Mrs. GREEN APPLE、乃木坂46との対バンで全身全霊のステージ ポップスターの貫禄見せた横アリ公演

5月21日、22日の2日間にわたって、Mrs. GREEN APPLE主催の対バンライブ『Mrs. TAIBAN LIVE 2024』が横浜アリーナで開催された。この記事では、乃木坂46を対バン相手として迎えた21日の公演の模様を振り返っていく。

数カ月前、今回の対バン相手の一組が乃木坂46であると発表された時、驚いた人はきっと多かったと思う。乃木坂46がロックバンドと共演するケースは非常に稀。また同じように、単なる共演ではなく“対バン”という形式のライブは、彼女たちにとって馴染みが少ないものである。観る前は、今回のミセスと乃木坂46の対バンがどのようなものになるか想像がついていなかったが、はじめに結論から書いてしまえば、相手への愛とリスペクトを胸に、それぞれが自分たちの全力を真正面からぶつけ合うような非常に熱い一夜になった。

先攻は乃木坂46。オープニングナンバーは、昨年末の『第74回NHK紅白歌合戦』で披露された「おひとりさま天国」(センター:井上和)だ。立て続けて、乃木坂が誇るサマーチューン「ガールズルール」(センター:賀喜遥香)、「裸足でSummer」(センター:岩本蓮加)を披露。ステージの中央から伸びる花道&その先端のセンターステージを行き来しながら爽やかなポップフィーリングを振りまき、会場全体の一体感と高揚感を瞬く間に高めていく。そうした姿に、彼女たちのトップアイドルとしての矜持とエンターテイナーとしての強さを感じた。

続けて、乃木坂46が誇るクールな一面を伝える楽曲が次々と披露されていく。「Monopoly」(センター:遠藤さくら&賀喜遥香)では、麗しい気品に満ちた流麗なダンスで魅せつけ、しなやかさと逞しさを帯びた「シンクロニシティ」(センター:梅澤美波)では、ラストの梅澤の振り向き際のクールな表情に大きな歓声が上がる。エッジの効いたダンスナンバー「制服のマネキン」(センター:井上和)、情熱的なフィーリングを伝える「ごめんねFingers crossed」(センター:遠藤さくら)のパフォーマンスも圧巻だ。

続くMCパートでは、五百城茉央が、小中学生の時から聴き続けてきたミセスの楽曲への深い愛を語った後、先日、5期生の番組『超・乃木坂スター誕生!』(日本テレビ系)で大森元貴(Vo/Gt)と共演した時のエピソードを明かした。川﨑桜は、5期生のメンバーでミセスのライブを観に行った際、大森の第一声で心を掴まれた体験を振り返り、大森からの「特別なことはしていない。その時の100%を出せたら100点」というアドバイスを受けたことで、それまでと比べて歌を歌うことを楽しめるようになったと語った。それぞれのメンバーが自身の言葉でミセスへの愛や感謝、リスペクトを伝えた後、ミセスの楽曲「春愁」を、この日のために振り付けが施されたダンスを交えてカバーするという嬉しいサプライズが届けられた。この日限りの特別な展開はさらに続く。「きっかけ」では、大森とのコラボレーションが実現。乃木坂46のメンバーが歌うことを想定したキーであるにもかかわらず、大森の歌は、伸びやかで高らかな響きを放っていて、Cメロにおける大森と久保史緒里のハモりの美しさに深く惹き込まれた。

乃木坂46のパートは、ここからクライマックスへ突入。賀喜が「皆さん、私たちのこと好きになってくれましたか?」と眩しい笑顔で会場に問いかけ、それに応えるようにして、「好きというのはロックだぜ!」(センター:賀喜遥香)で会場中でタオル回しが巻き起こる。続く「帰り道は遠回りしたくなる」(センター:与田祐希)では、アップリフティングなビートを追い風にして、まだ見ぬ未来へ向けた晴れやかな予感が歌い届けられていく。ラストナンバーは「Sing Out!」。会場全体から巻き起こる壮大なクラップを受け、乃木坂が誇る慈愛と調和のフィーリングがアリーナに広がっていき、温かくピースフルな一体感が広大な会場を優しく満たしていく。全12曲、乃木坂46の真髄を凝縮して伝えるような素晴らしいステージだった。

転換の時間を経て、ミセスが登場。大森が「いけるか!」と会場を力強く煽り、1曲目の「ANTENNA」へ。若井滉斗(Gt)と藤澤涼架(Key)の鮮やかに光るプレイによって、熱く昂る重厚なロックサウンドに奥行きと深み、彩りが加えられていき、大森はそのサウンドを軽やかに乗りこなしながら、強靭なロングトーンやしなやかなフェイクを交えた歌を広大なアリーナに高らかに響かせていく。自ら手拍子をしながら会場の熱狂を指揮していく大森の姿は、軽やかな余裕すら感じさせるもので、これまで幾度となく大舞台に立ち続けてきた彼らが放つ堂々たる風格に痺れた。

