『東京タワー』4人が辿り着いたそれぞれの最適解 永瀬廉と板谷由夏によるアンニュイな魅力

この恋なくして今の自分はない。あなたに出会わなかった人生は自分の人生とは思えない。振り返った時にそんなふうに思える人生に、そう多くは訪れない大恋愛が終わった。激情と熱が過ぎ去った後に一体何が残るのか。

“忘れられない最悪の夏”を超えて、全員が新しいスタートを切ることになった『東京タワー』(テレビ朝日系)最終話。

惹かれるべくして惹かれ合った2組がそれぞれにとっての最適解に辿り着く。

まず、“世界で一番悲しい景色”が引き合わせた透(永瀬廉/King & Prince)と詩史(板谷由夏)は、出会った頃から互いの寂しさの合わせ鏡のように共鳴し合っていた。しかし、詩史はこの恋を通して、自分の中に誰といても埋め合わせられない孤独があることを誤魔化せなくなってしまったようだ。

透の母親・陽子(YOU)が企画したインタビュー企画で、前向きに生きる秘訣について聞かれた際に詩史が答えた内容が、ブーメランのように自分に返ってくる。

「自分の気持ちに素直に向き合うこと。何が正しいかなんて人によって異なるし、他人が決めることじゃない。自分の気持ちを大切に自由に生きていきたい」と語った詩史に対して、間髪入れずに「あんたみたいな女がこの世で一番タチが悪いの! 自立した女のフリをして本当は男なしでは生きていけないくせに!」と言い放った陽子の指摘は痛烈だった。

そこからの詩史は何か吹っ切れたようにどんどん突き進んでいく。英雄(甲本雅裕)と離婚し、透には“これから1人で生きていくことにした”宣言。パリに行き自分の力を試すと着々と準備を進める。陽子の発言によって、自分は今すでに手にしている自身の人生という窮屈な枠組み内の制限付きの“自由”を手にしようとするあまり、周囲を傷つけていることに気づいたのかもしれない。自分だけが何も失わず無傷でいながら“自由”であることは難しいと。元通りに戻ってしまってはまた繰り返してしまうと思ったのかもしれない。

詩史の離婚を聞きつけて、ついに誰の目もはばからず一緒にいられると、目を輝かせながら就活の現状について話す透の無邪気さがいつになく切ないが、元々詩史は透が手にしている“未来”に想いを馳せていた。自分には目減りしているように感じられるが、透の前には当然ながらまだまだこれから始まる“未来”の可能性の数々が煌めいており広がっている。透の可能性を狭めてまで自分と一緒にいる未来は共依存が見えている。1人でいるのが怖いからとそつなく続けてしまった英雄との結婚生活でやはり綻びが出てしまったように。

かつて夜空に向かってそびえ立つ東京タワーについて“悲しい”と漏らした詩史は、それを自身の孤独に重ねていた。しかし「1人で立ってられるように」「自分を愛せるのは自分だけ」ということに気づけた詩史の目には、透と迎えた朝焼けの東京タワーの神々しさ、凛とした姿が、いつになく頼もしく映ったに違いない。

透と耕二(松田元太)が“失恋記念”を自虐的に祝う裏で、実は詩史と喜美子(MEGUMI)が繋がっていたことも明かされた。「一番美しい思い出でありたい」という詩史の言葉を喜美子は彼女のやり方で貫いた。全てを「耕二のせい」「出会わなければよかった」としていたところから、自分たちが共犯だったことを認め、別々の道に進むように面と向かって伝えられていた。

本作で透×詩史ペアを演じた永瀬廉と板谷由夏は、互いにどこかに常に寂しさが付き纏い続けるアンニュイな存在感を見せてくれた。彼らが年齢も所属も超えて強く惹かれ合った必然性がそこにはあることを、説得力を持って示してくれていた。

別れ際にこそ人の本性が出るとはよく言ったもので、その応酬は互いからなおも吸い込まれるような吸引力が発揮されていた。

透と詩史が人知れず静かな涙を流し、互いの気持ちを知った上で最後のデートに臨んだのに対し、人混みの中で号泣しながらお互いの気持ちをぶつけ合った耕二×喜美子も、その終わり方には“らしさ”が満載だった。なし崩し的に始まったもののその全てが本気だったことに後々気づいてしまったからこそ、決着をつけるのにもオーディエンスが必要だったのかもしれない。別れ際に喜美子がぶつけた言葉の節々から溢れ出る優しさや感謝、そしてそれを2人にしかわからない形で受け取った耕二のやり取りにも、やっぱり2人が惹かれ合う運命だった必然性が滲んでいた。

透の中で“世界で一番悲しい景色”が“世界で一番好きな景色”に変わったように、決して人から褒められた恋ではなくとも、自分を見失うほどにのめり込み溺れてしまった恋を経て、その地続きにそれぞれの“現在地”がある。いつだって変わらず見守ってくれた東京タワーの下、4人がそれぞれにこの恋を経て辿り着いた現在地を大きく育てていけますように。

(文=佳香(かこ))

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