ガザ情勢で米欧間に隙間風(6月16日)

 映画好きなら「史上最大の作戦」(1962年)かトム・ハンクス主演の「プライベート・ライアン」(1998年)を観[み]て、連合軍のノルマンディー上陸作戦を疑似体験された方も多いのではないだろうか。

 1944年6月6日、米英を中心とする連合軍は、フランスのノルマンディー海岸に大規模な上陸作戦を敢行し、1週間で50万人兵員を上陸させた。この作戦は、第2次世界大戦におけるドイツの敗戦を決定的にした。

 ドイツ軍と連合軍の双方に多くの戦死者を出したが、フランスの民間人の犠牲者も大きかった。6月6日には毎年ノルマンディー海岸で戦没者追悼と米欧の結束を確認する式典が行われている。

 今年もバイデン米大統領が国賓として招かれ演説を行ったが、今年はウクライナのゼレンスキー大統領も参加した。バイデン氏は米欧によるウクライナ援助のための団結を訴えた。

 バイデン氏は「第2次世界大戦の終結以降いずれの時点よりも、民主主義が世界中で危機にさらされている。そういう時代に、われわれは生きている」と述べた。

 そして、「80年前、孤立主義は答えではなかった。現代においてもそれは答えではない」と語り、米欧の同盟であるNATO(北大西洋条約機構)が、自由と民主主義を守る組織として重要だとも語った。

 バイデン氏は、名指しこそしなかったが、ロシアのプーチン大統領と、同盟国を重視せず、むしろプーチン氏への親近感を隠さないトランプ前大統領を暗に批判した。

 冷戦期の米国の欧州防衛へのコミットメントを強調した演説は、人気のあったレーガン大統領を意識していた。この演説は、ロシアや欧州の同盟国だけに向けられたものではなく、11月の選挙を控えた米国民に向けられたものだった。

 しかし、米ウォールストリートジャーナル紙の社説は、「レーガン演説とバイデン演説は、政治的背景と信頼性の点で大きく違う」と批判し、米大統領の演説のパワーは、言葉の雄弁さに頼るだけでは十分ではなく、米国のパワーと信頼性に裏打ちされた大統領によってのみ行われると喝破した。

 しかも今年のノルマンディー式典は昨年までとは異なり、米欧関係の微妙さが影を落とした。ウクライナ支援については、欧州諸国は米国と団結しているが、3万6千人以上のパレスチナ人が死亡しているガザ情勢については、イスラエル寄りの米国に不満がある。

 とはいえ、フランスのマクロン大統領は、ガザをめぐる相違点を極力、表に出さないようにした。欧州との同盟を重視しないトランプ氏を11月の選挙で勝利させるわけにはいかないため、バイデン氏を歓迎して団結を演出した。

 このように米欧関係が微妙な中で、7月には岸田首相がワシントンでのNATO首脳会議に出席する。ガザ情勢では欧州と足並みが揃[そろ]い、バイデン氏からの信頼も厚い岸田首相の役割は重要なはずだ。(渡部恒雄 笹川平和財団上席フェロー)

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