雲の上から(6月15日)

 耳の痛い話も歓迎した。会津美里町の観光名所あやめ苑の管理人を長年務めた男性は、来場者の声を聞き逃さなかった。反省を、謙虚に翌年の花作りに生かすためだ▼200種類、10万株が池の周囲に植えられている。褒められれば素直にうれしい。だが、そればかりではない。「手入れが行き届いていない」「花に元気がないようだ」―。一つ一つの反応を道しるべにした。〈期待して来てくれる人のために失敗は許されない〉と地元の文芸誌に書き残す▼町職員時代に造園施工管理技士の資格を取得し、60年近く前の造成開始時から関わった。まさに「生き字引」。除草や消毒、追肥の作業を担い、育成に愛情を注ぎ続けた。花勢を欠いた時期がある。85歳を過ぎて現場に呼び戻され、どう育てれば美しく咲くか熱心に指南した。亡くなったのは今年1月。90歳だった▼誰よりも楽しみにしていたに違いない。「あやめ祭り」はきょう15日に開幕する。自ら交配した20株ほどの「高田錦」も咲き始めた。紫色の絞り模様がひときわ映える。雲の上から池の畔[ほとり]のやりとりを気にするのは、取り越し苦労だろう。手塩にかけて生み出した美の共演には、誰も声は出まい。<2024.6・15>

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