インタビュー(1)日本サッカー協会・宮本恒靖会長が語ったパリ五輪とベストメンバー、北中米W杯「目標は決勝。一番上を目指す選手たちを後押ししたい」

宮本恒靖JFA会長がパリ五輪、その先の北中米ワールドカップ、そして日本サッカーの未来について語った。撮影/原壮史(Sony α‐1)

今年3月、公益法人日本サッカー協会(JFA)の第15代会長に就任した宮本恒靖氏。1977年2月7日生まれの47歳だ。2021年のなかばまでガンバ大阪の監督を務めた後、2022年にJFA理事に選出され、2023年には専務理事としてJFAの実務をリードしてきた。日本サッカーの新時代に向け、宮本新会長はどのようなビジョンを持っているのだろうか。サッカージャーナリスト大住良之が、話を聞いた。

■パリ五輪、そして北中米W杯で目指す「場所」

――パリ・オリンピックまでもう1か月余りとなりましたが、大岩剛監督が率いるオリンピック代表(U-23日本代表)に、どんな期待を持っていますか。

「ノルマということではなく、ぜひ“The FINAL”を目指してほしいと思っています」

――今回のオリンピックでは、IW(インターナショナル・ウィンドウ=クラブが代表に派遣する義務がある期間)以外は招集できないなどのFIFAルールもあって、23歳以下の選手も含めて、ベストのメンバーを集められない状況です。

「考えなければいけない問題ですが、ドーハで行われたAFC U-23アジアカップを通して得たものもたくさんあると思います。この大会前に国内でマリ、ウクライナとやって、マリには太刀打ちできなかった。でも今、あのマリとやったら、どうなるのか。チームは成長している。ドーハの大会が進むごとに成長して、チームのキャパシティ(受容力、能力、収容量)も増えています。オリンピックでも、あのときのように成長しながらファイナルにたどり着くことを目指してほしいと思っています」

――ベストの布陣をそろえられない状況でも?

「代表チームというのは、監督が選んだ、その時点におけるベストメンバーの集まりなわけで、選ばれた選手たちが十分に力を発揮してやってくれるのではないかと考えています」

――それでは、森保一監督率いる日本代表のワールドカップでの目標は?

「選手たちが“一番上を目指す”と言ってくれていますので、それをバックアップしたいと思います」

――“ノルマ”という言葉は使いたくありませんが、どこまでいったら“成功”と言えますか。

「ベスト8、準々決勝に行くことが、ひとつの指標になるのではないでしょうか」

――今、その力はあると思いますか。

日本代表は、間違いなく、力のある選手の集まりになっている。ただ、まだ成長していく必要があります。1月から2月にかけてのAFCアジアカップ(カタール)での戦い方を見たら、チームとして修正していくべき点はいくつか見られたと思っています。

――現在のチームの「課題」は、宮本会長が現役選手としてプレーしていた頃からあったものなのでしょうか。

2023年に連勝していた頃の戦い方と、アジアカップでの戦い方は、同じではなかったと感じました。森保監督は戦い方の積み上げを考えながら指揮してくれているので、そこに期待したいです。自分の時代とは環境などまったく違うし、単純に比較はできないと思っています。

■「日本代表チームが強い」ことが不可欠

――会長就任に当たって、“日本サッカーのコンテンツの商業的価値を上げる”ということをキー政策のひとつに上げられました。これは日本代表のことですか。

日本代表チームが強いという状態が不可欠です。強ければ、人々の話題にのぼるし、メディアにも取り上げられて、また人々の話題につながるという循環になります。面白いデータがあるのですが、JFA登録人口の多い都道府県ほど、日本代表戦のテレビ視聴率が高いそうなんですよ。だから選手や審判員、役員などの登録数の絶対数を増やすことが視聴率につながり、サッカーに関心を持つ人が多い社会につながると思っています。

――目標は国内だけですか。

アジアにも、という考えは持っています。アジアにおいて日本サッカーの商業的価値をもっと上げることは可能なのではないか。そして、たとえばの話、これからアジアに出ていこうという企業、パートナーと一緒に取り組んでいくことで、もっと日本サッカーの価値を上げられるのではないかということにもチャレンジしていきたい。

――サッカーの商業的成功と言えば、現在では世界中から高額の放映権料を集めて多額の資金を得ている欧州のサッカーですが、それに追随しようということでしょうか。

少し違います。ここ数年間のJFAの収入を見ると、特別なことがなければ、だいたい200億円規模で推移しています。僕はそれを少しずつでも増やしていきたいと考えていますが、それは、プレミアリーグが巨額の放映権収入で潤って、クラブに還元して、クラブが選手の年俸を上げ、巨額の移籍金でスターを獲得するというのとは、目的が違います。

■欧州サッカー「移籍金や年俸の高騰に終わりが…」

――収入を増やすことで、JFAは何を目指すのですか。

もっと地域への“再投資”を増やすために収入を増やしたい。47都道府県や9地域協会に還元していくことで、地域のサッカーを盛んにしてほしいということです。そこには、地域の社会やスポーツへの“再投資”という意味もあります。地域のサッカーが盛んになることで地域のスポーツ文化が盛り上がります。それは“サッカーを通じて豊かなスポーツ文化を創造し、人々の心身の健全な発達と社会の発展に貢献する”という、“JFA2005年宣言”、基本理念にも合致します。社会を良くする力があるから、JFAは“公益財団法人”として認められているのだと思うのです。

――現在の欧州のサッカーの状況について、どう見ていますか。

経済面で膨らんでいる、膨らみ過ぎているという印象はあります。今の移籍金や年俸の高騰が、どこかで終わりがくるのではないか。ちょっと危険をはらんでいるように思います。

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