地下鉄の「逸脱した広告ビジネス」が経営上の起死回生策に―中国メディア

広東省広州市では、地下鉄の駅構内に掲示される「個人広告」への注目が高まっている。広告主の露出目的は従来の広告からは「逸脱」しているという。

広東省広州市では、地下鉄の駅構内に掲示される「個人広告」への注目が高まっている。広告主の露出目的は従来の広告からは「逸脱」しているという。個人広告は、乗車料金の設定に制約があるなどで利益を上げにくい地下鉄運営会社にとっては「起死回生」の効果をもたらしている。中国メディアの界面新聞が伝えた。

呉佳玲さんは、広州市地下鉄の天河公園駅構内の電飾ボックスに、5日間にわたり夫の誕生日を祝賀する広告を掲載した。普段は地下鉄にあまり乗らないが、撮影をするためにわざわざ地下鉄を利用した。すると、珍しい広告に興味を持ったのか、撮影している地下鉄利用者を見かけたという。

呉さんによると、夫の誕生日のプレゼントをずいぶん探したが、「これは」と思えるものはなかなか見つからなかった。地下鉄の個人広告のことがSNSに投稿されているのを見て「斬新で独創的」と思って、夫の誕生日を祝うために利用することにしたという。

広州市地下鉄が個人広告を導入したのは1月だった。業務担当者は、「主に多くの市民に向けた利便性の高い取り組みで、自分をアピールする空間を提供するためです」と説明した。一般のビジネス目的の広告に比べて、価格も大幅に引き下げているので、個人による広告でもビジネス目的の内容は適用外だ。導入直後はあまり注目されていなかったが、これまでの事例を発表したことが奏功するなどで、最近では人気が高まりつつあるという。

それほど多くはないが、就職活動や“婚活”にこの個人広告を利用する人もいる。現在の傾向としては、誕生日、結婚、卒業などを祝う広告が注目されている。広州市の地下鉄広告はビジネス上の利益のためではなく、広告主が「心の満足」を目的とする点で、従来型の広告の範疇(はんちゅう)を逸脱していると言える。

広州市は地下鉄利用者数が中国全国で3番目に多く、2023年には1日当たりの利用者数が延べ857万人だった。営業路線1キロ当たりの1日の利用者数は延べ1万3800人で中国の都市の中でも最も多かった。問題は、売上高が増えているのに利益率が上がらないことで、23年には営業総収入は前年比18億4000万元(約399億円)増の141億2000万元だったが、純利益は8億2000万元(約178億円)減の2000万元(約4億3400万円)に留まった。

収益性の悪さの一因は、乗車料金が政府の統制下にあることだ。もう一つの要因は、運営路線が追加されることに伴って、運営コストが増加していることだ。そのため、地下鉄運営部門では赤字が続いている。

地下鉄運営会社にとって、政府による補助は重要な「輸血」だ。しかし2000年には政府補助金が9億5800万元(約208億円)削減され、資産処分収益が14億8400万元(約322億円)減少したことが、純利益の大幅減につながった。23年末時点の広州市地下鉄の総負債は3598億9000万元(約7兆8100億円)で、資産負債率は56.6%に達した。

巨大な財務圧力の中で、広告事業は地下鉄会社が効率よく利益を出す方法だ。広州市地下鉄では、広告を含む資源経営部門の粗利益率は、20年は76.54%、21年は69.37%、2022年は69.09%だった。対照的なのが地下鉄運営事業で、20年の粗利益率はマイナス28.02%、2021年はマイナス29.78%、2022年はマイナス56.99%だった。

現在までに、北京市や安徽省合肥市などでも、地下鉄駅構内での個人広告の掲載が認められるようになった。(翻訳・編集/如月隼人)

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