NH大河『光る君へ』ゆかりの名刹も! 全長13kmでもアレンジしやすい低山縦走「中山連山」レポ

中山寺奥之院境内(撮影:野口宣存)

初夏を迎えたこの頃、朝晩の冷え込みはあるものの、日中は暑いくらいになってきた。そんな春から夏への季節の移ろいを感じながら歩いてきたのは、渓谷や岩場など変化に富んだ景色を楽しめる中山連山(なかやまれんざん・標高478m)である。登山デビューにもオススメの山だ。

中山連山は、関西を代表する大人気の登山コース。山容は南が開いたかまど型になっており、かまどの一番奥には最高峰中山(なかやま・標高478m)、かまどの内側には住宅地が広がっている。

中山連山(国土地理院地図より引用)

今回は端から端まで歩く縦走をした。距離は約13km。通常4時間半くらいの行程をかなりゆっくり歩いて、休憩30分を入れると、およそ5時間半だった。このコースを全部歩くのは体力が必要だが、全部を歩く必要はない。気になる所だけ訪れたり、何回かに分けて登ればよいだけだ。

実は中山連山には、内側の住宅地側に登山口がいくつもある。そのため体力や経験に合わせてルートを組みやすい。また途中で体力の限界を感じたり、体調不良に陥っても登山口が多いため、緊急下山が容易なのである。

なお今回は、阪急宝塚線山本駅を出発し、宝教寺、最明寺滝、宝塚ロックガーデン、中山、中山寺奥之院、夫婦岩、中山寺の順に進み、阪急宝塚線中山観音駅まで歩いた。

中山連山登山口
住所:〒665-0816 兵庫県宝塚市平井1-28-12

■阪急山本駅から最明寺滝へ

阪急宝塚線山本駅(撮影:野口宣存)

阪急宝塚線山本駅北口から約1km、徒歩15分くらいで到着するのが宝教寺(ほうきょうじ)。この宝教寺はいわゆる朝鮮寺で、日本の寺と比べると派手な外見をしている。

宝教寺
住所:〒665-0808 兵庫県宝塚市切畑長尾山4−145

宝教寺を過ぎ、最明寺川渓谷沿いを進む。道は舗装してあるものの滑りやすいので注意が必要だ。しばらく進むと「大聖不動尊」と書かれた門が現れ、道が左右に分岐する。右へ進むと最明寺滝(さいみょうじたき)へ至る。

最明寺川渓谷(撮影:野口宣存)

この最明寺滝は、鎌倉時代の執権北条時頼ゆかりの地。出家した北条時頼が最明寺入道と名乗り、修行していた滝なのだ。現在は宝教寺の修行場となっている。滝に近づけば、滝壺から吹く風が意外と強くて驚く。とても涼しくて気持ちのよい場所だ。

■宝塚ロックガーデンから中山山頂へ

宝塚ロックガーデンから六甲山を望む(撮影:野口宣存)

最明寺滝から大聖不動尊の門まで戻り、分岐を左に進むと宝塚ロックガーデンに至る。道標には「満願寺」方面と書かれているが、満願寺に至る途中に宝塚ロックガーデンがあるのだ。今回は立ち寄らなかったが、満願寺は清和源氏ゆかりの寺で、金太郎こと坂田金時(さかたのきんとき)の墓もあるので、元気があれば訪れてみるとよい。

満願寺
住所:〒665-0891 兵庫県川西市満願寺町7−1

宝塚ロックガーデンは急登の岩場だ。下りはやや危険なので、訪れるなら登りルートがおすすめ。なお、宝塚ロックガーデンからの景色は絶景で、真正面には伊丹空港、その奥には大阪梅田のビル群、右側には六甲連山、甲山(かぶとやま)、大阪湾が見渡せ、左側には満願寺がある山間の住宅地が見下ろせる。ただ日差しをもろに受け、岩からの照り返しもあるのでかなり暑い。

宝塚ロックガーデンから中山山頂までは、アップダウンを繰り返す稜線の縦走路。木々のトンネルになっているところが多く、比較的涼しい。この辺りは野鳥も多く、鳥の種類まではわからないが、様々な野鳥の鳴き声が聞こえてくる。新緑の季節からか、夏の匂いがし始めていた。

途中、宝塚けやきヒルカントリークラブの横を抜けるのだが、阪急オアシス(スーパーマーケット) まで10分という、登山道には似つかわしくない道標があるのも面白い。このように内側の住宅地へ下りる道も多くあるので、いざとなれば下山できる安心感が中山連山にはある。

