「父を殴った原告の気持ち 今なら分かる」 聴覚障害のある女性が法廷で語った強制不妊手術のつらさ

旧優生保護法下で不妊手術を強制されたのは違憲だとして、福岡県内の聴覚障害を持つ70代夫婦が、国に損害賠償を求めている第2次福岡訴訟。

13日、福岡地裁で行われた弁論で、自身も聴覚障害があり夫婦と親交がある女性が法廷に立ち、「深い悔しさと他の人には言えないつらさがある」と、当時聴覚障害者がおかれた状況を語りました。

70代の夫婦「強制不妊手術は違憲」と訴え

この裁判は、ともに聴覚障害がある福岡県内の70代の夫婦が、旧優生保護法の下、夫が不妊手術を受けさせられたのは憲法違反にあたるとして、国に対し1人あたり2000万円の損害賠償を求めているものです。

13日、福岡地裁で開かれた弁論で、原告夫婦の補佐人を務める吉野幸代さん(50代)が意見陳述を行い、原告らが不妊手術を受け入れたのは「旧優生保護法に基づく優生思想が学校教育の中で広められ、聴覚障害者が健常者に従うべきと教育されていた」社会背景があったと指摘しました。

吉野幸代さん(50代)の意見陳述

吉野さんは聴覚障害のある両親のもと育ちました。自身も聴覚障害者で、現在は福岡市でろうあ相談員として働いています。

原告夫婦とも親交がある吉野さんは、小学1年の時、自身の父親が原告である夫から殴られているのを目撃しました。

きっかけは、父が原告の夫に対し言った「子供を作ったらいい」という一言だったといいます。

吉野さんは法廷で、「今になって初めて、原告が父を殴った理由が理解できた」と述べ、不妊手術を強制されても受け入れざるを得ず長い間声をあげることができなかった当時の社会背景と原告の気持ちを代弁しました。

吉野幸代さん(50代)

「原告が不妊手術を受けさせられたことに対する深い悔しさと他の人には言えないつらさが、その行動の背景にあったのではないか。そして現在も、多くの聴覚障害者が不妊手術の被害を訴えることができない現状にあります」

第1次福岡訴訟 福岡地裁は国に賠償命令

聴覚障害のある80代の夫婦(夫の死後は親族が訴訟を引き継ぐ)が旧優生保護法の下、夫が不妊手術を受けさせられたのは違憲だとして国に賠償を求めた裁判では、福岡地裁が、手術を「違憲」と認めました。

その上で、不法行為から20年を過ぎると損害賠償を求めることができなくなる「除斥期間」の規定を適用せず、国の責任を認めて約1600万円の賠償を命令しました。

「偏見や差別を解消するための一歩となる判決を」

6月13日、第2次訴訟の裁判で意見陳述した吉野さんは、「1次訴訟の判決を踏まえたうえで、裁判所が原告の訴えを退けることは、差別を覆い隠すことに他ならず、今回の裁判においても、障害者に対する偏見や差別を解消するための大きな一歩となる判決を出してほしい」と訴えました。

国側は「不妊手術を受けたこと証明されていない」

70代の夫婦の訴えに対し、国側は、「原告が不妊手術を受けたことが証明されていない」と主張していて争う方針を示しています。

強制不妊手術 最高裁大法廷が7月初判断へ

旧優生保護法下の強制不妊手術をめぐっては、東京・大阪など5件の訴訟で高裁判決が出され、いずれも「憲法違反」と判断しました。一方、除斥期間については、5件のうち4件が適用を制限し国に賠償を求めており、司法の判断が分かれています。

この5件の訴訟について、最高裁大法廷が7月3日に判決を言い渡す予定で、どのような統一判断を示すのか注目されます。

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