水素市場へ地元企業の参入促進 長崎県がブラザー工業と連携協定 燃料電池、配送システム普及狙う

協定書に署名する安井氏(左)と宮地氏=長崎県庁

 長崎県とブラザー工業(名古屋市)は14日、新エネルギーとして市場拡大が見込まれる水素関連分野への県内企業参入を促すため、連携協定を締結した。同社はミシンやプリンターの大手だが、近年は燃料電池や配送システムの開発・販売など水素事業に力を入れており、県内企業と連携し普及を目指す。
 同社は「PureEne(ピュアエネ)」ブランドで水素事業を推進している。停電時でも安定的に電力を供給し続ける無停電電源装置(UPS)として、水素燃料電池と蓄電池のハイブリッド型「AC-UPS」を2022年に受注開始。発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しないのが特長で、成田空港に84セットが昨年採用された。今後、鉄道や道路など交通インフラのバックアップ電源として普及を期待する。
 このほか、電柱のような水素パイプラインの空中配管システムを福島県浪江町で実証実験。地中敷設より安価で済み、破断しても水素は上空に拡散するため安全性を担保できるとして、社会実装を目指している。
 気体の水素を取り込める固体「水素吸蔵合金」を活用した充塡(じゅうてん)・配送システムも自社開発した。名古屋市内の自社工場で、太陽光発電によって製造したグリーン水素を水素吸蔵合金の燃料ケースに充塡し、トラックで運搬。自社展示館の燃料電池に使い、電力の一部を賄っている。火にくべても爆発しない非危険物のため、無資格者でも運べる。
 一方、県は県内中小企業や教育機関と連携し「水素事業化研究会」を立ち上げたが、研究や実証にとどまっている。今月、認定事業者への助成金制度もある「水素社会推進法」が成立。社会実装や市場拡大が加速しそうな中、県は、水素活用で成果を積み上げつつある東証プライム上場の同社に連携を持ちかけた。
 県庁で同社新規事業推進部の安井邦博部長と宮地智弘県産業労働部長が協定書に署名し交わした。
 県が新産業創出に向け洋上風力発電など再生可能エネルギー活用を推進しているのを踏まえ、安井氏は会見で「その余剰電力を活用させてもらえれば、さまざまな取り組みが可能となる」と強調。「再エネ分野の産業は多岐にわたる技術が必要で1企業で完結できない。地域に根付いた成果を目指す」と県内企業や教育機関との連携に期待を寄せた。一例として、グリーン水素製造プラントを持つイワテック(長崎市)や、広大な土地で水素由来の電力利用を見込めるハウステンボス(佐世保市)を挙げた。

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