「こども誰でも通園制度」試行スタート 広島市ではわずか12%の保育園のみ 新たな子どもの受け入れに地域差

親が働いていなくても保育サービスを受けられる「こども誰でも通園制度」は、岸田政権の少子化対策として、6月から試行的にスタートしている。ただ、全国的に保育士は不足しているのが現状で、新制度による新たな子どもを受け入れられるかどうかは、地域によって差があるようだ。問題点を取材した。

専業主婦でも月10時間まで利用可能

「こども誰でも通園制度」の対象は、6か月から2歳までの子どもで、広島県呉市のこども園では、この制度による新たな子どもの受け入れを始めた。

利用料は1時間300円で専業主婦や育休中の人などが月10時間まで利用できる。

制度を利用した母親:
自分が病院に行くときなどは連れていけないので、そういうときに預かって頂けるのは、大変ありがたいです。この制度とは別の「一時預かり」は理由が必要なのでちょっと利用しにくい。今回はどんな理由でもいいということで、利用させてもらえるので助かります。

子どもには、保育士が一人、つきっきりで見守る。これは慣れない場所での事故防止など、命を預かる責任からだという。

認定こども園 わかば幼稚園・花岡美穂園長:
緊張感いっぱいでお迎えしています。初めての園でお昼寝中に亡くなるケースが、とても多いというデータがあります。それを防ぐためにも初日は2時間だけお預かりすることにしています

この園は、園児の定員に空きがあり、保育士の人数に余裕があるため、この制度の参加が可能になった。

石井百恵記者:
私も母親の一人として、あの時あったらと思いました。「こども誰でも通園制度」は、広島県では、6月に呉市、福山市、尾道市でスタート。呉市は保育士に余裕があり、定員に空きがあることから、広島で最も多い23園が参加している一方、7月にスタートする広島市では312ある保育園のうち、参加はわずか12%の39園で、その理由はやはり保育士不足ということです。

保育士不足が深刻な地域では受け入れが難しい

300人を超える園児が在籍する広島市の認定こども園は、「こども誰でも通園制度」に参加したいと考えていたが、今回はやむをえず取りやめたという。

認定こども園みみょう幼稚園・三上玲子園長:
初めて来るお子さんですから、やはり新しい環境の中で、しっかり慣れていただくためにも、保育士が、より丁寧にしっかりついて差し上げたいのですが、そのためには、今の職員やスタッフだけではどうしても足りない。準備は間に合わなかったなと思っています

広島市では、慢性的な保育士不足が続いている。2023年に開かれた保育士就職説明会を取材したが、広島市の園の多くが、今回制度参加に手を挙げなかった理由を「ただでさえ人が足りていない中、始められない」と回答した。

石井記者:
広島県の保育士不足は深刻で、保育士の有効求人倍率は4.98倍と全国平均の2.42倍の2倍以上、人が足りていません。こうした中、専門家からは、この制度自体は評価しながらも、新しく入る子どもたちに人手を取られ、在園児の保育の質が落ちることを懸念する声があがっています。

保育の質が維持できるかどうかが問題

比治山短期大学幼児教育科・七木田方美教授:
保育者のことが、もっとも後回しになっているのが気になります。保育園は、子どもを預かるだけの託児所ではありません。子守りではなく、養護と教育が一体となって展開される「子どもの自己実現」の場。「こども誰でも通園制度」が始まると、新しく来た子どもたちに、どうしても保育者の手が取られてしまい、園児にとっては、毎日来ている僕たち私たちが置き去りにされる気持ちになるのでは。保育者が毎日積み重ねてきた在園児一人ひとりに合わせた保育が、一時的に崩れてしまうので、本当に「こどもまんなか」になっているかちゃんと考えないといけないと思います。

石井記者:
七木田教授の指摘は、新しく入る子どもは、在園児とは別の部屋で保育ができるとか、保育士に余裕があるといった環境が整えばいいが、それができない現状では、さまざまな問題があるのでは…という意見です。

地域コミュニティ全体で育児という考え方も

石井記者:
また海外では、地域で協力して、子どもを育てる仕組みが整っている場所もある。ニュージーランドの「プレイセンター」は、保育園とは別に地域で公的予算を使って親が運営し、親子で訪れ交流する場で、ここでできた人間関係の中で余裕があれば、ちょっと預けてお互いに助け合うこともできる。七木田教授も実際に利用したことがあるそうだ。

コメンテーター:JICA中国・新川美佐絵さん:
実際に保育園などで子どもを育てた経験があるシニア層の方の力を借りたり、外国人の住民の方でも参加できる、ボランティアベースとか、新しい仕組みが出来ていくと面白いと思います。

石井記者:
「こども誰でも通園制度」は今はあくまで試行期間で、正式には2026年度から全国でスタートの予定。この試行期間中にさまざまな議論を重ねて、課題を浮き彫りにし、制度の改善に役立てることが必要だ。

(テレビ新広島)

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