韓国の自衛隊機レーダー照射“棚上げ”日本苦渋の決断のワケ ミサイル情報共有めぐる舞台裏

6月1日に約1年ぶりとなる日本と韓国の防衛相会談が開催された。アジア安全保障会議に合わせてシンガポールを訪問した木原防衛相は、就任後初めて韓国の申源湜国防相と直接向き合った。この会談で焦点となったのは、日韓間で懸案となっていた自衛隊機へのレーダー照射問題の扱いだった。

2018年に海上自衛隊の哨戒機が韓国軍の駆逐艦からレーダー照射を受けたのに対し、韓国側は事実関係を否定してきた。

レーダー照射とは、ミサイルなどで攻撃する標的にレーダーの電波を発して照準を合わせる行為だ。例えると引き金に指をかけたまま、相手の頭に銃を突きつけるようなものであり、非常に危険な行為だとされる。

この問題が起きた直後に当時の安倍政権幹部が「とんでもない事が起きた。日韓の信頼関係は当面、元には戻らないだろう」と話していたのを思い起こす。

実は今回の日韓防衛相会談をめぐっては、報道陣も会談の決定を当日に知らされるなど、日韓でギリギリの調整が続いていた。最終的に、日韓の両防衛相は部隊間の意思疎通を強化するなどの再発防止策で合意し、途絶えていた防衛交流を本格的に再開することで一致した。一方で、見解が対立するレーダー照射に関しての事実認定は共同声明などにも盛り込まず、事実上棚上げとなった。

会談後に木原防衛相は記者会見で、「我々の主張は変更したわけではない」とした上で、「海上自衛官のまさに命にかかわる問題でもあり、決して再発はあってはならないということだ」と述べ、再発防止を前提に韓国との関係強化を優先させた苦渋の決断であったことをにじませた。

自民党内から「韓国は手のひら返しも」と懸念も、対北朝鮮で韓国との関係強化優先

日本国内には「事実を認めない韓国と本当に信頼関係を築けるのか」といった懸念の声もあがっている。日韓の合意から4日後の6月5日、自民党は国防部会と安全保障調査会の合同会議を開催。出席者は合意について評価と批判で意見が分かれ、「うやむやにして仲良くしていいのか」といった意見や、「韓国は政権が代わったら手のひら返しをするかもしれない。そういう隙を与えた事例になってしまう」といった声もあがったという。

こうした国内での懸念を踏まえ、海上自衛隊トップの酒井海幕長は4日の記者会見で、「隊員の安全確保が担保され、地域の安全保障環境安定化に貢献できる基盤を再構築できたことは大きな進展だ」と評価する一方で、「懸念や不安を覚えている隊員が仮に存在するならば私の責任において指揮系統を通じて説明または指導をしていく」と語った。

レーダー照射を受けたとする日本側の主張については「取り下げることはない」とも付け加えた。

なぜ日本が自らの主張を棚上げにして韓国との関係強化を優先するのか。その背景には北朝鮮の存在がある。

北朝鮮は2024年に入ってからも、5月に軍事偵察衛星の打ち上げを試みたほか、相次ぐ弾道ミサイルの発射など挑発行為を続けている。これに対抗するには安全保障面での日米韓3カ国の連携が求められ、日本にとって韓国との関係強化が喫緊の最優先課題であることは間違いない。

日本のレーダーが捕捉しないミサイル情報も米韓とリアルタイム共有

実は今回の日韓の会談を前に、韓国との連携強化の必要性を改めて認識させられる事案が起きていた。

5月17日、韓国軍は北朝鮮が日本海に向けて短距離弾道ミサイル数発を発射し、飛行距離は約300キロで、日本海上に落下したと発表した。これに対し、日本側は林官房長官が記者会見で、韓国軍の発表について「承知しているが、詳細は防衛省で分析中だ」とした上で、「現時点において我が国の領域や排他的経済水域(EEZ)へのミサイルの飛来は確認されておらず、関係機関からの被害報告等の情報は確認されていない」と述べるにとどめた。そして、その後も日本政府は詳細について公表しなかった。

ある関係者はFNNの取材に対し、17日発射のミサイルについて「日本にとって大きな危険性はなかった」とした上で、「日本のレーダーでは発射後の軌道を捕捉しなかった」と明かした。一般的に、レーダーの捕捉は発射地点や軌道からの距離に影響され、北朝鮮からの発射直後の動きは韓国側の方が把握しやすいとされる。今回は距離的に日本から離れていたため、日本のレーダーでは軌道を捕捉しなかったとみられる。

しかし、日米韓3カ国では、2023年12月から北朝鮮のミサイル発射情報をリアルタイムに共有する仕組みの運用を開始している。複数の関係者によると、今回は軌道を捕捉しなかったが、リアルタイムに情報の共有は受けたという。日米韓3カ国の情報共有によって、自らは捕捉しないミサイルなど「死角」を相互に補完できる態勢が整備されつつある。ある関係者は「敵の敵は味方だ。対北朝鮮を見据えれば、韓国との関係強化は不可欠だ。日米韓3カ国の連携は今後も強化されていくだろう」と話す。日本にとって真の国益とは何か、模索が続きそうだ。

(執筆:フジテレビ政治部 防衛省担当 木村大久)

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