大谷翔平のメンタルコーチが解説する“前向き思考”の作り方 ポイントは“夜寝る前”にあった!

(写真:共同通信)

「これは僕にとって非常に複雑で困難な時期でした。この間にずっと絶え間ない支援を続けてくれた僕のサポートチームに感謝しております。この事件に終止符を打ち、前に進む時期が来たと思っています。これからもこのチームの一員として少しでも勝利に貢献できるよう集中していきたいと思っております」

と、大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手(29)は声明を発表。

6月5日(日本時間)、自身の元通訳・水原一平被告(39)がロサンゼルス近郊の裁判所で「大谷選手の口座から不正に送金を行った」と詐欺などの罪を認めたのを受けてのことだった。

「寝ることもトレーニングの一部として大切にしている大谷選手がこの間、眠れない夜があったと話しています。親友の裏切りという大きな衝撃のなか、実際の試合ではドジャースの2番指名打者として打率3割以上をキープ。まったく影響を感じさせないプレーを続けてきました。ここに大谷選手のたぐいまれな切り替え能力と集中力のすごさを感じます」

こう話すのはメンタルコーチとして花巻東高時代に実際に大谷選手を指導していた西田一見さん(株式会社サンリ代表)。今年3月に西田さんは『大谷翔平の成信力』(清談社Publico)を出版したが、そのきっかけは昨年、日本代表が優勝したWBCでの出来事だったという。

「決勝の対米国戦を前に大谷選手がチームメートの前で『憧れるのをやめましょう』と話しかけました。あれは闘う相手が有名な大リーガーばかりでつい戦う前から一歩下がってしまうことを戒めた言葉です。じつはあの言葉こそは花巻東高時代、私が『相手選手がどんなにすごくても尊敬するな、勝てなくなる』と教えたこと。いまでも覚えていてくれたのかという思いがこの本を書かせました」

西田さんが初めて大谷選手と対面したのは2010年12月。大谷選手がまだ1年生の冬だった。

「その年の夏、花巻東は甲子園に出場できず、大谷選手の能力を認めていた花巻東の先輩のプロ野球選手の紹介で、私のSBT(目標を達成するための脳の使い方を指導するメンタルプログラム)をチーム全体に指導してほしいとのことで伺いました。最初にチームメートと教室に入ってきたとき、ほかの選手が真面目な顔をして入ってくるなか、彼だけがニコニコした表情で、これから何が始まるんだろうと興味津々の様子だったんです。私のメンタルコーチ人生で、こんな選手は初めてでした」

■クリアリング能力が現役のプロ以上だった

指導にあたって、西田さんは最初に選手全員に心理テストを行うことにしている。ここでも大谷選手は西田さんを驚かせた。

「クリアリング能力(嫌なことはできるだけ早く忘れて切り替えられる能力)とサイキックアップ能力(強気に奮い立たせる能力)が、16歳の時点で現役のプロ野球選手以上に優れていたのです」

つまり大谷選手は失敗してもすぐに次によい結果を出すことに100%集中する能力を高校時代から持ち、それをさらに磨き上げていったというのだ。

「試合の内容だけでなく“監督に叱られた”“寝坊した”など日常的なマイナスの出来事がプレーに響くのは野球選手にとってナンセンス。まったく引きずらないメンタルが当時に増して大谷選手の中で構築されてきたと思います」

もうひとつ、西田さんが指摘するのは大谷選手がこれまで多くのケガに悩んできたことだ。

「私が指導した直後の高校2年になる夏の甲子園に出場したときも最速150キロの剛速球を投げながら、骨端線損傷というケガで登板したのは1度だけ。あとは外野を守りました。その後、大リーグに渡った2018年10月には右ひじの手術をうけ、翌年は登板できず打者に専念。昨年も再び右ひじの手術を受け、今年は指名打者としての活躍です。こうした困難も瞬時に切り替えて前に進めているところが彼のすばらしさだと思います」

こうした大谷選手のメンタルの基礎を作った西田さんに私たちでもできるメンタルの切り替え術を教わった。

「脳は常に最後に起こったことを記憶しています。ですから寝る前にマイナスのことを考えると、そのままのマイナスの状態で翌朝が始まってしまいます。どんなことがあった日でも寝る前には必ず『今日は頑張ったね』『大丈夫だよ』、または『将来の夢』を語るなど、プラスの声掛けを自分にしながら寝てみてください。それだけで脳が切り替わり、翌朝はプラスの状態で目覚めることができます。ぜひやってみてください」

高校時代から飛び抜けていた驚きの切り替え能力で水原事件をものともせずに活躍する大谷選手。あなたも大谷選手を指導した西田さんのメンタル術で人生を好転させてみてはいかが?

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