『ミス・ターゲット』は人間の本質を問うドラマだった すみれと宗春が見つけた“本物の愛”

『ミス・ターゲット』(ABCテレビ・テレビ朝日系)は、ポップなラブコメのように見えていたけれど、実は人間の本質を問うドラマだったのかもしれない。人を愛するというのは、どういうことなのか。信頼が揺らいでしまったとしても、相手を信じ抜くことができるのか。そして、正義と悪は表裏一体であること。すみれ(松本まりか)と宗春(上杉柊平)の不器用すぎる恋愛模様にヤキモキしながら、いろいろなことを考えさせられた。

6月16日に放送された最終話のなかで、とくに印象に残っているのは、元結婚詐欺師の弥生(筒井真理子)のエピソード。薄々気づいてはいたが、竜太郎(沢村一樹)の友人を騙したのは、やっぱり弥生だった。竜太郎の話だけを聞いていた時点では、その友人はとてもピュアな人なのだろうと想像していた人も多いのではないだろうか。あっさり結婚詐欺に引っかかるほどに他人を信じてしまう性格で、それゆえに心を病んでしまった。明らかに、その友人が被害者で、騙した弥生が加害者だ。

しかし、弥生の話を聞き、くるりとイメージが反転することになる。竜太郎の友人は、弥生の妹から500万円を借りた上に浮気をして、婚約破棄を突きつけてきた。ショックを受けた妹は、自殺。弥生は、妹の復讐をするために竜太郎の友人を騙した。「立つ位置が変われば、見える景色も変わる」という弥生の台詞が、頭のなかにこびりついて離れない。

もちろん、弥生には弥生なりの正義があったのだと思う。しかし、最初に傷つけた方が100%悪いはずだったのに、同等の仕打ちをしたことで相手と同じ立場までなりさがってしまったのが悔しい。「やられたら、やり返せ」という言葉は、あまり好きじゃない。でも、弥生もすみれも復讐をすることで恨みを晴らさなければ生きていけなかったのかもしれない。

また、“その人らしさ”なんてものは、関わる相手によって変わっていくものだ。たとえば、竜太郎にとって敵のような存在である弥生は、すみれや萌(鈴木愛理)にとってはかけがえのない恩人だったり。闇金業者の轟(八嶋智人)だって、部下の茶野(後藤剛範)にとっては大好きなアニキだったりする。だからこそ、わたしたちは他人の意見に惑わされるのではなく、じっくりとその人自身を見て、判断していかなければならない。

宗春がすみれを信じ抜くことができたのも、彼がしっかり自分軸を大事に生きていたから。はたから見たら、結婚詐欺師のすみれは恋をする相手として相応しい相手とは言えない。刑務所に入る前、すみれは宗春に「模擬挙式のあと、あなたからお金を騙し取ろうと思っていたんです。あなたが見ていたわたしは、全部偽物です」と伝えていたし、竜太郎からも「3年前のこと、もう忘れたわけじゃないよな?」と釘を刺されていた。それでも、宗春はすみれをただの悪人だとは思えなかったんだと思う。

これまで、家入レオが歌う主題歌「ワルツ」は、すみれ目線の歌だと思っていた。しかし最終回は、宗春目線のように聴こえて胸がギュッと締め付けられた。宗春にとっても、すみれは<呆れるくらい好きだった人>であり、<この愛があなたに届かなくても/今以上に胸が痛む明日が待っていても>愛し続けたい、信じ続けたいと思える相手だったのだろう。

「一緒にいられたら、どこだっていい。いつまでも一緒にいます。きっと」

結婚詐欺師だったすみれは、愛を伝えるのなんて簡単なことだと思ってきたはず。でも、本気の恋の前ではやっぱり素直になれなくて、“きっと”なんて付け足してしまうのが、不器用で愛おしい。ただ、宗春はそんなすみれの強がりをすぐに見抜いて、「“絶対”一緒にいます」と包み込んでくれる。たくさんの嘘のなかから、やっと本物の愛を見つけた2人の幸せが、いつまでも続いていくことを願ってやまない。

(文=菜本かな)

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