『iPhone 15 Pro MAX』で名建築・京都駅ビルを撮影

通勤や通学、買い物や娯楽、日常的に何気なく利用する建物や街。意識して訪れてみれば、設計者や施工者による様々な考えや工夫に気付いたり、建築当事者も気付いていないような新しい魅力を発見するかもしれない。

カメラという道具はこれらを手軽に捉えるのにピッタリで、身近な建物を『建築』として見方を変えるツールである。建築設計に携わりながら、新旧様々な建築に普段から足を運ぶという建築家・水谷元氏が、自身の撮影のコツを交えながら、撮影した写真を通して建築や街を紹介していく。あなたもカメラを片手に建築の魅力に触れてみよう。

第2回もスマートフォンのカメラを利用した建築の楽しみ方を紹介したいと思う。コンパクトデジタルカメラから一眼レフ、現在でも人気のあるフィルムカメラまで、価格も性能も様々なカメラが存在するが、スマホの手軽さは被写体にいつ何時出会ってもすぐに撮影できるという利点がある。筆者の場合だと普段から建築関連の仕事でもMacを利用しているので、同期に優れたiPhoneを利用している。今回は最新機種である『iPhone 15 Pro MAX』を片手に京都市下京区に位置する『京都駅ビル』に足を運んだ。

■世界的にも類を見ない個人事務所の設計による大規模建築

現在の京都駅ビルは1990年に国際コンペ(設計監理者選定競技)が開催され、1991年に原広司+アトリエファイ建築研究所が最優秀賞に選定後、1993年に着工、1997年に竣工した。延床面積 237,689㎡という世界的にも類を見ない大規模な駅ビル再開発プロジェクトである。

最近では大規模な建築になると設計時から大手ゼネコンと共同で設計監理に取り組み、個人の設計事務所は設計監理とは異なる「デザイン監修」に留まることが多いが、90年代当時はこの規模でも個人の設計事務所にチャンスが与えられていた。

■他の施設を利用して建築の様々な表情を捉える

今回は当施設内に限らず、京都駅ビルの向かいに建つニデック京都タワー(京都タワービル)のタワーからの視点もご紹介したい。京都駅ビルほど大規模な建築になると外観から全体を捉えることは難しい。原広司という建築家の独特の繊細な装飾を内部から捉えるのも良いが、全体を捉えるには京都駅ビルよりも高層な京都タワーはうってつけである。

複雑な形状のカーテンウォール(ガラスの壁)と屋根は、京都劇場のホワイエなどで、こういった装飾性は「京都の琳派の装飾性に富むデザイン感覚」と評されている。 東西に伸びる駅のコンコースの吹き抜け空間に面するホテルの客室を見る。吹き抜けに面するバルコニーや客室の窓の配置から、京都駅ビルの内部に都市的な風景を作り出そうとしている意図を感じる。

■「谷」を思わせる集落の風景を内包するコンコース

原広司は東京大学の自身の研究室を通して、1970年代から世界中の集落調査を続けてきた。集落調査を通して形成された「住居に都市を埋葬する」という思想は、自邸『原邸』を含めた住宅建築の設計にも反映されている。

それらの住宅は谷を思わせる階段と吹き抜けを中央に配置し、それに沿って個室が連続して配されている。住宅にも関わらず、集落や都市を思わせる風景がインテリアに広がっている。京都駅ビルも駅のコンコースと東西のホテルと百貨店を、巨大なコンコースの吹き抜けと大階段で繋いで都市的な風景を作っている。

小さな戸建住宅から、梅田スカイビルや札幌ドームなど世界的に例を見ないような大規模な建築まで、スケールを横断する思想と理論と技術が原広司の凄さである。

■ニデック京都タワー(京都タワービル)も山田守による名建築

ちなみに今回、撮影に利用したニデック京都タワー(京都タワービル)も、日本近現代建築を代表する山田守の設計(日本武道館、東京都千代田区の聖橋など)による名建築である。京都では神社仏閣や京町家の街並みを巡りがちだが、ぜひ近現代建築にも訪れて頂きたい。

(文=水谷元)

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