コロナ後も堅調! ミールキットのパイオニア、ヨシケイの現在地

「ミールキット」という言葉が一般的に知られるようになるはるか以前、1975年より食材宅配サービスを提供してきたヨシケイ開発(静岡県/井野口雄一社長)。コロナ禍を経て、ミールキット市場への新規参入と撤退が相次ぐ中、老舗企業として強固な基盤を維持している。そんなミールキットのパイオニアである同社の担当者に、人気商品から最新の取り組みを聞いた。

調理時間約10~15分以下「Cut Meal」が好調

コロナ禍における内食需要の増加は、ミールキット市場への新規参入を加速させた。しかし、コロナ禍が収束に向かうにつれ需要は落ち着きを見せ、新規参入企業の撤退も相次いだ。一方で、ミールキットのパイオニアであるヨシケイ開発は、約50万世帯の顧客数をキープしている。

同社の特徴は、全国64のフランチャイズ(FC)拠点から直接ユーザーに商品を届ける「スマイルスタッフ」の存在にある。スマイルスタッフが顧客との会話を通してそれぞれの需要を把握し、提案する。だから、顧客のニーズにフィットした提案ができるというわけだ。

ただ、「コロナ禍でオンラインの営業施策を取り入れたことは、当社にとって画期的だった」と、同社プロモーション部課長の杉山智史氏は話す。一時期は30代の新規顧客の構成比が増加した。LINE WORKSを使った営業手法を取り入れたことで、非対面での営業ができ、業務効率化にもつながり、ロイヤルカスタマーとのコミュニケーションにも時間を割けるようになった。

とはいえやはり、同社の強みは自社便による直接配送だ。同社プロモーション部の七海敦子氏は、「根底にお客さまとのリアルな繋がりがあるうえでのデジタル施策」と強調する。

現在、人気急上昇中という「Cut Meal(カットミール)」の背景にも、スマイルスタッフの“御用聞き”の力がある。「カットミール」は、カット済みの食材がセットになった10~15分ほどで作れるミールキットコース。コロナ後期から需要が伸び始め、販売実績は2018年の発売から2024年3月末現在までで累計9000万食を突破した。

杉山氏は、「スマイルスタッフは、お客さまとの会話や交流の中からそれぞれの個性を把握して、本当に欲しいものをお届けできる。『最近お忙しそうですね。カットミールに切り替えますか』といった提案ができるのは、スタッフがお客さまをよく理解しているからこそ」と絶大な信頼を寄せる。

ミールキット市場に今求められる「付加価値」とは?

物価高騰の影響を受け、同社も値上げを敢行した。しかし、「家に食材が届く」「時短で作れる」といった付加価値を訴求できる同社のサービスは、値上げによる影響を受けにくい。また、食材価格が高騰し、野菜の価格変動も激しい今だからこそ、「食費が安定する」(七海氏)と喜ぶ声も寄せられているという。

「使い切れる量の食材をお届けするので、使いきれずに余らせてしまうことがない。小袋入りの調味料が付いているから『特殊な調味料を使い切れず賞味期限が切れた』ということもない。食品ロスも削減できる。一見割高に見えても、トータルで見ると食品にかけるコストを減らせるというメリットがある」(七海氏)。

商品開発においても、付加価値の視点を重視している。「『タイパ』の概念が定着した今、時短も付加価値のひとつ」と、杉山氏。「献立を考える」「買い物をする」といった手間を省ける、といった要素も時短の一環として捉え、開発に取り組んでいる。

「単純な時短ではなく、料理家や有名シェフとコラボしたミールキットも人気」と、七海氏。「日常の食事を届けるサービスである以上、尖り過ぎたメニューは馴染まない。しかし、ときにはコラボメニューを週の間に導入して変化をつけている」という。

有名シェフとコラボしたミールキット

メニューブックには、シズル感あふれる写真が並ぶ。杉山氏は、「美味しそうなビジュアルからも、付加価値を感じていただければ」と狙いを語る。

ロイヤルカスタマー層を支持基盤に、ミールキット市場をけん引する同社。今後の課題は、「人口減少傾向にある中、顧客層の厚みを増すこと」(杉山氏)という。一時的な利用に留まっている新規利用者を、いかにしてロイヤルカスタマーへと変えていけるか。地道なキャンペーン施策と付加価値の高いメニュー開発を継続するとともに、今後はCRMのデータをリアルな営業に生かすなど、リアルとデジタルの融合を強化したい考えだ。

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