来年60歳になる自営業の夫婦です。年金の「繰下げ受給」を検討していますが、実際の利用者はどのくらいいますか?

老齢基礎年金の繰下げ受給とは?

老齢基礎年金の繰下げ受給とは、年金の受け取り年齢を後ろ倒しにする制度です。本来65歳で年金を受け取り始めるところを、66歳以後75歳まで(昭和27年4月1日以前生まれ場合は70歳まで)繰り下げることで、その期間に応じて年金が増額されます。

繰下げ受給の増額率は最大84%です。計算式は「0.7% × 65歳に達した月から繰り下げ申し出月の前月までの月数」となっています。

繰下げ受給によって増額された年金額は、一生変わりません。そのため、通常よりも高額な年金を常に受け取れるようになるのは、メリットといえるでしょう。

なお、老齢基礎年金だけでなく老齢厚生年金の繰下げ受給も可能です。どちらか一方だけを繰り下げて利用できるため、自身のライフスタイルや経済状況に合わせて決めるのがよいでしょう。

老齢基礎年金の繰下げ受給を利用する際の注意点

老齢基礎年金の繰下げ受給を利用する際、待機期間中は加給年金を受け取れなくなってしまう点に注意しましょう。加給年金とは「厚生年金保険の被保険者が65歳を迎えた時点で、配偶者や子どもを扶養している場合に支給される年金」となります。

加給年金に関する注意点として、日本年金機構のホームページには以下の内容が掲載されていました。

加給年金額や振替加算額は増額の対象になりません。また、繰下げ待機期間(年金を受け取っていない期間)中は、加給年金額や振替加算を受け取れません。加給年金が受け取れないのはもちろん、増額の対象にもなりません。そのため、受け取れない期間の分は消失してしまいます。

そのほかにも昭和27年4月1日以前生まれの場合は繰り下げ年齢上限が70歳となることで増額率が最大42%になったり、医療保険・介護保険などの自己負担や保険料に影響するおそれがあったりする点には十分注意しましょう。

老齢基礎年金の繰下げ受給を利用している人の割合

老齢基礎年金の繰下げ受給を利用している人の割合について、厚生労働省年金局からは以下の数値が発表されていました。

表1

※厚生労働省年金局 令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況 「表26 国民年金 受給権者の繰上げ・繰下げ受給状況の推移」を基に筆者作成

上記の数値を見ても分かるとおり、繰下げ受給の利用割合は直近5年間で増加しています。対して年金の繰上げ受給を利用している人の割合は令和4年度で10.8%となり、繰下げ受給に対して約5倍の数値を誇ります。

このことから、定年後の経済状況は厳しいと想定でき、繰下げ受給はまだまだ一般的な選択肢とは言い切れないでしょう。

老齢基礎年金の繰下げ受給を利用しているのは全体の2%程度にとどまる

老齢基礎年金の繰下げ受給を利用しているのは、令和4年度で全体の2%程度と分かりました。そのため、制度利用者の割合は決して多いとはいえないでしょう。ただし、繰下げ受給の利用者自体は年々増えていることも把握しておくべきポイントです。

なお、老齢基礎年金の繰下げ受給および繰上げ受給の申請は取り下げができません。そのため、使用すべきかどうか慎重に判断する必要があります。自身の経済状況やライフスタイルを確認し、最適な選択肢をとるようにしましょう。

出典

日本年金機構 年金の繰下げ受給
日本年金機構 加給年金額と振替加算
厚生労働省年金局 令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況 「表26 国民年金 受給権者の繰上げ・繰下げ受給状況の推移」(22ページ目)

執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー

© 株式会社ブレイク・フィールド社