佐々木蔵之介だから許せる? 嫌悪を巧みに回避した宣孝【光る君へ】

吉高由里子主演で、日本最古の女流長編小説『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。6月9日放送の第23回「雪の舞うころ」では、藤原宣孝がようやくまひろにプロポーズ。よく考えたら際どい立ち位置にある宣孝を、好感度を落とさずに演じきる佐々木蔵之介の演技に、あらためて称賛が集まった(以下、ネタバレあり)。

ウニを割って食べるまひろ(吉高由里子)を見つめる宣孝(佐々木蔵之介)(C)NHK

■ 「わしの妻になれ」にまひろ呆然、前回のあらすじ

出家した中宮・藤原定子(高畑充希)を忘れられない一条天皇(塩野瑛久)は、どんなに新しい女御が入内しても見向きもしない。定子は女児を出産するが、天皇ができるのは贈り物を届けるのみだった。一方藤原道長(柄本佑)の甥で、東宮の居貞親王(木村達成)は、定子の子どもが男児でなかったことを喜び、自分の皇子を次の東宮にするという野望を、安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)に語っていた。

周明(松下洸平)とまひろ(吉高由里子)を見る宣孝(佐々木蔵之介)(C)NHK

越前では、まひろの父・藤原為時(岸谷五朗)が国の巡察のために国府を留守にするが、その間に藤原宣孝(佐々木蔵之介)がひそかに来訪。宣孝は一段と成長したまひろの姿に感じ入り、自分はこのまま落ち着くかと思っていたが、また新たな未来が見えたとまひろに語る。短い滞在を終えて宣孝は都に戻ることになったが、別れ際に「都に戻ってこい、わしの妻になれ」と、まひろに真剣に告げるのだった・・・。

■ 「こっそり越前に来た宣孝」はフィクション

一条天皇が愛する妻のために皇室の決まりをことごとく破ろうとしたり、今回が初登場の居貞親王(のちの三条天皇)がさわやかイケメンだけど、割と「危ない方向に野心家」な性格だったとか、相変わらず不穏の種が撒かれつづける藤原道長の周辺。もちろんSNSではそれを案じる声が相次いだわけだけど、最後に登場したある人物が、第23回のすべてを持っていったと言ってもいいだろう。そう、藤原宣孝だ。

宣孝がまひろと結ばれ、一児をもうけるのは史実で決まっているルート。それを知っている人々は、彼が少しずつまひろと距離を縮めていくにつれ、いつXデーが訪れるかと、ワクワクハラハラしていたに違いない。史実では、紫式部の越前行き以降、宣孝が激しい手紙攻撃をしかけ、それに根負けした式部が求婚を受け入れた・・・と言われていたが、ここでは「実は宣孝、こっそり越前に来ていた」というフィクションを入れてきた。

宣孝(佐々木蔵之介)から「玄怪録」を受け取り、興奮するまひろ(吉高由里子)(C)NHK

恋愛感情のなかったはずの人に久しぶりに再会したら、思わぬ変化をしていてドキッとして、そのまま・・・という経験は、結構思い当たる人は多いのではないだろうか。すでに宣孝は、太宰府赴任からの帰還時に、大人びたまひろにちょっと色気を出したという経験をしている。それが今回、まひろが越前に行ってしまったことで「自分と対等の目線になって、怒ったり笑ったりする女性」がいないことに、本格的な喪失感を感じたのだろう・・・というのは、ただの推測だけど。

■ 嫌悪を巧みに回避した、佐々木蔵之介の演技力

そうやって少しずつ、宣孝がまひろに「まだまだ生きていたいと思ってしまう」というほどの感情を抱かせるに至るまでを、半年かけて丁寧に描いてきたわけだけど、SNSで数多く聞かれた意見が「これが佐々木蔵之介でなかったら気持ち悪い」だ。派手好きでちょっとお金に汚い初老の男が、20も年下の親戚の女の子に猛アタックをかけて口説き落とす・・・という説明だけだと、確かに若干引いてしまう。

ウニを割って食べるまひろ(吉高由里子)と宣孝(佐々木蔵之介)(C)NHK

ただこれが、どんな善人も悪人も、色男もダメ男もひょうひょうと演じてしまう佐々木だと話は別だ。政治や経済を見る目は非常に的確で有能だけど、「神様から目立つために」と常識外れの行動もあっけらかんと取ってしまう、人間としての振り幅。そしてまひろにアプローチするときの、狼のような鋭さのなかにちょっとした照れが見えてしまうという絶妙な目線も、みずからがプロデュースする舞台などで、あえて難しい役柄に挑戦して技術を鍛えつづけてきた、佐々木の演技の蓄積があってこそだろう。

■ プロポーズのシーンにトンチキBGM!? 視聴者沸く

そしてラスト10秒で、ついに出てきた「わしの妻になれ」という、これ以上はないほど超ドストレートなプロポーズ。第1回から登場してはや幾星霜、ついにこのときが来た!! と視聴者のボルテージが上がったのに反比例するように、流れてきたのは「ブンチャカブッチャ・・・」というおもしろBGM。これにはSNSで「宣孝マジ告白なのにギャグシーンみたいな扱いで笑ってしまった」「危険な恋はエレキギターで安全な求婚はトンチキBGMなの、精神衛生に良い」と、ツッコミめいたコメントが並んでいた。

まひろ(吉高由里子)に「わしの妻になれ」と告げる宣孝(佐々木蔵之介)(C)NHK

お互いを激しく求め合う道長との関係は、非常にロマンチックで刺激的ではあるけれど、これが日常になると疲弊しそうな感じもする。その点宣孝のように、お互いに言いたいことを言いあえて、ちょっと思いが食い違っても「ごめんごめん」で許しあえる関係のほうが、心おだやかでいられるはずだ。ある意味では、最良の道が開けたと言えるまひろだが、一方でそれを知ったときのまひろ強火担・道長の絶望ぶりが、今から大変楽しみ・・・いや心配である。

『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。6月16日放送の第24回『忘れえぬ人』では、宣孝から突然求婚されたまひろの反応と、定子が一条天皇の姫皇子を生んだことで、様々な問題が立ち上がってくるところが描かれる。

文/吉永美和子

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