広島 新井野球を象徴した決勝点のシーン 失敗を恐れず期待に応える選手の成長 真っ先に矢野を出迎えた大瀬良の姿

 楽天に勝利し、坂倉(右)とタッチする新井監督(左)=撮影・佐藤厚

 「楽天0-1広島」(14日、楽天モバイルパーク)

 新井野球の真骨頂が出たように感じた。0-0で迎えた延長十一回、待望の1点を奪ったのは広島・新井監督のタクトに導かれた選手たちが最高の仕事を果たした。「家族」と称すチームの結束が生んだ決勝点だ。

 「若い選手が食らいついてもぎとった1点だと思います」と評した指揮官。まず先頭の二俣がカウント2ストライクと追い込まれながらも外角の変化球に食らいついた。見逃せばボール球。だがバットの先で捉えた執念の打球は一、二塁間を破った。

 絶好のチャンスに新井監督はすぐさま代走・羽月を送った。そしてベテランの秋山には送りバントのサイン。得点圏へ走者を進めると、ベンチには松山が控えていたにもかかわらず「何とかしてみろと思って」と矢野をそのまま打席に送った。と同時に二塁へ進んだ羽月には「隙があったら行けと言ってる」と指示。カウント1ボールから宋のモーションを完璧に盗んでスタート。捕手がボールを捕球できず、鮮やかに三塁を陥れた。これに指揮官はベンチで両手をたたきながら絶叫した。

 「あの場面でスタートを切って決めた羽月の準備、勇気が素晴らしかった」と指揮官。1死三塁となり、矢野は低めの変化球をきれいにすくいあげた。右翼への犠飛となり、羽月が決勝のホームを踏む。「よし、矢野、何とかしてみろと。何とかしましたね。成長していますよ」と手放しで絶賛した一打だ。

 派手な勝ち方ではないかもしれない。それでも交流戦首位を快走する楽天との厳しいゲームを勝ちきった。失敗を恐れないタクト、若手選手に期待をかけ信じ抜くタクト、そして責任は監督がとるという姿勢-。「いつも『戦いながら強くなっていく、成長していく』と言ってるけど、本当に若い選手が成長してくれているなと感じるゲームでしたね」と新井監督。それも指揮官が日頃から訴えている「チームは家族」という精神があるからこそと感じる。

 決勝点をたたき出した矢野に対し、ベンチを出て真っ先に迎えたのは笑顔の大瀬良だった。自身は7回無失点の快投。打線の援護がなく勝利投手の権利は得られなかったが、優勝の味を知る大黒柱が見せた姿勢が何よりも尊い。チームの勝利が最優先という姿を見せることで、投手と野手が強い絆で結ばれていく。この試合を勝たないといけない。そして次の試合こそは援護しないといけない。それが好循環となって、チームの勢いが加速する。優勝を争うチームには必ずそういうファクターがある。

 阪神、広島、オリックスで指導者を歴任したデイリースポーツ評論家・岡義朗氏も「新井監督が選手を『家族』と称して背中を押してあげる。確かに最初は失敗もあったかもしれないけど、勝利を重ねることによって成長しているように感じるよね。『こんな対応ができるようになった』というシーンが多い。監督の期待、思いに選手が応えられるようになってきた。そしてチームの形ができてきた。これは好循環の良い例だと思う」とカープの強さを分析していた。

 そして「広島は戦力以外の部分で新井監督が『家族』と称して選手にやりやすい環境をつくっている。モチベーションは他の球団と比較しても上にいける要素になるんじゃないか。去年も故障者が出た中で2位。今年もその粘り強さはある」と指摘していた岡氏。この日の勝利は今後、カープの勢いが加速していく1勝になるかもしれない。(デイリースポーツ・重松健三)

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