですよね。常に所作指導の先生がいらっしゃるので、みんなで質問しながら、なるべく無駄な動作はしないように。今っぽさを削っていくことで、いい意味で質素感が出るのかなと。あとは、少しゆっくり喋るようにしています。

――早口になりがちですか?

三山:はい、僕はラッパーでもあるので(笑)。

――そうですよね(笑)。直明の初登場シーンが、最初の撮影だったのでしょうか?

三山:そうですね。正直、初日は本当に緊張しました。他の家族はみんなずっと一緒に撮影されていたので、いやこれ、自然とプレッシャー?みたいな気持ちもありましたけど(笑)、もう猪爪家のスーパー俳優さんたちにすべてお任せしようと。僕はただ、その場で自分なりの“久々に帰ってきた直明”を演じて、あとは何も考えずに受けの芝居をしよう、という気持ちでした。実際、みなさんがはじめましての僕に抱きついて泣いてくれるんですよ。すごいなと思って、あの感動は未だに忘れられないです。

――座長である伊藤沙莉さんの印象はいかがですか?

三山:人として、すごく素敵な人だなと思いました。気さくで、自分自身を飾らなくて、すごく親しみやすい方です。沙莉さんのお兄さんであるオズワルドの伊藤(俊介)さんが僕たちのファンだという話をしてくれたりして、最初から盛り上がりました。うちの母親は沙莉さんのファンで、出演されていた舞台『パラサイト』も2回も観に行っていたので、そんな話もしながら。本当に笑顔が素敵ですし、お芝居は言うまでもありませんし、圧倒されています(笑)。

――(笑)。制作統括の尾崎裕和さんは「三山さんは花江の息子たちを演じる子役の2人といつもわいわい楽しそうに喋ってる」とお話しされていましたが、子どもたちとのエピソードはありますか?

三山:めちゃくちゃありますよ。なんなら、子どもたちとのエピソードしかないんじゃないかっていうくらい(笑)。毎回「直明兄ちゃん、食堂行くぅ?」と言われて3人で食堂に行くんですけど、3人とも丸坊主じゃないですか。だから3人並んでご飯を食べていると、ちょうど座高が携帯のアンテナみたいな感じになるんですよ。「階段だね」と周りからクスクス笑われて、恥ずかしいなと思いながらパッと下を見たら、3人とも同じカレーを食べていて「なんだこのショートコントは!」って(笑)。たまに他のキャストも巻き添えになっていますけど、基本は坊主3人衆で毎日食堂にいる、というのが有名になっていたらしくて……恥ずかしいです(笑)。

◯三山凌輝が考える脚本・吉田恵里香の凄さ

――三山さんは2023年にも吉田恵里香さん脚本の『生理のおじさんとその娘』に出演されていますが、あらためて吉田さんが手掛ける脚本の魅力を聞かせてください。

三山:『生理のおじさんとその娘』もそうでしたが、攻めたテーマの脚本を書かれているイメージがあって、それでいて世間からも共感を得れるような台本に仕上げられるところが天才的だなと思います。今回もそうですけど、知識がないと書けないものってたくさんあると思うんです。でも、この前ご本人に直接お聞きしたら、「勉強しながらなんとか書いてます」とおっしゃっていて。勉強しながらなんとか書いている、というようなクオリティではないじゃないですか。僕は未だに腑に落ちないんですけど(笑)。得たばかりの知識をどう活用するか、台本に落とし込むかを考えて、このクオリティに仕上げられてしまうことが本当にすごいなと思います。

――その中で、今作はなぜ面白いのか。三山さんはどう分析されますか?

三山:僕も「なんで面白いんだろう?」とすごく考えました。まず脚本の吉田さんが天才であることは間違いないですし、一緒に制作されている方々も本当に素晴らしいチームですし、(物語に)綺麗ごとだけじゃない人間味がある。人間の泥臭い部分だったり、矛盾している部分が、ニュアンスで伝わるようにすごく上手に落とし込まれているなと感じます。それに、ドラマのテーマにもなっているようにいろんな部分が描かれていますけど、それって一周回って現代社会においてもすごく大きなトピック、テーマでもあるじゃないですか。なので昭和の時代と今が結びついていて、他人ごとではない感覚で捉えられるというのが、この作品にみなさんが共感する理由なのかなと思いました。

――本作を通して様々な経験をされたと思います。役者としてではなく、人として学びになったことはありますか?

三山:やっぱり、優しさを持つことは大事だなと思いました(笑)。今は生きづらい世の中ですし、都会ではみんな歩くのも速くて、なぜかわからないけどセカセカしている。その中に僕も気づいたら溶け込んでいて、セカセカしたりイライラしたりすることもあるけど、ふと『虎に翼』の現場に入って直明になると、スッと気持ちが落ち着くというか、デトックスされる瞬間があるんです。そんなに怒る必要もないなとか、そんなにセカセカする必要もないなって、気持ちの部分でもリラックスできているのかなとすごく感じます。

――第14週以降、直明が物語のキーパーソンになっていきます。

三山:第14週に僕とお姉ちゃん2人のシーンがあって、僕にとっても作品にとっても大事な場面だったので神経を使いましたし、すごく印象的でした。そのときに、いつもお姉ちゃんを全肯定していた弟が、ちょっと物申すというか。その空気感は、本当にその場で出た“生”の空気感でしたし、長回しで直明がずっと語り掛けるようなシーンはなかなかないので新鮮でした。「今後のお姉ちゃんの人生の考え方に響いてくる」という思いがあったので、すごく大事にしましたね。

――緊張されたと思いますが、手応えは?

三山:その日は事務所の人やいろんな人が見に来ていて、モニターをずっと凝視されていたので、「やめてくれよ」みたいな(笑)。すごく緊張しましたけど、終わったときに日頃から芝居のダメ出しが厳しい事務所の方から初めて本気で褒められたので、「ふだん、そんなこと言わないじゃん!」と思いつつ、すごく嬉しかったです(笑)。監督も「すごく良いシーンだった」と言ってくださったので、僕もオンエアを楽しみにしたいなと思っています。

(取材=石井達也)

© 株式会社blueprint