「普通の就活生へ。『やりたいこと』はなくていい」…キャリアコンサルタントが断言する理由【就活の技法】

(※写真はイメージです/PIXTA)

就活では、好きや強み、やりたいことに沿った仕事は「探さない」こと。そうアドバイスするのは、10回転職したキャリアコンサルタント・森田昇氏。同氏は、ここまで失敗を重ねた人間だからこそ、避けるべき「就活で失敗する方法」を伝えられるはずだと自負します。森田氏の著書『生涯収入を最大化する「就活の技法」』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、見ていきましょう。

自分の「好き」や「強み」、「やりたいこと」に沿った仕事は“探さない”

「普通の就活生」がハマッてしまう、自己分析のアリ地獄への誘い文句TOP3が、「自分の好きなことを仕事にしよう」、「価値観に合う仕事を探そう」、「強みを活かせる仕事に就こう」です。どれもキャリアのアドバイスとしては一定の説得力がありますし、就活でも従ったほうがいいのでは…と戸惑ってしまう就活生も少なくないはずです。

しかし、これらのアドバイスは聞き流してください。その大半が個人の経験や嗜好に基づくものであり、今信じても生涯収入最大化の就活に成功できる保証はありません。前回記事でリスト化した30社の企業の仕事がそれらに当てはまらなくても、まったく問題ありません(⇒関連記事:『「就活生へ。『自分史』作りは絶対するな」…キャリアコンサルタントからの衝撃アドバイス【就活の技法】』)。

「好きを仕事にするのが幸せ」ではなく、「続けていけば好きになり、幸せを感じられる」

「自分の好きなことを仕事にすれば、情熱を持ち続けて働けるのではないか?」

「仕事に満足できるのではないか?」

「それが幸せなのではないか?」

残念ながら、好きなことができる仕事に就けて喜びや楽しさを感じられたとしても、それは最初だけです。実際の仕事は好きなことだけやればいいものではありません。どんなに好きな仕事でも、面倒ごとや、やりたくないことは必ず起きます。

たとえば、いろいろな観光名所を巡る旅が好きだからと旅行会社に就職したとします。するとどうなるか? 働きはじめると、集客やイベントキャンペーンの企画、クレーム対応や接客等に追われ、あなたの好きな旅行を楽しむ暇がないわけです。すると、好きなことを仕事にした人ほど「こんなはずじゃなかったのに…」、「本当はこんな仕事、好きじゃないのかも…」との疑念に取り憑かれ、モチベーションが下がっていき、仕事も上の空になり、スキルも身につかず、最悪離職してしまいます。

この例だと、サービスを受ける側とサービスを提供する側では仕事に対するイメージが異なるのは当たり前ですし、そもそも好きなことは年齢や時代によって変化するものです。

好きで仕事を選んでしまうと、情熱がなくなり仕事に飽きたら「もういいや転職しよう」となってしまいます。それだけ「好き」と「仕事」の間には大きなギャップが存在します。「好きなことを仕事にするのが幸せである」ではなく、「仕事を続けていけば好きになり、幸せを感じられる」。これが事実です。仕事への情熱は最初からあるわけではなく「続けていくと何となく感じられるようになる」といった、ゆるふわな感覚から始まります。

仕事というものは、不思議なものでやっていれば必ず楽しい面が出てきますから、好きなことを仕事にしようとは考えずに、「好きな仕事探し」もしないで、就活をはじめてみてください。それが「普通の就活生」に最適ですから。

強みや価値観はあくまで「武器」でしかない

いつ使う武器かと言えば、書類選考や面接時です。詳しくは次回以降の記事で解説しますが、採用担当者や面接官は①働きたい理由と②活躍できる理由、この2つにつながるポイントしか志望動機では見ていません。

