たびたび問題の“撮り鉄”を歓迎する町が話題 国土交通大臣も視察「涙が出そうに…」 地域一丸となり“おもてなし”

撮影を楽しむ鉄道ファン、いわゆる「撮り鉄」のマナーがたびたび問題となる中、撮り鉄を歓迎している地区が岡山・高梁市にある。全国から注目を集める地域と撮り鉄の共存。住民による温かな「おもてなし」がカギとなっている。

排除せず「おもてなし」

約40年ぶりに新型車両が導入されたJR伯備線の特急やくも。
岡山駅と島根県の出雲市駅の間の沿線にはさまざまなビュースポットが点在する。それを狙うのが「撮り鉄」。お気に入りの列車と風景をカメラに収めようと日本各地へ出向く。

東京から来た人:
ただ、旅行に行くだけじゃなくて、こういう何もないところだけど、何もなくていいところ、いろいろ発見できたし、撮り鉄仲間とのいろんな情報交換しながら、みんなで旅行を立てていこうかとか、そういう楽しみもできたし、で子供も喜んでついてくるので

しかし撮り鉄は、沿線に住む人やJRに煙たがられることも…。
そんな中、地域と撮り鉄が共存しているとして、高梁市の北東部に位置する川面地区が注目を集めている。

沿線に住む青野学而さんは「おもてなしで問題行動が抑えられるのでは」と、2023年5月に撮り鉄を歓迎するボランティア団体「TEAMひとよせ」を結成した。

TEAMひとよせ・青野学而さん:
排除するんじゃなくて、せっかくこんな我々のこの小さい町にたくさん来ていただけるっていうことはいいことなんだから、ウェルカムな気持ちで接すれば、向こうの気持ちも和らいでうまく相互に、協力しあってできるんじゃないかって

実は、川面地区は橋りょうが複数あるなど撮影スポットが多く、撮り鉄から「聖地」と呼ばれている。

鉄道カメラマンの坪内政美さんは「全国でまれなんですけど、もう地区全域にわたって撮影ポイントが点在している。ここに丸一日いても飽きないぐらいのいろんな風景が春夏秋冬、この地域で撮れる地域っていうのは非常に珍しいです」と話す。

来訪者は、関西圏と関東圏からが6、7割。この数字にはTEAMひとよせの青野さんも「いつからこんなことに?」と驚いたという。さらに「やくも381系」の引退で一気に火がついた。

JR西日本から感謝状も

桜のシーズンなど多い時には1日約400人の撮り鉄が、人口約960人の小さな集落へ集結する。

そこで「撮り鉄歓迎」の一環として用意したのがトイレだ。備中川面駅のトイレは壊れて利用できないため、簡易トイレを設置。さらに近くの神社などから約100台分の駐車スペースを借りたほか、地元業者に弁当の販売も働きかけた。

さらに、500円の募金をすると、地域の高齢者が手縫いした「やくもストラップ」がもらえるという。持つと良い撮影ができるお守りとしてSNSで拡散され、撮り鉄の間では「ハッピーやくも」と名付けられている。

訪れた人は「布や鈴、ビーズも使って、一つ一つ手作りですごい。うれしい」「歓迎していただくのはありがたいこと。僕らのマナーを守って、地元の方も歓迎していただくということ。いい関係だと思う」と話した。

地域が一丸となった温かなおもてなしで、撮り鉄の問題行動はほとんど見られなくなり、JR西日本からは感謝状が届いた。

JR備中高梁駅の国富靖二駅長は「旧型やくもが姿を消すということで、たくさんの人が写真を撮りにきている。そんな中、地域の人々の取り組みで周辺の人々の生活に支障ないような取り組みをしてもらい、大変助かっている」と感謝の言葉を述べた。

国土交通大臣が撮影スポットを視察

そして、川面地区のムーブメントは国交大臣の耳にも入り、“鉄道ファンと地域、そして鉄道会社の共存は珍しい”と、5月25日に撮影スポットを視察に訪れた。

斉藤鉄夫国土交通大臣「これがハッピーやくも?これが鉄道ファンのお守りになっているんですよね」
TEAMひとよせ・青野学而さん「お気に入りの物をお持ちください」
斉藤鉄夫国土交通大臣「1つ買います。私のお守りにします」

斉藤鉄夫国交相は「撮り鉄の皆さんが、自分たちもちゃんとマナーを守りながら、楽しもうということを自ら広められたという話を聞いて、ちょっと涙が出そうになりました」と感動した様子だった。

TEAMひとよせ・青野学而さん:
川があって鉄橋があって山がある、日本の原風景、鉄道の原風景は大事な財産ですねと言われ、うれしかった。これで終わってはいけないという責任感とプレッシャーがある

撮り鉄にやさしいおもてなし。6月に国鉄時代の特急やくもはラストランを迎え、川面地区には再び熱い視線が注がれる。

(岡山放送)

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