社説:保護司殺害事件 一人で抱え込まない支援を

 罪を犯した人の立ち直りを支援する保護司の新庄博志さん(60)が大津市の自宅で殺害され、担当していた無職の男が殺人容疑で逮捕された。

 新庄さんは2006年から保護司として活動。18年に強盗事件を起こして「保護観察付き執行猶予」となった男を支援していた。死亡したとみられる先月24日夜も面接予定で、新庄さんの自宅に男が訪れていたとされる。

 男は容疑を否認しているという。全容解明に向けて捜査の手を尽くしてもらいたい。

 事件を受け、法務省は全国の保護観察所に対し、保護観察対象者とのトラブルや、活動への不安を担当保護司から聞き取るよう要請した。保護司が安心して活動できるよう、対策を急がなくてはならない。

 総務省が19年に実施した保護司へのアンケートでは、7割が自宅を面接場所にしており、1人で面接することに不安や負担を感じる人が3割近くいた。

 対策では、自宅以外での面接場所の確保や複数での担当、第三者の付き添いなどが考えられるだろう。地域拠点「更生保護サポートセンター」は土日や夜間が使えないなどで使い勝手が悪いとの声もある。柔軟な運用や施設の拡充を進めたい。

 保護司は非常勤の国家公務員だが、交通費などの実費以外は支給されない民間ボランティアだ。保護観察中の人と月に数回面会して生活や仕事の悩みを聞き、社会復帰を手助けする。各地の保護司会の推薦で人選されることが多い。

 だが高齢化と担い手不足が顕著で、法定数5万2500人を下回る状態が続く。再任条件を78歳未満までと引き上げたが、23年1月時点で約4万7千人。60歳以上が約8割を占める。

 法務省の検討会が今年3月にまとめた中間報告では、公募の試行や年齢制限の撤廃などが盛り込まれた。人口減少が進む中、保護司の善意や熱意に任せきりではなく、いかに持続可能な制度とするかが問われよう。検討中とする報酬制の導入にも踏み込むべきではないか。

 社会問題の多様化や複雑化で、保護司一人では対応が難しい事案も増えているという。だが、守秘義務がある保護司は悩みを抱え込んでしまいがちだ。

 保護観察にふさわしい対象者を家裁の調査官らが決めるのに対し、今回のような保護観察付き執行猶予は、裁判官が量刑判断として決める。指導に従う気がない人なども対象になりやすいとの指摘もある。

 新庄さんは滋賀県更生保護事業協会の事務局長として、保護観察期間が終わった後も地域で対象者を孤立させず、保護司も課題を共有できる取り組みに熱心だったという。関係機関が保護司と連携するネットワークも実現した。新庄さんの遺志を全国に広げたい。

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