『虎に翼』三山凌輝の“純度の高い正論”が心を動かす 多岐川の熱い胸の内が明らかに

『虎に翼』(NHK総合)第55話にて、寅子(伊藤沙莉)は多岐川(滝藤賢一)たちとともに東京家庭裁判所を設立させる。合併を困難にさせていたのは、少年審判所所長・壇(ドンペイ)と家事審判所所長・浦野(野添義弘)の猛反対。1月1日には家庭裁判所を発足させなければならないが、時はすでに12月。彼らを説得できずにいた寅子に、一縷の望みが目の前に現れる。それが弟・直明(三山凌輝)の存在だった。

大学生になった直明は東京少年少女保護連盟というボランティア団体に所属していた。グループの活動は、戦争で親を亡くした子供たちと遊んだり、相談に乗ったりすることで、その手本となったのがアメリカのBBS運動という、非行青少年たちの保護と更生を目的とした学生によるボランティア活動。それを日本に初めて取り入れたのが、多岐川だった。

そんな縁もあり、寅子は家庭裁判所の発足を直明に賭けてみることにした。キラキラとした澄んだ瞳で見つめる真っ直ぐな眼差し。毎日一緒に暮らしている寅子や花江(森田望智)、はる(石田ゆり子)でさえ、うっとりしてしまうような純真さが直明にはある。

直明は、グループの活動を聞いてほしいと、家庭裁判所設立準備室に仲間たちとやってくるが、結果的に壇と浦野をも和解させてしまう。見ている方向は一緒なのだと。多岐川は口を抑えて感動し、“発芽玄米”ことあの小橋(名村辰)でさえも目を潤ませている。その要因となっているのは、純度の高さ。桂場(松山ケンイチ)が言っていた、見栄や詭弁が混じっていない正論だ。直明のキラキラは効果音で増長されているものの、演じる三山凌輝自身が持っている純真さも芝居の上に乗っかっているようにも思える。それは『あさイチ』(NHK総合)出演時に水餃子作りにハラハラドキドキしながらチャレンジしていた様子からも見てとれる。

大晦日、家庭裁判所の事務所設立の準備が進められた。寅子や多岐川、汐見(平埜生成)たちだけでなく、猪爪家や東京少年少女保護連盟の学生たちの面々も手伝っている。直明のグループには女子の姿も。思わず花江が「いい仲の子はいるの?」と尋ねるも、「みんなと仲いいよ」と直明はどこまでも純真だ(寅子に似ている部分でもある)。

最後の仕上げに多岐川が持ってきたのは、1枚の絵画。壁にかけられたのは、花岡(岩田剛典)の妻・奈津子(古畑奈和)の作品だ。半分にしたチョコレートを分け合う大人と子どもの手は、花岡家が笑顔になれた瞬間を表している。弔いも兼ねて有志で桂場が相当数の絵を購入していた、その中の1枚だ。「法律っちゅうもんはな、縛られて死ぬためにあるんじゃない。人が幸せになるためにあるんだよ」「法を司る我々は彼の死を非難して怒り続けねばならん。その戒めにこの絵を飾るんだ」と多岐川は愛の裁判所として、家庭裁判所があるべき姿を寅子たちに説く。それは除夜の鐘が鳴り響く頃だった。

一升瓶を抱いて眠る多岐川を横目に、寅子たちは汐見から多岐川の素顔を知ることになる。彼が家庭裁判所の設立準備に邁進する理由には、朝鮮から引き揚げて上野駅に降り立った時に、戦争孤児たちから差し出された手に何もしてあげられることがなかったことにあった。死刑執行のトラウマから凶悪事件を受け持たなくなっていた多岐川が、子供たちを幸せにするために残りの人生を全て捧げよう、未来に種を蒔く仕事をしようと決めた瞬間だった。少年や相談者の生活に目を向けることが、やがて社会の平和、未来の平和に繋がっていく。

昭和24年1月1日。「東京家庭裁判所」と書かれた半紙が入り口に貼られた。「この光景をどうしても君たちと一緒に見たかったんだ」と多岐川が笑う。家庭裁判所が生まれた初めての朝。それはつまり、寅子が桂場と交渉した家庭裁判所が設立された暁には今度こそ裁判官にしてほしいという約束が果たされるということでもある。
(文=リアルサウンド編集部)

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