①働きたい理由…企業とマッチングしているか、熱意や本気度はどれくらいか。「就活の軸」である価値観が起点。

②活躍できる理由…一緒に働きたいと思うか、入社後に伸びしろはありそうか。「取り組む姿勢」である強みが起点。

そう考えると、そもそも就活対象の業界や企業が定まっていないうちに強みや価値観といった武器を自己分析で磨いても、それが本当に志望する業界や企業の役に立つものなのかわからないのです。この2つから業界や職種を絞っていくのではなく、逆に「この業界や企業がいいかもしれない」と定めてから、その業界や企業に評価されるための自己分析を行えば良く、就活の序盤ではどちらも考えなくていいものです。

「自分の価値観に合った業界や企業はどこにある?」と、過去経験を起点にした就活を進めても選択肢が狭まるだけです。就活のはじめは業界や職種を広く見るほうが得、というより業界や職種を幅広く見ていくと、自然と志望先を取捨選択する「目利き」がついてきます。これこそが価値観であり、「就活の軸」です。就活の最初から作れるものではありません。

だからといって、自分の強みを活かせる仕事を選んでも、そこに適性があるかはわかりません。強みとは他者との差別化ですから、面接時にはその企業で活躍できる理由を語れる武器になり得ますが、それだけです。実際に仕事に活かせるかどうかは、配属先の人間関係や仕事内容等の環境に依存します。「強みを活かせる仕事なら適性がある」といった考え方に対しては、環境や時間の変化、上司や部署の異動で求められるスキルセットが違ってくるので、今や疑問符が付いています。

就活を進めるうえでは、価値観や強み、適性といった「学生のうちはまだハッキリとしないもの」を頼りにせず、視野を広げることだけ考えましょう。

「やりたいこと」はなくていい。まずは「興味・関心」から30社リストアップ

「就活の軸」でよく言われる、将来やりたいこと。たとえそれが明確にあったとしても、やってみて本当に楽しいのかは、特に仕事ではやってみないとわかりません。

やりたいことの前に、やっていて楽しいことがあります。楽しいことと向き合い、楽しいことをやっていく。すると情熱が生まれ、好きになり、結果的にやりたくなってきます。これが仕事を好きになる、情熱のプロセスです。

となると、アルバイト程度の経験しかない、まだ本当の意味での仕事をしたことがない「普通の就活生」では、仕事の何が楽しいのか理解も体験もできていません。想像するしかないのです。だからこそ、選択肢を増やせるよう、「興味・関心」の視野を広げる必要があります。

「選択肢を増やせと言われても、そもそもどんな仕事があるのかわからないし、方向性もぼんやりしているし…」

就活のはじめは、それで構いません。何度も繰り返しますが、就活は「興味・関心」から入っていいですし、入るべきです。最初から「この会社に何としても入りたい!」と心から決まっている就活生は極少数ですし、「この業界じゃないとダメ!」、「職種は絶対にこれじゃないと!」といった大まかな方向性すら定かでない就活生も多いでしょう。

ですが、安心してください。将来の選択肢がはっきり見えている人はほとんどいません。将来に悩み、キャリアに不安がある状態は、20代どころか30代、40代の社会人にとってもごく普通のことですし、定年間際でもまた悩みます。どの年代でも、キャリアの選択は視野を広げることから始まります。

だからこそ、大いに悩み、不安を抱えながらも、一歩ずつ就活を進めていきましょう。「この会社なら自分の特性を活かせそうだ」、「自分の強みと、会社が求める人材像が一致している」からリストアップしないで、様々な業界や職種、企業に、最低30社へ「興味・関心」を寄せてみてください。

森田 昇

10回転職したキャリアコンサルタント・中小企業診断士

何の資格も技術もないまま就職氷河期の1998年に大学を卒業、社会人となる。新卒入社した当時のITブラック四天王を3年で辞めた後、2社目は1ヵ月で、3社目は2ヵ月で退職。サラリーマン生活20年間で10回の転職を経験し、年収の乱高下を味わうも「ちょいスラ転職®」と「就活の技法」で生涯収入の最大化へと着実に近づいている。著書に『売れる!スモールビジネスの成功戦略』(明日香出版社)、『年収300万円から脱出する「転職の技法」』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。

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