「日本版」以外のライドシェアでタクシー不足を解消 既存資源を有効活用する「シェア乗り」とは

ライドシェアは、世界的には20兆円の市場規模があるといわれており、UberやDiDi、Lyftなどのユニコーン企業が誕生している。

また、日本国内のタクシー業界は今、深刻なドライバー不足問題を抱えている。タクシードライバーの数は減少の一途を辿っており、ここ15年では約40%が減少。近年では2019年3月末時点の約29万人から2023年3月末時点で約23万人と、4年間で約20%の減少となった。インバウンドの急回復により、需給のバランスが崩れているという現況がある。

喫緊課題のタクシー不足、解決策は

そんな状況下で2024年4月に誕生したのが、「日本版ライドシェア」だ。タクシー会社が管理する車両を、タクシーが不足する地域・時間に一般ドライバーが運転することを認めるというものだ。

タクシーは従来から存在する公共交通機関だが、NearMeの調査では、全国約23万台あるタクシーの実車率は40%。平均の乗車人数も最大乗車人数の9人に対して1.3人となっている。タクシーが本来持つ移動のポテンシャルに対して「もったいない」状況がある。

一方でライドシェアには、配車アプリなどを活用して呼んだら来る1台に1組を乗せる「ライドヘイリング」と、1つの車両を複数組で相乗りする「ライドプーリング」の2つの考え方がある。今日本で主な議論となっているのは、一般ドライバー個人が自家用車に有料で利用者を乗せる「白タク解禁」で、「ライドヘイリング」に分類できる。なお、4月に解禁された「日本版ライドシェア」はタクシー会社の管理が前提となるため、こちらも「ライドヘイリング」といえよう。

移動・交通の諸問題において解決するべきことは「輸送量を増やす」ことだ。これに対するアプローチとして白タク解禁、日本版ライドシェアなどの「ライドヘイリング」でドライバーを増やすという「量」の解決と、今のアセットを有効活用し効率化する「質」の解決がある。ニアミーは、この「質」の解決について活発に議論されていない現況を打破すべく、効率的で即効性のある打ち手として車両のスペースとキャパシティをシェアする「ライドプーリング」のサービスである「シェア乗り」を提案、推進している。

「ライドプーリング」でタクシーの「もったいない」現状を打破--タクシー不足と地域の交通課題を解消

シェア乗りでは、1つの車両を複数組でシェアして乗車することで、タクシー難民を減らすことを目指している。最安で通常のタクシー料金の三分の一の金額で移動ができるため、利用者の費用負担軽減も実現できる。さらに、運行事業者にとっても1回あたりの運行距離が長くなり、生産性向上に寄与できる。

事前予約制とすることで運行計画を立てやすくなるだけでなく、タクシードライバーにとっても都市部と移動先の往復が少なくなることで肉体的負担の軽減にもつながる。

シェア乗りのラインアップの1つである「エアポートシャトル」は、ユーザーの空港への移動というシチュエーションに対して、ドアツードアのニーズと、運行事業者へのビジネス貢献を通じたドライバーの肉体的負担軽減という、サービス利用者と提供者双方にとって価値を提供できる。

タクシー1台1台の稼働率を上げてタクシーのポテンシャルを引き出すことで、少ない環境負担でより多くの人の交通、移動ニーズを叶えることができる。タクシーは日本全国に存在する交通インフラでもあるため、未活用のタクシーを用いることで、都市部での交通渋滞から過疎地での移動手段の確保など移動に関する問題を一挙に解決することが可能だ。

「シェア乗り」を実現する特許

シェア乗りは、いくつかの特許で実現している。たとえば、運行を担うタクシー・ハイヤー会社が、シェア乗りが成立した乗客に配車を行う際に、ニアミーのシステムで配車を依頼する業務の内容(時間、出発地、目的地など)の一覧の中から条件に合う業務を1クリックで選択できる。これは、受注から配車までを一気通貫でできる「1-Click相乗り配車」という特許を獲得している。

「1-Click相乗り配車」により、シェア乗りをする予定の乗客と、タクシー・ハイヤーの車両のマッチング精度を向上させ、乗客に対しては迅速な配車確定連絡を、タクシー・ハイヤー運行会社に対しては適切な業務の割り当てが可能だ。

「シェア乗り」の効果は--秋田のタクシー不足を解消した2つの事例

秋田県美郷町は、「美郷雪華」というオリジナル品種のホライトラベンダー、全国名水百選に選ばれた「六郷湧水群」などの魅力的な観光資源を有している。美郷町とニアミーの共創で取り組んだ「ミズモシャトル」は、それらのコンテンツを手軽に体験してもらうための交通インフラとして、役割を果たすことができた。

もう1つの事例として、北秋田市を紹介しよう。北秋田市は、世界的にも希少な森吉山の樹氷を鑑賞することができる。この体験をより多くの人たちに提供すべく、乗合タクシーの運行予約システムの開発に取り組んだ。

インバウンドの来訪も少なくないこの地域においては、二次アクセスにおける予約のオンライン化や多言語対応が進んでいないという課題があった。そこに、多言語対応可能なニアミーの予約システムとシェア乗りを導入し、運行事業者の業務効率化はもちろん、インバウンド来訪で当初目標としていた人数を上回る受注を獲得した。1台のタクシーを複数人で使用するため環境負荷の軽減につながることも、その土地の自然を楽しみに訪れる人にとってはポジティブな選択肢として映ったようだ。

これらはあくまでも一例にすぎない。観光二次交通はインバウンドの回復を受け、日本の各地方に眠っている観光資源を掘り起こし、結果として移動の担い手不足につながる可能性がある。シェア乗りは、日本のさまざまな地域の移動・交通のニーズや課題における解決策として役立つはずだ。

「移動のシェア」で既存資源を有効活用--持続可能な社会の実現へ

移動・交通は、脱炭素の実現に向けて交通量と環境負担の軽減が求められている。また、近い将来自動運転が実現し、ドアツードアにおいてもシェアが前提の世界観が想定される。このようなモビリティの将来では、既存資源を質の観点で有効活用できるライドプーリングの実装が重要だ。

シェアが当たり前の世界を実現することで、「住民」「交通事業者」「地域社会」が三方良しのモデルをつくり、持続可能な社会を実現できるだろう。

髙原 幸一郎 (たかはら こういちろう) 株式会社NearMe 代表取締役社長 CEO シカゴ大学経営大学院卒。 2001年SAPジャパンへ新卒入社。国内外のさまざまな業界の業務改革プロジェクトに従事。 2012年楽天に入社。物流事業の新規立ち上げ、日用品EC事業の責任者、米・仏グループ会社の取締役やCEOなどを歴任。 日本には豊富な地域資源があるのに「もったいない」ことが多く、今後は日本の地域活性化に貢献したいという思いで日本に帰国。地域課題でも特に深刻なドアツードアの移動問題に取り組むことで「住みたい街に住み続けられる社会の実現」を目指し、2017年株式会社NearMe(ニアミー)を創業。2018年からシェアリングエコノミーのMaaSサービス、AIを活用した「移動のシェア」サービスを複数展開している。

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