最高裁判決から2年 生業原告団長の中島さん、国の責任問い続ける

自身が経営する相馬市のスーパーで魚をさばく中島さん。国の責任を問い続ける

 東京電力福島第1原発事故を巡り、本県などの避難者らが国と東電に損害賠償などを求めた訴訟で、国の賠償責任を否定した最高裁判決から17日で2年となる。後続訴訟ではいずれも最高裁の判断を踏襲しており、4月には一部後続訴訟で最高裁が原告側の上告を棄却した。それでも原告は「一部の人が苦しみ、一部の人が利益を受ける。この社会の構造を変えないといけない」と闘う意味を強調する。

 「もしかしたら、ひっくり返されるのではないか」。同種訴訟で最多の原告数を抱える福島生業(なりわい)訴訟原告団長の中島孝さん(68)は、最高裁判決の1週間前から妙な胸騒ぎがしていた。「判決で国の責任が否定されれば、他の訴訟などに冷や水を浴びせてしまうよな」。この不安が拭えなかった。

 判決当日の最高裁第2小法廷。裁判長が読み上げる内容は難しかったが、国の責任が否定されているのは分かった。「俺らの思いを踏みにじるのか。許せなかった」。原告席の最前列から4人の裁判官の目をじっと見つめた。3人が目をそらす中、1人だけ中島さんに穏やかな視線を送る裁判官がいた。「原告をさげすむ感じもなかった。なんでそんな目線を送れるんだ」

 後に分かった。その人こそ「事故を回避できた可能性が高い」と唯一の反対意見を付けた三浦守裁判官だった。「あんた方が正しい。負けないで、また闘いなよ」。法廷での視線から、そう背中を押されている気がした。三浦裁判官の姿が闘い続ける原動力であり、現在までの支えでもある。

 「後続」サポート

 2013年の提訴から11年。すでに判決が確定したが、中島さんは後続でも審理が続く生業訴訟で原告団長を務め、他の訴訟もサポートする。「自分だけ救済されればいいわけではない。全体が救済されないと解決にはならない」。国の姿、在り方を変えるまで走り続ける。(三沢誠)

 新たな争点の主張を、立命館大・吉村名誉教授

 最高裁は先行訴訟4件で2022年6月、東電の責任を認めた一方、長期評価の信頼性や津波の予見可能性に触れず、国の責任を否定した。同種訴訟で最高裁が下した初の司法判断に、公害訴訟に詳しい立命館大の吉村良一名誉教授(74)は「論点落ちの判決だ。論理的に判断すれば国の責任を認めることになるため、あえて争点に言及しなかったのだろう」と見解を示す。

 この判断の背景に吉村氏は「最高裁の役割」を挙げる。最高裁には〈1〉被害者の救済を進める〈2〉国の政策に基づき判断する、あるいは判断しないことで政策を是認する"二つの顔"があると指摘。今回は「原発再稼働の動きも強まっている状況から国の責任を否定したのだろう」とした。

 今後について、吉村氏は「最高裁が判断しなかった点や、争点になっていなかった点を主張していくべきだ」と強調する。

 原発訴訟 全国で約30件あり、主な争点は▽2002年の国の地震予測「長期評価」の信頼性▽福島第1原発に巨大津波が到来することを予見できたか(予見可能性)▽国が東京電力に津波対策を命じていれば原発事故を防げたか―。今年4月には最高裁第3小法廷がいわき市民訴訟の上告を退けた。

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