『HOW TO BLOW UP』ダニエル・ゴールドハーバー監督 みんな自分の見たいものしか見ていない【Director’s Interview Vol.413】

環境破壊問題に対する一つのアンサーとして、テキサス州の石油精製工場を爆破しようとする若者たちを描いた『HOW TO BLOW UP』。原作は、スウェーデンの気候変動学者アンドレアス・マルムが2021年に著したノンフィクション本『パイプライン爆破法 燃える地球でいかに闘うか』。反奴隷制運動からサフラジェット、公民権運動、南アフリカのアパルトヘイトとの闘い、あるいはガンジーの非暴力運動など、非暴力を重んじる戦略的平和主義や市民的不服従よりも、革命は「サボタージュ(財物を破壊する活動)」や「暴力的な直接行動」が成功をもたらしてきたことを論じたこの本は、美術館での抗議活動を展開するジャスト・ストップ・オイルのムーブメントとも結びつきながら、大きな波紋を呼んでいる。マルムは、二酸化炭素を排出する化石燃料に依存する社会を止めるためには、気候変動活動においてもインフラストラクチャーの損壊が必要であると呼びかける。

監督を務めるのは、気候科学者の両親を持ち、気候変動についてのドキュメンタリーからキャリアをスタートさせたダニエル・ゴールドハーバー。このような過激な原作を元に、本作をまるで強盗映画の如く仕立ててみせた。ゴールドハーバー監督はいかにして『HOW TO BLOW UP』を作り上げたのか。話を伺った。

『HOW TO BLOW UP』あらすじ

環境破壊に人生を狂わされたZ世代の環境活動家たちが、石油パイプラインを破壊する大胆な作戦を実行する。やがて過激な決意が、友人、恋人、苦難に満ちた物語を持つ仲間たちを巻き込みながら暴力の象徴的(=パイプライン)を爆破するという大胆なミッションへと結びついてゆく。若い世代のエネルギーは、予期せぬ混乱を招きながら、爆発的フィナーレへと疾走する。

エンターテインメントで環境問題を訴える


Q:環境問題を訴えるための破壊行為を映画で描いたわけですが、このような社会的メッセージをエンターテインメントに載せる意義をどう捉えていますか。

ゴールドハーバー:すごく意義深いと思います。ソーシャルジャスティスなムーブメントは、カリスマ性を帯びた人間が中心にいることが多く、周囲はその中心人物にエンターテインされることによってその活動が広がっていく。元々、社会的な活動の中にはエンタメ性があるんです。社会的なことを訴えるためには、エンターテインメントは大事な要素だと思いますね。

『HOW TO BLOW UP』© Wild West LLC 2022

Q:爆破が成功するのかしないのか、成功すべきなのか、すべきではないのか、成功して欲しいのか、欲しくないのか、ギリギリまで分からないサスペンスは、観客自身のスタンスを突きつけられているようでした。意図したものはありましたか?

ゴールドハーバー:それは100%意図したことでした。この作品はいわゆるハイスト(強盗)もので、仲間が集まり強盗計画を練って実行し、最後の最後まで成功するか分らないサスペンス。そのサスペンスの中で、観客はキャラクターに感情移入し、計画の概要はどうなっているのか、計画は成功するのか、その後逃げ切れるのかと、キャラクターと共に感じていく。つまりキャラクターたちの動機や感情も分かってきて、彼らにとっての正義にも共感していくわけです。

出てくるキャラクターは社会通念とは外れた違法な行動をしているため、観客に“問い”を投げかけてきます。そのキャラクターたちに共感することが出来たのであれば、彼らのやりたかったことを理解出来るでしょう。彼らの行動が、観客自身の人生においてどんな意味合いを持ってくるのか、自分のモラルに対してどういう意味を持つのか、そこまで考えざるを得なくなるんです。

