舘ひろし 「俳優にとって一番大事なのはカメラが回っていない時」演じる以上の生き方を語る

芸歴48年、ダンディー俳優の代表格として名を連ね続ける舘ひろしが、対談番組『夜明け前のPLAYERS』に出演。MCの成田悠輔を相手に独自の演技論を披露した。2018年のモントリオール世界映画祭でワールド・コンペティション部門最優秀男優賞に輝き、2020年には、国家または公共に対する功労者に贈られる旭日小綬章をも受章した舘。しかし本人は「芝居は未(いま)だにうまいとは思っていない」と言う。その根底には、演じること以上に生き方にこだわってきた舘のスタイルがあった。

舘は1975年、原宿・表参道を拠点とした硬派バイクチームの選抜メンバーで結成されたロックバンド「クールス」のボーカルとしてデビューした。翌年には映画『暴力教室』で俳優としてのキャリアもスタート。80年代には、人気テレビシリーズ『西部警察』や『あぶない刑事(デカ)』に主要メンバーとして出演。スタイリッシュな風貌と演技で“日本で一番ダンディーな俳優”と呼ばれ、70代半ばになった現在もその座を奪われることはない。

「芝居はあまりうまくなってはいけない」 渡哲也の存在感を受け継ぐ

そんな舘に成田が「演技で一番大事なことは何だと思われますか」と問うと、「(僕は)俳優としてはそれほど優秀じゃないと思うんですよ」と意外な答えが返ってきた。それは単なる謙遜ではないようだ。

ひとつに「僕は俳優としてというよりも、ものを作るのが好きなんですね。だから、お芝居にあんまり興味がないと言うか、お芝居が好きで俳優でいるというのではないんです」という思いがある。映画を作るプロセスが好きで、その中で自分が関わったのが演じるという側面だったと言うのだ。

もうひとつは、芝居がうまい、下手ということへの独自の感覚。舘はかつて渡哲也に「最近おまえ、芝居がうまいぞと怒られたことがあるんです」と、あまりうまくなってはいけないと言われたエピソードと共にその真意を説明した。

「『西部警察』というテレビドラマがあったんですけれども、内容はないし、つじつまは合っていない。でも、波止場で海をバックにした2人(石原裕次郎と渡哲也)が向こうからずっと歩いてくる。それを撮っているだけで“面白かったな”と納得してしまう。その力。2人が持っている存在感の力はものすごかった」

渡に憧れて石原プロに入ったといわれる舘に成田が「その精神を受け継いでいるのか」と問うと、「受け継いでいるのかどうか分かりませんけど、方向としては同じですね」と舘。だからか「芝居は未(いま)だにうまいとは思っていない」と繰り返した。

長セリフを褒められて俳優が喜ぶのは「ちょっと違うと僕は思う」

舘には、若い頃に3行以上のセリフは覚えなかったといううわさがある。「遊ぶのが忙しかったから」と舘自身も認めているが、さらに演じることを意識的に訓練したり、勉強したことは「全くないです」と言い、48年間、芸能界で生き残ってきた秘訣(けつ)を問われると「運でしょうね」と即答する舘。

ひょうひょうとした舘の姿勢に成田は「力の入り処(どころ)と抜け処(どころ)の絶妙な組み合わせ加減が不思議な感じですよね」と一言。すると舘の目に力が入った。

「“すごく長いセリフでしたね”と褒められて俳優が喜ぶのは、ちょっと違うと僕は思うんです。どんなに長いセリフでも、セリフは覚えればいいんですから。一番大事なのは、長かろうが短かろうが、どう表現するのか、どう伝わるのかが一番大事なんじゃないかと思うんです」

また、同時に収録が行われる複数の作品に出演する“掛け持ち”をやらないのも、舘のスタイルだと言う。初めて掛け持ちをやった際、両作品ともダメだったという舘。「どこがどうということではない。作品を観て、こんなことしてちゃダメだなと思ったんです」。それは「役に入り込むとかそういうことではなく、その時の自分の生理というか、もう一つの仕事をしていると何かが違うんですね」と語った。

「最近はつまんないですよね」舘から見える芸能界に成田「気づいたら普通の人よりも真面目な人しかいられない」

そんな舘もかつて、やりたいと思う役に恵まれず、あれをやりたいこれをやりたいと思うのは止めた過去があることを口にした。「思ってもかなわないことのほうが多いですから」。だからこそ「やりたいなと思った役のオファーが来た時はうれしかった」と話す。

俳優という職業は往々にして受動的だ。不安定な業界を自然体で歩んできたように見える舘には「安定していないところがたぶん、俳優にとってはいいんじゃないかなって気がします」という認識がある。人は不安定なものに惹(ひ)かれるがゆえに「エンターテインメントってどこか不安定な要素が必要なのではないかなと思うんですよ」と分析。芸能界で生き続けるための覚悟をのぞかせた。

一方、芸能界の変化も見守り続けてきた舘だ。変化に対してどう感じているかと成田に問われると、間髪を入れず「最近はつまんないですよね。ほんとうに。昔はもっと破天荒でハチャメチャで良かった」と答えた。成田も「芸能の世界って破天荒でハチャメチャな人ばかりというイメージがあったんですが、気づいたら普通の人よりも真面目で清廉潔白な人しかいられないような世界になっちゃった」と同意。

「それで作品がつまらなくなってくるんじゃないですかね」と語る舘に成田は、そうなってしまった理由を問うと「“テレビ”じゃないですかね。みんながすごくいい人になってしまってつまらない。そんな気がします」と舘は歯に衣(きぬ)着せずストレートに答えた。

では「今のテレビ業界や芸能界に喝(かつ)を入れるとしたら?」と斬り込む成田。舘は「全くそういう立場にないんで」と笑いながらも、強いて言えばという風情で「下品な番組作りはやめたほうがいいと思います」と話す。

舘が言う“下品な番組”とは「言葉遣いとか、人に対する態度とか。何をやってもいいんですが、どっかで人間同士のリスペクトみたいなのは必要じゃないですか。それを否定しちゃっていると嫌かな」と穏やかに指摘。ただそれは自分が嫌なだけだから自分の問題だとし「みなさんが、それが面白いと言うならば、それはそれでしょうがないかな」と寛容さを見せた。

収録後、若い俳優にアドバイスをするならばと聞かれた舘は「自由にやりなさい」と短く答えた。それは「俳優という職業は何かを伝えてそうなるものでも、誰かから学んでそうなっていくものではない」という考えからだ。

「僕の中では、カットと言われてから次のスタートまでの間で何をしたかが重要。それは1時間かもしれないし、1年あるかもしれないけれど、その時間がきっと次にフィルムが回った時に出て来るんじゃないかなって気がしています。俳優にとって一番大事なのは、カメラが回っている時じゃなくて、回っていない時だと思うんです」と、生き方そのものを自身に問うことだと語った。

本対談は『夜明け前のPLAYERS』公式HPでノーカット版が、公式YouTubeでディレクターズカット版が配信されている。

「夜明け前のPLAYERS」
公式HP:PLAY VIDEO STORES
公式YouTubeはこちら

写真提供:(C)日テレ

© 株式会社 日テレ アックスオン