『街並み照らすヤツら』あまりにも巧妙で怒涛の神回 日下部とトミヤマの不可思議なバトル

荒木(浜野謙太)のビリヤード店を襲った本物の強盗の正体が、別の商店街の店主たちだということに加え、彼らに強盗のやり方を教えた指示役がマサキ(萩原護)だったと判明した前回。正義(森本慎太郎)たちが問い詰める前に逃げだしたマサキだったが、大きな布袋という古典的なアイテムであっさりと捕えられてしまう。もし彼が警察に捕まってすべてを話してしまったら、商店街のみんなも捕まってしまう。なんとか策はないかと頭をひねる正義は、その布袋をかぶって商店街を潜行するのである。

6月15日に放送された『街並み照らすヤツら』(日本テレビ系)は第8話。今回は、第1話と第5話以来となる高田亮脚本・前田弘二演出の“鉄板回”。しかも放送前から前田のX(旧Twitter)ではなにやら自信たっぷりの投稿がされていたのでどんな出来栄えかと期待してみれば、1時間弱にありとあらゆるものが詰め込まれたとんでもないエピソードではないか。連続ドラマの1エピソードではあるが、ここまでのストーリーの前提さえ把握しておけば1本の映画としても成立する、体感5分のあまりにも巧妙で怒涛の神回である。

先述の布袋に目の穴だけを開けてこっそりと動く正義の姿は、さながらデヴィッド・ロウリーの『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』のゴーストなのだが、もちろん生きているのでかえって目立つ。正義と彩(森川葵)を引き離すために正義を逮捕する方針に転向した澤本(吉川愛)に見つかりそうになった際に道の隅に丸まってごまかそうとする点は、この古典的アイテムの非常に正当な使い方といえる。

しかも最初はマサキに“話させない”ために使われたそれは、正義が商店街のみんなに“話す”ために活用され、澤本と日下部(宇野祥平)の話をこっそり聞くためにも機能し、ひいては澤本の話を聞かずに逃亡するために使われることでようやく正義の手から離れる。また、中盤の光一(伊藤健太郎)との対峙シーンでは身を隠しながら対話するツールとして別の布袋も活用されているわけで、対話が主眼となる今回のエピソードにおいてはひたすら有効に使われ続けるのだ。

今回とりわけ目を見張ったシーンはふたつ。まずは捕らえていたマサキを連れて荒木とシュン(曽田陵介)がスナックに飲みに行くシーン。劇中にはいくつかの人が寄り集まる“場”が存在しているのだが――たとえばカフェであったり酒屋の一角であったりと、基本的には“味方”だけが集う場である一方、このスナックに関しては商店街の店主たちと対立する大村(船越英一郎)もたびたび訪れたり、彩目当てでシュンが通い詰めていたこともあったりと、半ば登場人物たちにとっての休戦地帯のような場でもある。

そういった意味で、今回のマサキへの荒木の心情の変化のようなものもすんなりと飲み込めるものがある。そこで彼ら3人が盛り上がって飲んでいるところに、他の商店街の面々もやってきてカラオケがスタート。荒木がプリンセスプリンセスの「M」を歌い始めると、その切ないメロディに重ねられるようにして澤本が「恋の実」を訪れ、店のなかで彩がケーキを作っている姿を目撃してそっと立ち去る様子が描かれる。そのシーンの以後、突然登場しなくなった澤本。スナックという休戦地帯がもたらす効果が、歌を通して別の場にも波及し、彼女の心変わりを促すことになったのだろうか。

そしてもうひとつは何と言っても、終盤に突発的に訪れる日下部とトミヤマ(森下能幸)の決闘シーンだ。異様なテンションで決闘へのモチベーションが高められ、いざ始まるかというところに空気を読まずに割り込んでくる正義。目の前で繰り広げられる不可思議なバトルをさほど気にかけもせず普通に話しかける正義に、やたらと気合の入った躍動感あるカメラ。そしてなぜか日下部とトミヤマの間に生じる友情のようなもの。ひたすら関係各所と折衷を図ろうとしてきた正義の奔走を、より困難なものにしていく荒唐無稽な躍動を見ると、このドラマの本分はここから始まるものなのかとさえ思えてしまう。

(文=久保田和馬)

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