「暴力革命」に対する意識


Q:石油会社への破壊行為によって、労働者が職を失うことに対する言及や葛藤も描かれているのが印象的でした。

ゴールドハーバー:長期的にみれば、環境問題のせいで私たちは食べるものを生産することさえ出来なくなってしまい、最終的には全員が失業します。環境問題や化石燃料に関する議論になると、その業界の失業話が出てくることがありますが、世の中に仕事は他にもあるわけで、それは化石燃料会社の詭弁に過ぎません。我々が新しい世界を作る方法を模索しないように、脅しているのです。クリーンエネルギーのテクノロジーを作り保全していくことが出来れば、それは大きな経済的ムーブメントに繋がります。つまり失業について心配する必要もなくなっていく。そこは是非考えてみて欲しいですね。コラテラルダメージに関連した被害は出てくるかもしれませんが、持続可能なエネルギーモデルを作ることが出来なかったときの痛みに比べれば、大したことはないと思います。

『HOW TO BLOW UP』© Wild West LLC 2022

Q:原作本に出会う前の「暴力革命」に対する意識はどのようなものでしたか。

ゴールドハーバー:元々理解はしていました。キャリアの初期には気候変動に関するドキュメンタリーにも関わっていましたし、地球と社会が如何に大きな脅威に晒されているのかを描きながら、何かインパクトのあるキャンペーンをしたいと思っていました。でも当時だと、選挙に行くことと、電気自動車に変えることぐらいしか、人に促すことはできなかった。当時は絶対に解決できない問題だとすら思っていました。人ではなくシステム自体を変えていかなければ解決できない。そのシステムを動かしているのが利潤優先の大企業だと、絶対に状況は変わらないわけです。

過去の歴史を紐解くと、成功した革命やムーブメントには、実は破壊活動みたいなものが関わっている。そのこと自体は知っていましたが、原作本ではそれが学術的な事例と共に、歴史的な文脈の中でどういう立ち位置にあったのかを明確にしてくれていました。特に、環境問題に対処する中では、所有物の破壊がどういう効果があるのかを論じていました。歴史の前例を出して、ターゲットを明確にすることによって、納得いくアクションを教えてくれる本でした。

見たいものしか見ていない


Q:本作に対する映画人や観客の反応はいかがでしたか?

ゴールドハーバー:メディアを通して見るものは、皆自分の見たいものだけ。つまり自分が見たいものを発信しているメディアしか見なくなっている。この映画を見てくださった方も、そもそもこういうことに興味を持っている人ばかりでした。結局今は、政治的な思想を持っていたとしても、自分の考えに近いメディアからしか情報を得なくなっている。社会や政治について議論することに、すごくネガティブな状況になっていると思います。

本作については、FBIから警告が入ったり、議会からの捜査もありましたが、公開中はもっと物議を醸し出すかと思いきや、実際そうでもなかった。そこも驚きましたね。

『HOW TO BLOW UP』© Wild West LLC 2022

Q:『現金に体を張れ』(56)や『レザボア・ドッグス』(92)の影響を感じますが、好きな映画監督や影響を受けた作品を教えてください。

ゴールドハーバー:その時々で変わってきますが、アメリカの映画作家だとマーティン・スコセッシとデヴィッド・リンチですね。彼らの作品と同じくらい、その製作のプロセスや、彼らと仲間が起こしたムーブメントなどにも興味があります。他には、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーも大好きだし、リン・ラムジーやクレール・ドゥニなども好きですね。日本の映画作家では、宮崎駿と黒沢清。黒沢監督の新作はとても楽しみにしています。

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監督/脚本/製作:ダニエル・ゴールドハーバー

ダニエル・ゴールドハーバーは、ロサンゼルスとニューヨークを拠点にする監督、脚本家、プロデューサー。気候科学者の子供であるダニエルは高校時代から映画製作を始め、サンダンス・ドキュメンタリー『チェイシング・アイス』で編集者として働いた。その後、ハーバード大学で映像と環境研究を学び卒業。Netflixのホラー映画『CAM』を監督し、2018年のファンタジア映画祭で最優秀初監督賞を受賞し、FilmmakerMagazineの「2018年の25人の新しい映画人」の一人に選ばれた。刺激的で挑戦的なストーリーをスリリングでアクセスしやすい方法で伝える方法に情熱を持って取り組んでいる。

取材・文: 香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。

『HOW TO BLOW UP』

6月14日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、池袋HUMAXシネマズ、シネマート新宿ほか全国ロードショー

配給:SUNDAE

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