「巨大IT企業標的規制新法成立」「ニコニコ・KADOKAWAへのサイバー攻撃」「Apple Intelligence」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #623(2024年6月9日~15日)

執筆者:鷹野凌

2024年6月9日~15日は「巨大IT企業標的規制新法成立」「ニコニコ・KADOKAWAへのサイバー攻撃」「Apple Intelligence」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

政治

「1円も値引きできない」家電、なぜOK? 値札の「指定価格」とは〈朝日新聞デジタル(2024年6月11日)〉

直接「出版」には関わらない記事ですが、制度的には興味深いと思いピックアップ。定価販売拘束(再販売価格維持行為)は基本的に禁止されていますが、なぜこの「指定価格」は許されるのか? という話です。「指定価格」の場合、小売店は売れ残りを返品できるので、在庫リスクをメーカーが負っている形だからとのこと。公取委のお墨付きだそうです。

これって実質、再販売価格維持行為の例外として定価販売が認められている書籍・雑誌と同じことですよね。違いは「定価」という言葉を使っていないだけと言っていい。これを公取委が是とするのなら、著作物再販制度を廃止することも当面はなさそう?

とするとこんどは、公取委はなんのために再販制度の柔軟な運用を求めてきたのか? という話になってしまいそうな気が。ただ単に「定価」という言葉を使わなければいいだけの話なのでしょうか? うーむ。

巨大IT新法成立 アプリ競争促す、25年末までに施行〈日本経済新聞(2024年6月12日)〉

巨大IT企業が対象なのですが、実質はAppleを狙い撃ちにした新法と言っていいでしょう。Androidは設定を変えるだけでサイドロードが可能ですし、Amazonアプリストアみたいに、他のアプリストアの併存が可能ですから。ただ、既報どおりなら、野良アプリをなんでもインストール可能とするサイドロードではなく、他のアプリストアの参入を監視付きで認めよという内容だと理解しています。

EU、Appleをデジタル新法違反と判断へ FT報道〈日本経済新聞(2024年6月15日)〉

ただ、日本が参考にしたEUのデジタル市場法(DMA)では、Appleが条件付きで他のアプリストアの導入を認めたにも関わらず、それでもまだ足らないという判断になりそうです。日本もEUのように厳しい運用ができるのでしょうか?

「スラダン酷似ビラ」自民系候補が超絶マズい理由 「著作権法に抵触する可能性」以外の問題点も | インターネット〈東洋経済オンライン(2024年6月13日)〉

こちら、初報の時点で「パロディだから許される」とか「構図に著作権は発生しないのでセーフ」と断定する擁護意見が飛び交っていて、首を傾げていました。日本の著作権法にパロディ規定はないですから、まずは著作権者(この場合、井上雄彦氏)が許すかどうか。いわゆる「寛容的利用」です。

仮に裁判になったとしても、作品の類似性は個別の事例で判断されるので、判決が出るまで断定するのは難しい。知財高裁で判断が逆転(原告が勝利)した「金魚電話ボックス事件」を思い出します。本件も、法律の専門家による解説記事を複数読みましたが、やはり「抵触しない可能性が高い」など、断定は避けていました。

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