「扇風機で十分」と言われたら?熱中症にさせないための“離れて暮らす親”にクーラーを使ってもらう方法

6月14日、関東では2024年に入って初めて35℃以上の猛暑日を観測した。この日は全国的に気温が上がり、30℃以上の真夏日となった地点は400以上。熱中症により救急搬送される人も相次いだ。

このように日本では近年、本格的な夏を迎える前に、真夏日や猛暑日となることも珍しくなってきている。

体感的にも「暑い」と思う日が増え、エアコンを稼働させるタイミングが早まっていると感じている人もいるだろう。

また、高齢の親を持つ人は毎年、親がエアコンを使っているか心配になったり、何度言ってもクーラーをつけないことに頭を悩ませていたりするかもしれない。

大阪府済生会中津病院・医学博士の清益功浩医師は「高齢者は暑さを感じにくいために熱中症のリスクは高い。エアコンは24時間稼働させておきたいが、使わない親に対しては根気よく話をするか、見守り機能などがあるエアコンを導入してみては」と話す。

親がエアコン「つけたがらない」に悩む

三菱電機が2022年に高齢の親を持つ子供世代を対象(東京・大阪在住の40~79歳の男女600人、インターネット、2022年5月27~31日)に、親のエアコンの使用状況に関する調査を実施している。

調査によると、同居しているが積極的にエアコンを使用していない高齢者が1割以上いることがわかった。そして、使用を促したにもかかわらず、「夏にエアコンをつけたがらずに、悩んでいる」という人が63.8%に上った。

エアコンを使用しないと思われる理由としては「節電、電気代がもったいないから」が33.3%、「エアコンを使うほど暑くない」が29.5%、「エアコンは寒い」が28.2%だった。

また「体に悪いから」「昔はエアコンを使っていなかったから」といった理由もあった。

この調査では同居している高齢の親を対象に行われていたが、離れて暮らしている場合、エアコンの使用を促すことはさらにハードルが上がる。

高齢者は熱中症のリスクが高い

「暑いのになぜつけないの?」と高齢の親を持つ世代は疑問を持つだろう。

しかし清益医師によると、高齢者は暑さの感じ方が私たちと異なるという。

「皮膚の熱を感知するセンサー(機能)が老化により落ちます。センサーが鈍ることで、暑さに対する対応も遅れます。

高齢者が『クーラーをつけよう』と行動を起こす気温は、一般成人よりも1~2℃ほど高いのです」(以下、清益医師)

さらに高齢者は暑さを感じにくいことに加えて、
・汗をかきにくく熱が体内にこもりやすい
・喉が渇きにくく水分摂取が遅れがち
という。

この3点を踏まえ、高齢者は熱中症のリスクが高いと考えられるのだ。

“過信”している場合は危険

クーラーをつけない原因にはこうした体の機能の衰えがある一方で、意識の問題もある。

三菱電機の調査にもあったように「親の子供時代に、エアコンを使う習慣がなかったことの影響も考えられる」と清益医師は指摘する。

「私自身もそうですが、我々の子供時代に比べると暑さが厳しい印象です。平均気温も上がり、“真夏日”と言われる日も増えている。

そのために『扇風機で十分』『窓を開ければ大丈夫』といった昔の感覚でいるのは危険で、昔と違うことを自覚する必要があります」

気象庁によると、実際2023年の日本の夏の平均気温は、平年と比べて1.76℃高かった(6~8月・1991~2020年の平均値を平年とした場合)。

1898年の統計開始以降、それまで1番だった2010年を上回り最も高い値になっている。

このように暑さがだんだんと厳しくなっている中で、もし親が“昔のような”感覚でいるのであれば、「暑いからエアコンをつけて」と促すだけでは不十分だ。

清益医師は「昔の感覚でいる親は、子供の話を受け入れてくれないこともあると思います。親の“過信”を理解して、根気強く説得する必要があるでしょう」と語る。

例えば、「テレビで言っていた」などと自身の意見として話すのではなく、かかりつけの医者や親戚など同年代の第三者に伝えてもらうと耳を傾けてくれるかもしれない。

「まずは、傾聴が大切なので、話を聞くことです。しっかりと話を聞いた上でなるべく否定せずにほんのちょっとだけお願いする感じ。『ちょっと、これだけしてみよう』などと接すると聞いてもらえることもあります。

また、強めのお願いしてから、弱めのお願いをする。『毎日つけて』から『蒸し暑い日はつけて』などとハードルが下がって、聞いてもらえるかもしれません」

電気代などを気にしている場合は「冷蔵庫もずっと動いているよ」と伝えてみることで、親の認識が変わるきっかけになるという。

「熱中症は最悪の場合、死に至ることもありますが、注意すれば防げるもの。救急搬送されてくる高齢者の半分以上は屋内での熱中症です。まずは身を守ることが大切で、これからも生きていくためにはこのリスクを下げましょう」

またエアコンには、アプリでリモート管理ができるものや、見守り機能付きのものもあるため、導入してみるのも一つの手段だ。

さらに、「離れて暮らす親には電話をしてください。話しているときにうまく会話ができなかったり、息が荒いと室温が高いと気づけます」と清益医師。

本人は寒くても体が熱い場合もある

こうして“エアコンをつけたがらない問題”に根気強く向きあうと、もしかしたら親の認知症を発見することにつながるかもしれない。

「程度にもよりますが、認知症によって暑さへの行動認知が鈍くなり、暑いと感じても脳の中でうまく処理できないこともあり得ます。

そのためエアコンをつけるまでの行動に至らないケースもある。 “付け方がわからない”こともあり、認知症の可能性を見つけることにつながるかもしれません。そういう状態であれば介護が必要になります」

そして、どうしても「寒い」と言ってエアコンをつけたがらないときは「単純に、直接風があたっていることもある」という。

冷たい風が体表にあたると体温を下げてしまう。しかし高齢者は一概に寒いからと言ってエアコンを消してしまわないようにしたい。

「高齢者の発汗機能は落ちていきますが、頭の汗腺は最後まで残ります。汗を体ではなく頭にかいていることが多い。

そのため、本人は寒いと言っていても、頭に汗をかいていて、体が熱いこともあり、うまく体温調節できていない可能性があります」

そんなときには上着を羽織ったり、風があたらない位置に移動したりすることと、夏本番を迎える前から暑さに慣れていくことが重要だという。

「特に今の時期は暑さに対応する『暑熱順化』が大切です。あまり暑くない日や時間帯に少し汗をかくくらいの散歩をしてみるなどして、体を動かしてみてください。

体温を調整する筋力も落ちにくくなります。そのときは必ず水分補給を。昨今の暑さを“災害”と捉えるならば、熱中症予防はその備えです」

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