ヨット『世界一周』単独無寄港・無補給 史上最年少24歳 2度目の挑戦で達成 「行った人にしか見せてくれない景色もあるんだ」8カ月間の記録

ヨットによる単独無寄港・無補給の世界一周を、日本人最年少で達成した木村啓嗣さん。

たった一人で乗り越えた過酷な冒険、そこで得たものとは?

■1度目は失敗 あきらめずにリベンジ

おかえりなさい!と出迎える声と盛大な拍手の中、現れたのは24歳の木村啓嗣(ひろつぐ)さん。

ヨットによる単独無寄港・無補給での“世界一周”に成功した。

日本人では5人目、史上最年少での快挙達成となった。

木村啓嗣さん:無事、世界一周回って、ここまで戻ってこられたことを非常にうれしく思います。

世界最高齢で太平洋を横断したヨット界のレジェンド・堀江謙一さん(85歳)も、その偉業をたたえた。

堀江謙一さん:僕も50年前に、木村さんと同じように単独無寄港・世界一周を行ったのですが、出発点が目的地ですから、『そんな航海は最初から行かなくて良かったんじゃないか』と言われそうな、そんなばかばかしい航海ですが。見事達成されまして、おめでとうございます。

「ばかばかしい」ともいえる冒険…。しかし、2回目の挑戦で成功した木村さんを支えたのは、確かな“情熱”だった。

大分県出身の木村さんは、高校のヨット部でその魅力に取りつかれ、「世界一周」を夢見るようになった。

卒業後は海上自衛隊に入り、潜水艦の乗組員に。それでも夢をあきらめきれず、2020年に退官。

転職先の会社が応援してくれたことで、夢の実現に向けて動き出した。

木村啓嗣さん:たまたま、26歳10カ月で白石康次郎さんが達成されているというのを知って、迷うこともなく(挑戦)したいと思って、自分の限界を知ってみたいというのが走りだしの源でした。

最初の挑戦は、2022年11月。盛大な見送りを受けて出発したものの、わずか1週間ほどで断念。

木村啓嗣さん:自分ならいけると思っていたのにという感情。引き返すのは悔しいけど、今のままでは達成なんて程遠いなと。

悔しさをバネに、ヨットの傷の修理やメンテナンスに専念することに。

最初の失敗からおよそ1年がたった2023年10月、リベンジをかけて再出発した。

木村啓嗣さん:やっぱり2回目なので、半分以上は走りたいという保険のかかった思いと、絶対に世界一周してやりたいなという気持ちがある。まだ見てないその先を見に行きたいです。

■荒波にもまれる日も一人…体重は12キロ減

総航行距離およそ5万2000キロ。8カ月ほどにも及ぶ冒険の記録だ。

木村啓嗣さん:雲が虹を作っています!見えるかな?すごく低いんですけど。

序盤はスムーズで、海の上での生活を満喫している様子だった。しかし…。

何が起こるか分からないのが海。

木村啓嗣さん:横からも波が来ている状態です。波がめっちゃ高い!

頼れるのは自分だけ。雲行きが怪しくなると…。

木村啓嗣さん:つかむところを増やしておこうと思って、こういうハンドホールドを増やしたり。ただ、船さえ壊れなければな、という気持ちは非常に強いです。

荒れる海、吹き付ける風。大海原では耐えるしかない。

木村啓嗣さん:一連のトラブルからメインセール(主帆)を下ろして、今はジブセール(前帆)だけで帆走しています。今後の可能性を含めてきちんと走っていけるように、プランを考えていかないといけないなと思っています。

外は雨ですね。船にぶつかった波は上に引き上がってきます。

ヨットの命とも言える帆が破れても、自分で縫い直すしかない。

荒波の影響で、食事や睡眠が満足に取れない日も続き、疲労は極限に。体重はおよそ12キロも減っていた。

その一方で、穏やかな時は海の素晴らしさに癒やされることも。

木村啓嗣さん:かなり穏やかな風で進んでいます。

イルカが泳いでいます!見えたかな、今?イルカさんが一緒に泳いでくれています!

つらいことも、うれしいことも、たった一人でかみしめてきた。そんな一人ぼっちの冒険も7カ月を超え、ゴールが近づくと…。

木村啓嗣さん:1日1日、1時間1時間の重みを感じながら走っている…そんな状態です。

■ついに記録更新「この経験を自分だけのものにしないように」

6月8日午後2時頃。海の上空を飛ぶヘリコプターからは、無事に帰ってきた木村さんのヨットが見えた。

記者リポート:木村さんがこちらに向かって手を振ってくれています!とてもいい笑顔です。

231日の航海を終え、紀伊水道でゴール。見事、日本人最年少で世界一周の記録を更新した。

木村啓嗣さん:やっぱり日本が見えた時はめっちゃうれしいというか、楽しいというか…。うれしい以上の言葉がないと表現できない。本当に自分はやったんだと。

人と直接触れ合うのはおよそ8カ月ぶり。陸に上がって一番楽しみだったのは…。

木村啓嗣さん:ついに揚げ物。うまい!うまい!うまい!

姉・咲貴さん:こうやって帰ってきてちゃんとご飯をおいしそうに食べているのを見ると、安心します。

決して穏やかな日ばかりではない大自然への挑戦を終え、どんなことを感じているのか。

木村啓嗣さん:見たことがないものを見たり、知ったりできたことは非常に自分の中での世界観が広がって、行った人にしか見せてくれない景色もあるんだなと思いました。自分が経験したこのプロジェクト自体を自分だけのものにしないように、子どもたちがチャレンジングな人生を歩めるための活動をできたら。絶対にしたいなと思います。

(関西テレビ「newsランナー」2024年6月10日放送)

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