災害への備えは「特別なこと」ではない!日常生活に溶け込ませたハードルをあげない“防災10カ条”

“防災”と聞くと、まず何から始めたらよいのか分からず戸惑う人も多いのではないだろうか。「特別なことをしなければ」と考えると、ハードルが高くなり後回しになってしまう。日常生活の中で少しずつ備える方法についてNPO法人「ママプラグ」の理事・冨川万美さんに聞いた。

防災はまず“日常生活”から

災害が起きると、報道などで被災地の状況を目にすることが多く防災への意識が高まる。しかし、その感覚は時間の経過と共に薄れてしまうことも。だからこそ、防災力アップの第一歩は「日常生活」の中にあるという。「災害のために何かしなくては」と考えると、災害が起きていない平時に忘れてしまいがちだからだ。

冨川さんは、まず自分の生活スタイルを書き出してみることを勧めている。毎日起きてから寝るまでに自分が必ずすることを把握すると、災害でライフラインが止まった時に何ができなくなるかが分かる。シャワーを浴びられないとか、赤ちゃんのおむつを替えられないなど、“できなくなること”がたくさん出てくる。「何に困るか」を日常生活の中で考えておくと、自然に防災を始められる。

災害発生時に守るべきものは3つに分けられる。まずは「命」、そして命が守られた後の「日常生活」、最後に日常生活を守るための「健康」だ。これら3つを守るためにはどうしたらよいのか。

今すぐできる10のこと

特に子供がいる家庭での防災は、日ごろから子供とどう過ごしているのかが重要になってくる。特殊なことを考えなくても、日常生活を見直すだけで防災力は劇的にアップするという。「命」、「日常生活」、「健康」の3つを守るために今すぐできることを紹介する。

1.行けるときにトイレに行っておく
災害発生直後はトイレに行けないことも。大人も子供もこまめにトイレに行っておく

2.レースカーテンやブラインドは閉めておく
窓が割れた場合、飛び散るのを防ぐことができる

3.寝ている場所の安全を確認してみる
ベッドに寝てみて、落ちてきそうなものがないか確認

4.スマホに災害時に役立つアプリをダウンロード
ラジオを無料で聞ける「radiko.jp」などのアプリを入れておくと便利

5.携帯電話の充電器は常に持ち歩く
情報収集のためのスマホは命綱。停電を想定して充電器は常に持ち歩く

6.生理用品とおむつは使い慣れたものを十分に
「避難所に行けば手に入る」と思わず日ごろから十分な量を買い置きする

7.水、レトルト食品、乾物を多めに買い置きする
災害後の1週間は買い物をせずに乗り切れるように備蓄が必要

8.ママバッグは使った分だけ足す
ママバッグは最強の非常用持ち出し袋。使った分はすぐに補充を

9.外出先で非常口とAEDの場所を確認
外出先では到着後にまず非常口やAED、避難経路を確認する

10.ガソリンは半分になったら入れる
緊急時の避難や車中泊を想定してこまめに給油を

もしもの時に「やらない方がいいこと」

逆に、災害が発生した時に「やらないほうがいいこと」もある。1つは、「自分は大丈夫だ」と思うことだという。
「ファミリーレストランなどにいると、震度4くらいの地震ではみんな普通にしている。そういう時に自分も大丈夫だと思わないで避難経路を見つけておくとか、周りが大丈夫そうにしていても自分が『危険だ』と思ったことを信じてほしい」と冨川さんは話す。

2018年に発生した西日本豪雨。
冨川さんは「この時に見られたのが『雨だからいつかやむ』というなんとなくの自信。多くの人がそのように考えたが、結果的に土砂にのまれて亡くなってしまう人がいた」と振り返る。
正しい情報を入手し、過信せずに判断することが重要だ。

2つめは「我慢すること」。被災すると、「災害時はこういうものだ」と思い込み、我慢する人が多い。地元の人たちが復興に向けて動き出しているのを見ると、自分だけ県外に出て普通の生活を送ることに後ろめたさを感じてしまうという。

移動が可能ならば、家族で移動して被災地から離れた場所で生活することはやってもいいこと。我慢しないことが大切だ。

我が子に合った備えを

災害が起きても、赤ちゃんや子供が「今は災害時で、特別な状況なんだ」と認識することは難しい。環境の変化を理解しにくい子供にとっては、災害時も“我慢するべき時”にはならない。だからこそ、親が子供の日常生活をいかに守るかが重要になる。

被災直後には物資が足りなくなる事態が想定されるし、支援物資もすぐに届くわけではない。

また、赤ちゃんの場合、月齢で必要なものが全く違うことがある。例えばミルクについても、完全に母乳で育てているのか、母乳と市販のミルクによる混合授乳なのか、また粉ミルクなのか液体ミルクなのかなどと、赤ちゃんによって必要になる物資が全く変わる。

支援物資が届いても、果たして自分の子供に合うものなのかは分からない。“我が子に合った備え”をする必要がある。

被災する前に話し合おう

被災直後は最も混乱する時期。どのように行動するかを事前に決めていないと、さまざまな制約に縛られてしまう。だからこそ、被災する前に家族で話し合っておくことが大切だ。

冨川さんは「事前の取り決めをしておくかしないかによって、その後の生活が変わる」と話す。

事前の取り決めや自分の習慣を把握することで、被災後の行動に備える。そして、命を守ることができた後の心身を健康を保つために備える。日常生活の中で自分にとってなければ困るものを考え、それを備えておくことが防災に近づく第一歩だ。

冨川万美
特定非営利活動法人MAMA‐PLUG(NPO法人ママプラグ)理事。青山学院大学卒業後、大手旅行会社、PR会社を経て、フリーランスに転向。東日本大震災での母子支援を機に、NPO法人ママプラグの設立に携わる。防災に対して、アクティブな姿勢で行動を起こす「アクティブ防災」を提唱し、全国各地でセミナーを行っているほか、東京都の「東京防災」「東京くらし防災」編集・検討委員なども務める。二児の母。

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