【荒木麻美のパリ生活】朝まで続く現代アートの祭典、パリの「眠れぬ夜」

by 荒木麻美

6月1日の夜、現代アートの祭典「Nuit Blanche(ニュイ・ブランシュ。白夜、眠れぬ夜の意)」に行ってきました。ドラノエ前パリ市長の発案により2002年に始まったこのイベント、10月の第1土曜日に開催されていたのですが、昨年から6月の第1土曜日となりました。

パリ中のいたるところで音や映像のインスタレーション、ダンスなどのパフォーマンス、各種展覧会といった現代アートに触れることができます。すべて無料です。時間は19時くらいから朝の6時くらいまで、100万人近い人々が参加する一大イベントです。

公共交通機関が朝まで無料だったときもありましたが、今年はパリ市が提供するレンタサイクルのVelibが90分間無料になっていました。

まずはパリ3区にあるMAIF Social Clubという文化施設に行きました。2017年にオープンしたこの施設、普段から現代アートの展覧会やワークショップなどを無料で開催しています。

私は今回ここに初めて行きましたが、展示スペースのほか、子供向けの本やおもちゃが置いてあったり、Sainという健康志向の人々に大人気のパン屋さんの商品を売るカフェも入っていました。

Nuit Blancheのために用意されたイベントとしては、岩の形をしたクッションが敷き詰められた部屋に寝転がり、ヘッドフォンから流れる自然の音などを聞きながら知覚や感情を取り戻す、というコンセプトのインスタレーションを体験しました。しかし肝心のヘッドフォンが全部壊れており、係の人が動揺するという事態に(笑)。でも15分間、薄暗い部屋に寝転がってステレオから流れる自然の音や電子音楽をぼーっと聞いていたら、思いのほかリラックスできてよかったです。

次に向かったのはピカソ美術館です。この日は無料で美術館に入れるというのでなかなかの人。ピカソ作品の収蔵点数は5000点余りと膨大で、そのコレクションを通して彼の生涯を追うことができます。じっくり見ていたかったのですが、Nuit Blanche用の展示などがあるわけではないので次に移動。

アンリ・カルティエ・ブレッソン財団という写真美術館に着きました。アメリカ人写真家のスティーブン・ショアが車窓から、そしてドローンから撮影した風景の展覧会をやっていました。昔も今も、どれもどうというところのない日常の風景なのに、すっかり見入ってしまいました。

ちょうどガイド付きツアーをやっていて大盛況

パリ工芸博物館に着きました。ここではフランスの各種発明品が展示されており、Nuit Blancheの日は1階の一部のみが無料で開放されていました。何度見ても目を引かれる、1911年にブレゲが作った飛行機や、フーコーの振り子の実物などがあります。

Nuit Blanche用の特別展示としては「L'oeil du Soleil」(太陽の目)というインスタレーションがありました。昔は教会だった薄暗い建物のなかにぽっかりと浮かぶ巨大な眼球が来場者を追うという、なんとも幻想的なもの。

最後はデジタル美術館のゲテ・リリックです。元は劇場だったというこの美術館では、壁全体を使ったビデオインスタレーションを鑑賞しました。鹿の群れが追いかけてくる犬の群れに反抗するという内容で、観客は思い思いに座ったり寝転がったり飲み物を飲んだりしながらのんびりと眺めていました。

6月にしては寒い夜だったので、今年は私の家から徒歩圏内にあるイベントに絞ってさくさくと見てきました。ただNuit Blancheはコンテンポラリーダンスや生演奏といったライブイベントも素晴らしいので、次はまたこの辺も見たいですね。

別の年に見た、気候アカデミーにおける環境問題をテーマにしたコンテンポラリーダンス
教会内にあるパイプオルガンと電子音楽の競演

Nuit Blancheはパリだけではなく、フランス国内外の多くの町でも開催されています。今年は去年より25万ユーロも多い165万ユーロの予算をかけたこのイベント、市民が気軽に現代アートに触れられる機会です。これからも続くといいですね。

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