銀行は世の中の役に立っているのか…元メガバンカーの経済評論家が解説

(※写真はイメージです/PIXTA)

銀行(信用金庫等を含む、以下同様)が世の中の役に立っているのかを知るために、本稿は「銀行がなかったら何が困るか」を考えてみることにしましょう。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

多額の現金を持ち歩き、タンス預金も…→あまりにキケン!

もし銀行がなかったら、給料日には、多額の現金を持ち帰ることになります。そうなれば、タンス預金は盗難や火災のリスクがありますから、銀行に預かってもらえるのは安心ですね。しかも銀行は「保管料を請求する」のではなく、わずかですが金利を払ってくれるわけです。

もし銀行がなかったら、送金のたびに現金書留を使う必要があります。手間も時間もかかりますし、金額が大きい場合にはリスクも大きいですから、銀行が送金を取り扱ってくれるのは助かります。

海外向けの送金の場合には、どこかでドルを調達して国際郵便で送ることになりますが、これはさらに手間や時間がかかり、リスクも大きいですね。

「お金を貸したい人」「お金を借りたい人」の安全な懸け橋に

銀行の主な仕事は、資金に余裕がある人(たとえば給料日のサラリーマン)から預金を預かって、資金を必要としている企業等に貸出をすることです。預金者に低い金利を支払って借り手から高い金利を受け取って、差額でコストをまかなって利益を出すのです。

銀行がないと、誰が資金に余裕があり、誰が資金を借りたがっているのか…という情報をお互いが得るだけでも大変です。たとえばひとつの広場に貸し手と借り手が集まるとしても、誰が誰に貸すのかというマッチングの問題がありますし、それ以上に問題なのは貸し手にとって「借り手が借金を返済できるか」の調査です。それが確信できないと、怖くて貸せませんから。

その点、「余裕資金は銀行に預金すればいいし、金を借りたければ銀行に頼めばいい」というなら、マッチングの問題も生じませんし、「借り手に返済能力があるか」を調べるプロである銀行が間に入ることで、取引ははるかにスムーズに進むでしょう。

個人では絶対ムリ…巨大企業への多額の融資を実現する

巨大企業が100億円を借りるとして、100万人のサラリーマンから1万円ずつ借りるのは大変です。100万人のサラリーマンがそれぞれ借り手の返済能力を調べるのも大変ですし、契約書作りに慣れていない100万人のサラリーマンが契約を締結する手間も大変です。

その点、銀行が間に入ることで、契約書作りも借り手の返済能力調べも遥かに楽にできるでしょう。

「10年後に返します」「了解!」長期資金の貸し出しに対応

人々の余裕資金は変動します。給料日には余裕資金があっても、次の給料日の前日には余裕がないかもしれず、子どもの教育費がかさむ時期には余裕ゼロかもしれません。そうなると、個々のサラリーマンは「10年後に返すから貸して欲しい」という企業があっても貸すことができません。

しかし、銀行にはいつでも資金があります。多くのサラリーマンがそれぞれ異なる時期に資金に余裕ができて預金を増やしてくれるからです。

こうして、銀行が間に入ることで、巨大企業が長期間にわたる巨大なプロジェクトの資金を調達できる、というわけです。

預金にも貸出にも活用される「大数の法則」ってなんだ?

コインを2回投げても表が1回とは限りませんが、2万回投げると概ね1万回は表が出るのだそうです。これを統計学では「大数の法則」と呼んでいます。銀行のビジネスは、じつはこれを利用しているのです。

個々の預金者が預金を入金するタイミング、預金を引き出すタイミングは予測できませんが、100万人の預金者がいれば、たとえば毎日概ね1万人が入金し、概ね1万人が引き出すと予測できるので、金庫にそれほど金がなくても大丈夫なのです。

大数の法則を知らなければ、「ある日、預金者が全員預金を引き出しに来るかもしれない。預かった金は貸出にまわさず、金庫に積み上げておこう」ということになり、貸出ビジネスが行なえないでしょうが、実際には大丈夫なのです。

もっとも、例外はあります。「取り付け騒ぎ」です。「あの銀行は倒産しそうだ」という噂が流れると、預金者が一斉に預金を引き出しに来るかもしれません。それを恐れていると銀行は貸出ができなくなってしまいます。それでは困るので、「取り付け騒ぎが起きたら日銀の現金輸送車が助けに来る」ことになっています。だからこそ銀行は安心して貸出ができるのです。

貸出面でも大数の法則は役に立ちます。たとえば「100万社に金を貸せば、概ね1万社が借金を踏み倒す」といったことが予想できるならば、すべての借り手に1%だけ金利を上乗せして貸せばよいからです。

もっとも、貸出面にも例外はあります。残念ながら、バブル期の銀行の貸出は「不動産購入資金」に偏っていました。多様な貸出を行っていれば大数の法則が成り立つのですが、貸出先が偏っていたために、不動産価格が下落したことで銀行は巨額の貸し倒れ損失を被ってしまったのです。

金融は経済の血液、銀行は経済の心臓

銀行が経済に役に立っているということは、普段はあまり意識していないでしょうが、ひとたび銀行の機能が低下すると、皆が困ってしまい、銀行の有難さを痛感するようになります。血液が止まった場合と同様です。

バブル崩壊後の金融危機で銀行が「貸し渋り」を余儀なくされた時に、銀行が世の中の役に立っていることを認識した人も多かったのではないでしょうか。当時銀行員であった筆者は、なんとも言えない気持ちでしたが。

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

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塚崎 公義
経済評論家

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