「書店人の教育が地方では不足」本屋危機に大垣書店会長が指摘 人気作家今村翔吾さんは「シェア型書店」に活路

斎藤経産相(右から4人目)と意見交換する大垣会長(同5人目)=東京都港区・大垣書店麻布台ヒルズ店

 地域の文化拠点でもある「街の本屋さん」が消失の危機に直面している。書店が地域に一つもない市町村が京都府で7自治体、滋賀県で3自治体に上る中、京滋ゆかりの作家や国も支援に動き始めた。

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 書店の危機に立ち上がったのが、滋賀県大津市在住で京都府木津川市出身の直木賞作家今村翔吾さんだ。4月、本の聖地として知られる東京・神保町の書店街にシェア型書店「ほんまる」を開店。「シェア型が地方の書店を救うキーになる」と期待を込める。

 シェア型書店は、個人や企業、自治体が本棚を借りて「棚主」となり、新書や古書を販売する新業態。費用負担を抑えられる利点がある。ほんまるではツガの無垢(むく)材で作った棚(幅約44センチ、高さ約31センチ)を364区画分用意した。

 今村さんは2021年以降、大阪の書店を引き継ぎ、佐賀では新規に出店。経営の経験から「今まで通りのやり方では難しく、新たな形の本屋さんが必要」とシェア型にいきついた。

 ほんまるのロゴや店舗デザインはクリエーティブディレクター佐藤可士和さんが手がけた。佐藤さんは個性的な品ぞろえで人気だった青山ブックセンター六本木店の閉店にショックを受けた一人で、今村さんの熱意に賛同したという。

 「作家としての自分だけでなく、未来の作家や読者を救うことになる」。今村さんは佐藤さんと対談したほんまるの開店記念イベントで、書店の灯をたやさぬ決意を語った。

 今後、棚主同士の交流会を開くほか、棚主から独立し書店開業を目指す人の支援にも力を入れる。書店愛を公言する歴史作家は「本を愛する自由な人が集えるよう、シェア型をみんなで盛り上げていきたい」と、ほんまるの地方展開に意欲を示し、京都で物件を探していると口を滑らせた。

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 経済産業省は3月、中小企業庁の関係部局と横断で構成する「文化創造基盤としての書店振興プロジェクトチーム」を設置した。カフェの併設やイベントの企画・運営といった創意工夫で集客増に成功した各地の好事例を踏まえ、新たな支援策を検討していく。

 斎藤健経産相は4月、書店経営者や出版関係者と意見交換する車座ヒアリングを東京都内で開き、京都ゆかりの経営者も登壇した。会場を提供した大垣書店(京都市北区)の大垣守弘会長は、海外で成果を挙げているという創業支援に加え、書店員のリスキリング(学び直し)支援の重要性を指摘。「書店人の教育が地方では不足している。憧れの仕事とするには育成の仕組みが必要」と訴えた。

 奈良県にある啓林堂書店の林田幸一社長=京都大大学院修了=は、読書に浸れる有料空間を店舗に併設する試みを例に「本がある暮らしは感情を鮮やかにする」と書店の魅力を伝えた。中小企業の業態転換を後押しする補助金活用の利点を挙げつつ、制度の使い勝手向上が課題とした。

 高知県を地盤とする金高堂書店の亥角政春社長=京都産業大卒=は、地域団体や住民と連携した選書フェアや物販イベントの取り組みを紹介し「高知の情報発信基地となるよう努力している」と話した。

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