自民・麻生副総裁「民主主義にはコストかかる」に”お前が言うな”の声…2年で「オークラ東京」1465万、「帝国ホテル」559万の爆食い

数々の放言・失言で物議を醸してきた自民党の麻生太郎副総裁(元首相)の発言がまた波紋を広げている。派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金問題で自民党が大逆風を受ける中、「政治活動の基盤維持には一定の資金が必要だ」などと開き直りとも受け取られかねない持論を展開したのだ。麻生氏と言えば、料亭や高級ホテルなどで大枚をはたいてきたことが知られる。税金を原資とする政党交付金(政党助成金)や年間2000万円超の議員報酬に加え、様々な議員特権を持つ国会議員。本当にお金は足りないのか。ネットでは麻生副総裁に対して「お前がいうな」という趣旨の声があがっている。経済アナリストの佐藤健太氏が語るーー。

「民主主義にはどうしてもコストがかかる」

「民主主義にはどうしてもコストがかかる」。6月8日、福岡市で講演した麻生氏は通常国会で議論されている政治資金規正法の改正をめぐり持論を披露した。この時の講演で大手メディアが注目したのは、岸田文雄首相(自民党総裁)に対する不満をあらわにしたというものだった。

首相は法改正をめぐり公明党の山口那津男代表と党首会談し、政治資金パーティー券購入者の公開基準を自民党の「10万円超」案を取り下げ、公明党が求める「5万円超」案を受け入れる意向を伝達。日本維新の会とも政党から議員に配られる政策活動費の領収書公開に関する合意文書を交わした。

岸田首相を暗に批判「将来に禍根を残す改革は断固避けなければならない」

麻生氏も政治資金の透明性は確保されるべきとの立場だ。しかし、「透明性」を理由に何でもかんでも公開することになれば、名前が公表されたくない支援者は後ずさりすることになりかねないと危機感を抱く。強固な後援組織を持たない新人議員らの資金集めが難しくなり、「若者が政治資金を確保できないから政治を断念するのは甚だ残念なことだ」というわけだ。公明党や日本維新の会への譲歩には否定的で「将来に禍根を残す改革は断固避けなければならない」と岸田首相を暗に批判している。

それぞれの政治的思惑とは別に、気になるのは「政治活動の基盤維持には一定の資金が必要だ」という発言だ。国会議員には1人あたり期末手当(ボーナス)を含めて年間2000万円以上の議員報酬(歳費)がある。さらに、領収書のいらない調査研究広報滞在費(旧文書通信費)が年1200万円(毎月100万円)、立法事務費は年780万円(会派1人あたり月65万円)もあり、政党の所属議員ならば党本部からの支給も数百万円程度は加わるだろう。

本当に国会議員はお金が足りないのだろうか

3人の公設秘書給与は国から支給され、都内の一等地にある議員宿舎には周辺の相場に比べて格安で入居できる。JR乗車券や航空券も支給されており、数々の議員特権を求めて立候補する人も珍しくないほどだ。

麻生氏は地元住民らの声を吸い上げるためには私設秘書や事務所の経費、後援会活動といったものに「コスト」がかかるというのだが、本当に国会議員はお金が足りないのだろうか。総務省が2023年11月に公表した政治資金収支報告書(2022年分)によれば、麻生氏の資金管理団体「素淮会」の収入総額は約2億4900万円(前年からの繰越額は約1億6200万円)で、支出総額は約7300万円となっている。政治団体からの寄付は2450万円、個人からの寄付は140万円で、2022年5月に開いたセミナーの収入は約6126万円だ。支出で目立つのは「会合費」で、料亭や高級ホテルなどの名がずらりと並び、総額は2000万円近くに上る。

首相を経験した後も政府・与党の要職を重ねてきた麻生氏はズバ抜けた集金力があるのだろう。警護官(SP)が常に同行する生活においては「完全個室」でのVIP待遇が必要なのかもしれない。

「オークラ東京」(東京・港区)で、麻生氏は断トツの60回利用(1465万4493円)

