改正入管難民法成立 茨城県内現場 歓迎と懸念 外国人材転籍可能に 「環境改善」「負担増す」

鉾田市内の農園で片付けを行う技能実習生たち=鉾田市

技能実習制度に代わり、外国人材の「転籍」を可能にする「育成就労」制度を柱とした入管難民法改正案が14日、参院本会議で可決、成立した。茨城県の技能実習生は約1万7千人で、実質的に農業や製造業などを支えている。現場の農家は労働環境改善につながると歓迎する一方、一部の監理団体は負担増大を懸念している。

■待遇で工夫

同県鉾田市内でイチゴを生産する「村田農園」代表の村田和寿さん(55)は、「農家は全体として人手不足。転籍ができれば、労働環境の悪い事業所は減っていくと思う」と見据える。

同農園では、従来のスタッフの高齢化などを背景に、14年前から本格的に外国人を受け入れてきた。現在は技能実習生2人を含む計10人のインドネシア人が働いており「外国人材の協力なしには成り立たない」と明かす。実習生らの誕生会や旅行を企画したり、イチゴ狩り体験など消費者と触れ合う機会を設けたり、待遇で工夫。賃金だけでなく「人としての成長」を感じてもらい、結果として特定技能取得後も働いてくれる人は多いという。

同県稲敷市のレンコン農家の男性は、転籍による都市部への人材流出は「それほど心配していない」という。住む場所によって生活費が異なってくることから「収入が高くなっても差し引きではそれほど変わらない。彼らの情報網で十分出回っているはず」と推測する。

■転籍に不安

一方で県南地域のレンコン農家の女性は「転籍で辞めたいと言われたら正直困る」と不安を明かした。日本人の働き手は見つかりにくく、「新制度について監理団体に聞き、準備したい」と話した。

県内の受け入れ機関からは困惑の声も。農業向けのある監理団体は「新制度はプラスにはならない」と言う。監理団体による日本語教育の機会や事務作業が増え、負担は大きくなると予想している。介護分野のある監理団体は、県外からの転籍ついて「来る人はトラブルが多いので、なるべく受け入れたくない」と本音を漏らした。

■得する県へ

外国人の労働問題に詳しい弁護士、杉田昌平氏は新制度を「労働者の権利を保護でき、制度としては前進している」と評価する。茨城県への影響については「他県から人材を引っ張れる。新制度で得をする県」と説明する。根拠として茨城県への転入者の多さを挙げた。

出入国在留管理庁によると、技能実習から特定技能1号への移行に伴い、都道府県をまたぐ居住地の異動があったのは全国で約3万7千人(2022年)。県内への転入は2779人で、愛知に次いで2番目に多かった。転出との差は1586人で全国最多だった。

杉田氏は「県は何が外国人を引き付けているか分析すべき」と語る。加えて、より多くの外国人材を迎えるために「受け皿となるインフラ整備が課題」と指摘。全国共通の問題として、転籍を相談するハローワークや地域の日本語学校の体制に関し、一層充実させる必要性を強調した。

■モスクで防犯呼びかけ 境署 巡回連絡、外国人も

県警境警察署の署員が14日、同県坂東市菅谷のインドネシア人モスク(礼拝所)を訪問し、モスクの管理者や礼拝に訪れた技能実習生らに防犯を呼びかけた。巡回連絡の対象を外国人に拡大した。

巡回連絡は警察官が世帯を直接訪問し防犯を呼びかける取り組み。同署は、管内の坂東、境、五霞の3市町で推進。今回、その一環として実施し、県警本部の通訳も同行した。

同署によると、同市内では外国人約3千世帯が暮らす。モスクはイスラム教徒が集団礼拝する場所で、同所に住むプリオノさん(49)が約1年前に建てた。市内の技能実習生らが礼拝で利用している。

この日は昼の礼拝に12人が参加。礼拝後、署員がチラシを示しながら、プリオノさんらに県警の防犯アプリ「いばらきポリス」の利用を勧め、自動車盗や浸入盗に遭わないよう注意を呼びかけた。

「警察の方が来てくれてすごく安心。アプリの話もあったので、皆にも利用するように言った」とプリオノさん。大貫雅雄署長は「モスクがあるので協力をお願いした。住みやすい地域にしていくため取り組みを強化したい」と話した。

通訳を交え、インドネシア人モスクの代表者(中央)に防犯対策などについて説明する境警察署員=坂東市菅谷

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