続く「ナニヲナニヲ」においても、激烈なバンドサウンドとエモーショナルな歌を通してロックバンドとしての熱き気概を示し、その後には、「久々の曲やります!」という大森の言葉を添えて初期のナンバー「SimPle」が披露されるという驚きの展開も。久々にライブで披露された楽曲ではあるが、イントロから一際大きな歓声が客席から巻き起こっていた。先ほど乃木坂のメンバーがミセスの楽曲への思い入れや思い出を語っていたように、きっと多くの観客も、長年にわたりこの曲に背中を押され、励まされ、奮い立たされ続けてきたのではないかと想像した。また、大森が歌い届ける〈この世は終わっちゃなんかいない〉〈この世は終わっちゃなんかいけない〉という希望のメッセージ、不条理な現実に抗おうとする意志は、近年のミセスの楽曲にも通底するもので、改めて、このバンドの芯の揺るぎなさを感じた一幕だった。

中盤のハイライトを担ったのが、今年リリースされた新曲の一つ「ライラック」だ。若井が「ミセス史上最高難易度」とされるギターフレーズをクリーントーンで華々しく奏で、大森が「本気でいこうぜ」と再び観客をアジテートする。その呼びかけを受けて会場全体に巻き起こった熱狂は本当に凄まじいもので、この曲のライブ披露がいかに多くの観客に待望されていたかが伝わってくる。感動的だったのはアンセミックなコーラスパートだ。〈あの頃の青を/覚えていようぜ/苦味が重なっても/光ってる〉〈割に合わない疵も/認めてあげようぜ/僕は僕自身を/愛してる〉という言葉は、まさに、ミセスの音楽を聴きながら年を重ねて大人になっていく観客の想いと重なり得るもので、だからこそ、ライブの場で合唱が巻き起こった時の感動はより一層深いものになる。

そして続けて、〈あの頃の青〉、つまり青春の季節を象徴する代表曲「青と夏」が届けられた。大森は、〈主役は貴方だ〉と叫び、マイクをフロアに向けて観客の歌声を引き出し、曲のラストでは、観客を指差しながら〈君らの番だ〉と力強く歌い上げた。「ライラック」と「青と夏」の2曲は、今まさに青春の季節を生きている人、その先の季節を生きている人、これから青春を謳歌しようとしている人をはじめとしたあらゆる人々の人生を祝福するもので、改めて、ミセスが放つメッセージの普遍性と射程の広さを強く感じた。

その後も、まるでハイライトの連続のような展開が続く。「Loneliness」「Feeling」を通してミセスが誇る多彩な表現力を見せつけた後に届けられたのは、讃美歌のような眩い輝きを放つ壮大なバラード「Soranji」だ。一縷の希望を懸命に手繰り寄せながら、この世界は生きるに値するという深い確信を歌う。そして、〈貴方〉への〈だから生きて、/生きてて欲しい。〉という切実な願いを届け、最後には〈我らは尊い。〉という絶対的肯定に満ちた結論へと向かっていく。まさに同曲は、根源的な歌の力を感じさせる深淵な楽曲であり、また、その壮大さに負けない大森の歌唱とバンドアンサンブルの強靭さに直で触れ、強く心を震わせられた。

続けて、この日ライブで初披露された(当日時点の)最新曲「Dear」も素晴らしい名演だった。時におおらかに、時に力強く躍動するビート。その昂りを受けて次第に広がっていくスケール。ロックオペラのように次々と展開していく同曲は、悔しさ、悲しみ、痛みを伴わざるを得ない私たち一人ひとりの人生の歩みを表しているかのよう。そして、その中を鮮烈に貫くように響くのが、輝かしい生の実感が滲む〈私は今日も生きてる〉という言葉だ。思わず息を呑むほどの圧巻のライブパフォーマンスで、今後この曲は、「Soranji」のように、ライブにおいて重要な役割を担う楽曲になっていく予感がした。

いよいよ、ライブは終盤戦へ。「Magic」でこの日の熱狂のピークを更新した後、短いMC(大森は、乃木坂46のライブにおけるMCパートの安定感に驚いたと語っていた)と10月のKアリーナ横浜での8公演に及ぶ定期公演『Mrs. GREEN APPLE on “Harmony”』の発表を経て、次が最後の曲であることが伝えられる。披露されたのは、乃木坂のデビューシングル曲「ぐるぐるカーテン」のカバー(サビのみ)で、この粋な計らいに会場から大きな歓声が飛び交った。大森は、「間違えちゃった」「普通に俺の好きな曲歌っちゃった」と溢した後、「乃木坂46さん、ありがとうございました」「みんなも乃木坂にお礼言っとこう」とミセスのファンに促し、フロアから大きな「ありがとうございました」の言葉が届けられた。こうして乃木坂へのリスペクトと感謝を伝えた後、この日のライブは、真のラストナンバー「ケセラセラ」で晴れやかな大団円を迎えた。

はじめにも書いたように、ミセスと乃木坂46が自分たちの全身全霊のパフォーマンスをぶつけ合う非常に熱い一夜だった。また、お互いが主戦場とするフィールドは違えど、時代と手を取り合いながらポップスターとしての役割を堂々と引き受ける両者の共通点が浮かび上がった一夜でもあったように思う。今後の展開についてはまだ分からないけれど、いつか再び2組の共演が実現する時が来ることを期待したい。

(文=松本侃士)

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