前年から運用方法が一部変更。2024年のル・マン24時間セーフティカールールをおさらい

 まもなく決勝レースがスタートする、2024年シーズンのWEC世界耐久選手権第4戦『第92回ル・マン24時間レース』。62台のマシンが参戦し、丸一日かけて行われるレースでは大小さまざまなアクシデントの発生は避けられず、セーフティカー(SC)が出動する機会もあるだろう。ここでは、そんなル・マンのSC運用について解説する。

■FCY/SZ/SC、3つの介入方法

 まず、SCが出動するケースだが、これはレース中に発生するアクシデントの中でもとりわけ大きな復旧作業を要する場合となる。コース上に落ちたデブリの回収など、短時間で作業が完了する軽微なアクシデントの場合は全コースを一律に80km/h制限とする『フルコースイエロー(FCY)』が用いられる。FCY中は原則ピット作業が禁止となる。

 コースアウトした車両の排除などでは、ル・マン独自のルールである『スローゾーン(SZ)』が登場する。これは全長13.626kmのトラックを9つに区切ったうちの一部を80km/h制限とすることで、作業エリアの安全を確保しつつ、それ以外の区間では競争を継続できるようにしたものだ。当該区間のひとつ手前のセクションでは“ネクスト・スロー”のボードが掲げられ、これ以降SZを抜けるまで追い抜きが禁止される。

『セーフティカー(SC)』はとくに大きな事象、例えば複数のマシンが絡むクラッシュが発生した場合や悪天候となった際に、レースコントロールが用いる介入手段のひとつだ。SCはFCYと同様にWECのシリーズ戦でもおなじみだが、ル・マンでは13kmを超えるコース長と24時間というレース時間の長さを考慮し、3台の先導車が3カ所(ホームストレート/デイトナ・シケイン先/アルナージュ先)から同時にコースインするかたちが採られている。

 FCY時と異なり、SC導入中は後述するマージが開始される以前はピットインすることが許される。しかしピット作業を終えた車両は、もともと居た隊列の後ろのSCグループの最後尾でコースインしなければならない。これによりSCと隊列に追いつくために単独でコースに復帰し、作業中のマーシャルに危険が及ぶことを防ぐことができる。

セーフティカー導入時の様子 2023年WEC第4戦ル・マン24時間

■ドロップバックが廃止。マージとパス・アラウンドは継続

 昨季2023年、ル・マン24時間のSCルールに『マージ』、『パス・アラウンド』、『ドロップバック』という3つのシステムが加わった。今シーズンはこのうちのふたつが継続される一方、計3つのクラス(ハイパーカー、LMP2、LMGT3)を再整列させるドロップバックについては、「リスタートまでに時間が掛かりすぎる」として廃止されることとなった。

 コース上の安全が確保されると、レースディレクターの指示でリスタートの準備が開始される。この時点で緊急ピットインを除いてピットレーンは閉鎖され、各車は1台のセーフティカーの後ろに並ぶよう指示される。これがマージだ。

 マージによってひとつの大きな隊列が形成された後、今度はパス・アラウンド(ウェーブ・バイとも呼ばれる)が行われる。ここではカテゴリーリーダーの前を走る車両がSCを追い抜き、トラックを一周して隊列の後ろに加わることになる。これによりクラストップを走る車両が、集団形成によって大きなアドバンテージを得ることを防ぐことができる。

 なお、パス・アラウンドを受けることができるかどうかは、各チームが責任を持って判断することになっており、対象外にもかかわらずSCを抜いて行った車両にはレースラップ2周分の時間にあたるストップ・アンド・ゴー・ペナルティが科せられる。

 マージとパス・アラウンドの手順には通常3~4周の時間を要する。

WECが発行しているル・マン24時間サーキット(サルト・サーキット)のコース図

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