朝日新聞DIGITALには「政治家 行きつけ20選~政治資金特集「支出編」~」というユニークな記事が掲載されている。2018年と2019年分の政治資金収支報告書をもとに閣僚や党首らがどのような店に通っているのか独自に分析したものだ。その「飲食店ランキング」トップは「オークラ東京」(東京・港区)で、麻生氏は断トツの60回利用(1465万4493円)している。2位の「東急ホテルズ」(東京・渋谷区)では麻生氏は4位(2回、24万807円)だったが、3位の「帝国ホテル」(東京・千代田区)は麻生氏が1位の29回・559万5369円だったという。

元々、恵まれた家系に生まれ、裕福な麻生氏がどのような店に通い、大枚をはたいていても自然なのかもしれない。だが、政治家がすべて料亭や高級ホテルで会合を重ねる必要性があるのかと言えば疑問だ。

10円、100円の安さを求めて外食や買い物をしている庶民の気持ちは分からない

「密室」でなければ話すことができない会話ならば党本部や議員会館の自室などで話せば良いのではないか。そもそも、大切な会話をする時に食事を共にしなければならないわけではないはずだ。

「政治資金パーティー収入や寄付などで得たお金を何に使おうと自由だ」「地元の声を吸い上げるためには必要だ」というのかもしれないが、それらが「民主主義のコスト」といわれてしまうと抵抗感は拭えない。少なくとも10円、100円の安さを求めて外食や買い物をしている庶民の気持ちは分からないのではないか。

政治家の「3大支出」は、会食費・人件費・広報費といわれる。会食を除く他の2つはカットできないものなのか。大半の国会議員は公設秘書3人に加え、自ら私設秘書を雇用している。選挙区の広さによっても異なるが、3~5人を雇っているケースが多いようだ。当然、その人件費が必要になる。これは、どこまで支援者獲得に動くかによって異なるのだろうが、地域の声を熱心に吸い上げるためには欠かせないとの見方もできる。それに付随して車代やガソリン代、事務所費もかかるはずだ。

岸田首相には2億679万円の政治資金収入

広報費については、調査研究や広報などの政治活動を行うために「調査研究広報滞在費」(旧文通費)があるのだが、活動報告のビラやポスター代、郵送費などがかさむ。ある選挙区選出の参院議員は新人時代に借金をした経験がある。理由は「祝弔電」だ。盆暮れや祭事などの挨拶回りに加え、祝電や香典にかかるお金は決して少なくない。「地元紙を見て知人が亡くなったことを知ると、すぐに動かなければならない。それだけでも選挙区が広い議員は大変だ」と語る。

自民党派閥の裏金問題で注目された政治資金パーティーは、それらの資金を賄うために開催する必要があるということなのだろう。2022年の政治資金収支報告書によれば、自民党総裁の岸田首相は2億679万円の政治資金収入がある。他党の党首級は国民民主党の玉木雄一郎代表が2位の4719万円、3位は立憲民主党の泉健太代表は3307万円で、政治資金パーティーで1793万円を集めている。党幹部・役員となれば、党本部からの「手当」もあるのだろう。

田中角栄元首相「政治は数、数は力、力はカネ」

田中角栄元首相の「政治は数、数は力、力はカネ」というのは有名な話だが、資金集めが得意な議員と、そうではない議員で差がついてしまうのはどうなのか。そもそも、政党交付金が共産党を除く政党には配分されているはずだ。

立憲民主党の泉代表は、麻生氏の発言について「カネ集めの政治をやめましょうというのが本当の改革だ。ずれている」と批判したが、これまで自らも政治資金パーティーで多くの収入を得ている。党としてパーティー禁止法案を国会提出した直後には同党の牧義夫衆院議員が開催していたことも発覚した。裏金問題に揺れる自民党を攻撃するのは良いが、パンチ力不足は否めない。

ただ、もはやカネのかかる政治とは決別しなければならない。このままの状態ならば、元々がお金持ちだったり、世襲だったりする議員が幅を利かせる世界が変わらないままだ。裏金問題を単に政局として利用することなく、国会議員全体の「身を切る改革」を望みたい。

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