税務署からの追徴課税を免れる効果も…「地主」が「不動産鑑定評価」を取得する、これだけのメリット【元メガ・大手地銀の銀行員が解説】

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地主の相続対策において、多くの接点を持つ不動産鑑定士。その不動産鑑定士が行う「不動産の鑑定評価」には、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか? 本記事では、地主の相続対策における不動産鑑定評価について、ティー・コンサル株式会社代表取締役でメガバンク・大手地銀出身の不動産鑑定士である小俣年穂氏が解説します。

そもそも「不動産鑑定士」とは?

不動産鑑定士とは「不動産の鑑定評価に関する法律」により制定されている国家資格であり、資格者は独占的に「不動産の鑑定評価」を行うことが認められている。

ここでいう「不動産の鑑定評価」とは、不動産(土地もしくは建物またはこれらに関する所有権以外の権利をいう。以下同じ)の経済価値を判定し、その結果を価額に表示すること(同法 第二条)と定義されている。

2023年1月1日時点において登録している不動産鑑定士8,608人、不動産鑑定士補1,190人の計9,798人(出所:国土交通省)であり、不動産鑑定業者は2023年1月1日時点において大臣登録72社、知事登録3,045社の計3,117社(出所:国土交通省)となっている。地主との接点の多いほかの士業と比較すると図表1のとおりであり、不動産鑑定士の数は1万人にも満たない。

[図表1]全国の地主と接点の多い士業の登録者数 出所:筆者作成
単位:人

また、不動産鑑定士は独立開業するほか不動産鑑定業や、不動産業、金融業などさまざまな分野で勤務している。

不動産鑑定業者に所属し、不動産の鑑定評価や不動産の客観的価値に作用する諸要因に関する調査・分析、不動産の利用・取引・投資に関する相談に応じる業務(コンサルティング等)を行うほか、不動産会社、金融機関、Jリートの資産運用会社等企業内の不動産関連部門においても不動産に関する専門知識を活かして活躍しています。

(国土交通省「不動産鑑定士の魅力と仕事」より抜粋)

人数も少なく、日ごろ接する機会が少ないかもしれないが、公示価格などの算出、Jリートにおける定期的な不動産価格の評価、調停委員として紛争の解決にあたるなど、不動産の専門家として活動を行っている。

不動産鑑定士に求められること

不動産鑑定士試験では、主要な内容である「不動産の鑑定評価に関する理論(鑑定理論)」のほか、「行政法規」「民法」「経済学」「会計学」が試験科目となっている。

鑑定理論においては国土交通省が定める「不動産鑑定評価基準」の理解が不可欠であり、同基準の第一章第4節において、不動産鑑定士に求められる事項として以下のとおり定められている。

不動産鑑定士は、不動産の鑑定評価を担当する者として、十分に能力のある専門家
としての地位を不動産の鑑定評価に関する法律によって認められ、付与されるものである。したがって、不動産鑑定士は、不動産の鑑定評価の社会的公共的意義を理解し、その責務を自覚し、的確かつ誠実な鑑定評価活動の実践をもって、社会一般の信頼と期待に報いなければならない。

こうあるように、不動産鑑定士は不動産鑑定評価にかかる高い能力と知識が認められて資格を付与されていることから、高い倫理観と不断の勉強と研鑚が求められている。

地主が不動産鑑定評価を必要とするケース

地主業において不動産鑑定が必要となる代表的なケースを示すと、図表2のとおりである。

[図表2]不動産鑑定が必要となる代表的なケース 出所:筆者作成

個人所有の不動産を一族の資産管理会社へ譲渡する場合においては、当事者間での取引であり、売買価格をいくらにするか客観的に算出することが困難である。そのような場合において、不動産鑑定士による不動産鑑定評価が必要となる。

そのほか、金融機関から借入を行う場合において、融資対象である不動産の担保評価を算出するために不動産鑑定評価が使われるケースもある。簡易的に担保評価を算出する場合には、相続税路線価などから計算した土地価格に各金融機関が社内で定めている建物建築費単価から経年減価(減価修正)を行って建物価格を計算し、当該土地価格と建物価格を合計して担保評価を定める。この場合においては一般的に不動産鑑定評価額より低く算出されてしまう。したがって、不動産鑑定評価の必要性が生じる。

また、不動産価格のみに限らず、賃料の評価も不動産鑑定評価の対象である。新規賃料や継続賃料の評価などで不動産鑑定が必要なケースもある。賃料交渉時において当事者間で賃料がまとまれば問題ないが、客観的に根拠を示す場合において利用される。

一方、不動産仲介会社が不動産の売却価格を算出するケースがあるが、これはあくまでも「査定」であって、「鑑定評価」とは異なるものである。鑑定評価として価格の算出ができるのは不動産鑑定士のみである。

地主にとって、不動産鑑定を行うことによるメリットは図表2の取引において専門家による客観的な価格や賃料を裏付けとして実施できることにある。

たとえば、法人化において廉価で取引を実施した場合においては、その後に税務署から贈与税や所得税の請求を受ける可能性がある。一方、不動産鑑定評価を取得しておくことで多くの資金を調達できる可能性がある。そのほか、価格や賃料の交渉において、不動産鑑定により客観的な数字を示すことで、双方が納得できる形で合意できる可能性がある。

不動産に関わるさまざまなケースで不動産鑑定評価取得によるメリットが大きい。

「地主」と「不動産鑑定士」

地主業において不動産にかかる知識は不可欠である。そのほかに、税務や法務、借入にかかる金融の知識なども必要となるが、もちろんすべてのことを本人で実施することは困難であるため、専門家の力を借りることも必要であろう。なかでも不動産にかかる知識においては、たとえば、

・不動産収支改善

・不動産の承継

・不動産の有効活用

・地代や賃料の妥当性の検証

などの相談において、不動産鑑定士は地主業を維持承継するにあたってのよきパートナーになり得ると考える。

住み替えを行うために現在住んでいる家を売却するなど、通常の不動産売却の場合では不動産鑑定士による鑑定ではなく、不動産会社に査定依頼することが一般的であろう。一方で、相続が絡む地主業においては、鑑定費用を要するものの、正確な資産価値を知る必要がある。次世代に負担をかけないためにも正確な価格を把握しなければならない相続対策において、不動産鑑定士の活用を勧める。

小俣 年穂

ティー・コンサル株式会社

代表取締役

<保有資格>

不動産鑑定士

一級ファイナンシャル・プランニング技能士

宅地建物取引士

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