いとうるはし(6月16日)

 〈やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて〉。時とともに表情を変える荘厳な光のショーに魅せられるのは、清少納言ばかりではあるまい。清麗な倫理観を持つ日本人は、さわやかな早朝の空気を愛でる▼日の出のわずかな時間帯に数多くの言葉がひしめく。暁、東雲[しののめ]、有明、黎明…。彼誰時[かわたれどき]は薄暗く、浮かぶシルエットを誰かと見分けられない頃、朝ぼらけは、夜がほのぼのと明ける頃を指す。自然とともに生きてきた民族だからこそ、陽[ひ]の移ろいに、ひときわ敏感なのだろう▼広野町は昨年、「日本一美しい日の出の町」を宣言した。太平洋に面した全国7市町を調べたところ、「快晴日数」は堂々1位。大気中のちり「エアロゾル」の薄さは2位だった。海を一望できる高倉山では、展望台の整備が進む。まだ暗いうちから訪れたい。先人が紡いだ豊かな表現の数々をかみしめに▼海面から昇る朝日には、古里を未来に押し出す力が満ちる。放映中のNHK大河ドラマ「光る君へ」では少々、癖のある性格に仕立てられた、かの随筆家も時空を超えてお連れしたい。〈やうやう、にぎやかになりたる郷の姿、いとうるはし〉と感じいってくれるに違いない。<2024.6・16>

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