西日本豪雨でホタルが消えた町 6年を経て復旧した護岸と、地域住民の心を照らす「ほたる祭り」【広島発】

「土砂災害で姿を消したホタルの代わりに…」と作られた“竹あかり”。2018年7月の西日本豪雨から、もうすぐ6年。災害やコロナ禍を経て復活した「ほたる祭り」が地域をにぎわせ、竹あかりが灯された。

災害から6年を経て、護岸の整備完了

広島市安芸区を流れる熊野川は、市内でも有数のホタルの鑑賞スポットだった。

しかし、2018年7月に起きた西日本豪雨によって大きな被害がもたらされた。熊野川の護岸が崩れ、一部で川が決壊。かつてのように多くのホタルが飛び回る姿は見られなくなくなった。

災害から6年を経てようやく護岸の復旧工事が完了したが、整備されたばかりの真っ白な護岸は、まだ自然の風景になじめていない。

ほたる祭り実行委員で防災士の下條孝志さんは「自然がある所とない所がはっきりしているので、ホタルが出るのは自然がいっぱい残っている所でしょうね。護岸がまた崩れないように補強することは大事なことだが、かと言ってホタルがいなくなっても困るし…」と複雑な心境を語り、整備された護岸を見つめた。

地域とホタルの強いつながり

地域の人々にとってホタルは特別な存在だ。

ホタルの保護事業として災害前から毎年、地元の小学校の児童たちがホタルの幼虫を育て、川に放流。災害後も活動は続いている。川土手を自転車で走る子どもたちに「川にホタルの幼虫を放したりする?」と聞くと、「4年生でするよ」と元気な声が返ってきた。

このような地道な取り組みが実を結び、災害で姿を消したホタルは徐々に川に戻ってきている。災害やコロナ禍で中止になっていた阿戸町の「ほたる祭り」も2023年、5年ぶりに復活した。
2024年は6月8日に開催され、あいにくの空模様だったが祭りは大にぎわい。かき氷やフランクフルトなどの屋台が並び、楽しそうに買い物をする子どもたちの姿も見られた。

ーーお祭りは楽しい?
「はい。楽しいです」

長きにわたるコロナ禍で町民同士のつながりが希薄になっていく中、子どもたちの笑顔が見たいと立ち上がったのは地域の大人たちだった。

ほたる祭り実行委員会・阿戸おやじの会の佐々木懸太会長は「子どもたちの笑顔が楽しみで僕たちもやっているので、こうやってみんなが楽しんでいる姿を見るとやって良かったなと思います」と話す。

祭りの夜に、雨の中を舞うホタル

祭りが始まって2時間が経った午後7時過ぎ、雨が激しくなってきた。しかし人々が帰る様子はない。傘をさし、雨の中でも祭りの盛り上がりは続いた。

そして暗くなると、会場に飾られた「竹あかり」の光が闇に浮かび上がった。
土砂災害でいなくなったホタルの代わりに思いついたのが、竹あかりだった。地元の有志らが地域の竹を使って手作り。竹の中にろうそくを仕込んだ竹あかりは雨のために消えてしまったが、LEDの竹あかりは独特な輝きを放っていた。

竹にいくつも穴を開けて曲線や花模様を描き、そこから光がこぼれている。「HAPPY」などメッセージが彫られている竹もあった。
メッセージをみた人たちも「HAPPY?」「ほんとだHAPPYって書いてある。すごいね」と感動していた。

竹あかりの先に、ホタルの観賞スポットがある。川沿いに続く真っ暗な道。しかし、この土砂降りの雨の中でホタルは現れるのだろうか。

「今、光った!あそこにいるよね」「2匹くらいいる!」と子どもたちの話し声が聞こえてきた。

「あそこ!今、飛んでいる」
「ほんとだ!あっちも光った」
「ホタルが見られてよかった」

雨にもかかわらずホタルは舞っていた。はかなくも、確かな明日を照らしてくれる灯火。災害から6年、以前の町を取り戻そうとがんばってきた人々をねぎらうような優しい光だった。

(テレビ新広島)

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