宝塚けやきヒルカントリークラブを過ぎると、眺望がよいスポットがいくつか現れるが、長尾山トンネルの真上あたりの展望スポット、長尾山展望台を最後に、中山山頂まで眺望はない。

中山山頂は住宅地がある南側ではなく、北側に眺望が広がる。絶景とまではいかないが、景色は悪くない。

■中山山頂から中山寺奥之院へ

中山山頂から西側は 登山道らしい道標の数が増え、質も上がる(撮影:野口宣存)

中山山頂から西側の登山道に入ると、かなり歩きやすい道となり、道標も増える。つまり中山連山の中でも登山者が多いエリア。女性登山者が多く、人気のある山であることがよくわかる。しかし、登山に不慣れな人もちらほら見かけられ、挨拶しても無反応のときもあり、少し寂しい気持ちとなった。またこのエリアは勝手道が多いため、登山アプリを使うのが無難だ。

今回は中山寺奥之院を訪れる前に、黒八大神という磐座にも立ち寄った。ここは巨岩を神として祀る場所。もののけ姫の森のような雰囲気であった。訪れる際は滑りやすい急登となるため、注意が必要だ。

中山寺奥之院は、飛鳥時代に聖徳太子が創建した中山寺があった場所。平安時代、NHK大河ドラマ「光る君へ」にて、本郷奏多さん演じる花山法皇が滞在していたのも、今の中山寺ではなく、ここの中山寺奥之院だ。戦国時代に荒木村重の乱で焼失するまでは比叡山や高野山に匹敵するくらいの寺領があったらしい。

今でも歩いて参拝に来る人は多いが、中山寺奥之院はこぢんまりとして、静かな寺だ。気持ちのよい木陰のベンチもあり、座ると動きたくなくなるほど快適。ありがたいことに中山寺奥之院にはトイレもあるのだが、境内からは少し離れている。

中山寺 奥之院
住所:〒665-0861 兵庫県宝塚市中山寺 字山ノ内27-4

■中山寺奥之院から夫婦岩を経由して、中山寺へ

中山寺奥之院からは、中山寺奥之院参道を下る。中山寺の御詠歌は「野をもすぎ里をもゆきて中山の寺へ参るは後の世のため」だ。先述の花山法皇が詠まれた歌らしい。参道にある江戸時代の町石(ちょういし)を見ると、いろんな時代の人がこの道をたどりお参りしていた様子が浮かんでくるようだ。

参道を下ると夫婦岩という2つの巨岩が現れ、ここから左の脇道に入るとすぐに東屋が現れる。東屋はきれいな木造。とても居心地がよい。東屋の前からは大阪平野を見渡せるスポットとなっている。

夫婦岩展望台に転がっている岩(撮影:野口宣存)

夫婦岩から参道を下っても下山できるが、今回は東屋から足洗川(あしあらいがわ)渓谷沿いの登山道に合流するルートを選択した。合流地点は渓谷が眺められるルートより下なのだが、涼しいに違いないと思ったからだ。足洗川渓谷沿いまで来ると案の定、涼しかったのだが、誤算だったのは、東屋から足洗川渓谷合流地点までの間、メマトイが大量にいてうっとうしかったことである。メマトイとは顔の周りをしつこく飛び続けるコバエだ。メマトイは動物の涙をなめて養分を摂るらしい。

足洗川渓谷沿いを下っていくと、中山寺奥之院参道も合流する北中山公園に至る。

そして、北中山公園出口を左に足洗川渓谷まで下り、橋を渡ってさらに進む。すると中山寺墓地を経由して、日本初の観音霊場である中山寺の境内に到着する。かなり広い寺だが、しっかりお参りしておこう。

中山寺境内(撮影:野口宣存)
阪急宝塚線中山観音駅(撮影:野口宣存)

なお阪急中山観音駅は、中山寺の真向かいだ。

大本山 中山寺
住所:〒665-8588 兵庫県宝塚市中山寺2-11-1

阪急宝塚線中山観音駅
住所:〒665-0861 兵庫県宝塚市中山寺1-13

■中山連山への行き方

中山連山を縦走するなら、今回筆者が歩いた阪急山本駅から阪急中山観音駅の、反時計回りコースがおすすめだ。なぜなら宝塚ロックガーデンの下りはやや危ないからだ。また、中山連山東側はアップダウンが多いが、西側はアップダウンが少ないため、体力の配分がしやすいというのもある。

体力に自信がない人は、バスで住宅地の上のほうまで行き、標高を稼いでおいてから最寄りの登山口から登るのもアリだ。

中山連山の魅力は、体力や経験に合わせてルートを組みやすいところにもある。これからもっと暑くなるので、無理をせず山を楽しもう。

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