両親が「貯金はないし、生命保険はお互いを受取人にしている。この家は長男に譲る」と言います。次男の私には何も相続されないのでしょうか?

遺留分侵害額請求権

Aさんのご相談の答えは「自分で行動すれば、相続されないことはない」です。

民法では、亡くなった人の兄弟姉妹以外の法定相続人に対して、遺言書などで遺留分よりも取り分が少なくなった場合には、法定相続分の2分の1まで請求することができるとされています。

ご相談者のお父さまが亡くなられた場合、遺言書などがなくて民法の法定相続分にそって遺産を分割するとなると、

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お母さま(配偶者)は2分の1
長男・Aさん(子)は2分の1
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これを2人で分けますから、長男・Aさんはそれぞれ4分の1ずつになります。

「全財産を長男に」などという遺言書があったとしても、遺留分侵害額請求権に基づいて法定相続分の2分の1については請求できることになるので、

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お母さま(配偶者)は4分の1(法定相続分2分の1×遺留分割合2分の1)
Aさん(子)は8分の1(法定相続分2分の1×遺留分割合2分の1)
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つまり、Aさん(次男)は長男に対して、相続財産である不動産の8分の1に相当する額について「遺留分侵害額請求権を行使できる」ということです。

ただし、これは、Aさんと兄の間で生前贈与も同程度という前提ですから、仮にAさんには長男よりも多くの資金を援助したなど生前贈与があれば、変わってきます。

2020年4月1日から「遺留分侵害額請求権」へ改正

ところで、この遺留分侵害額請求権は、2020年4月1日から民法が改正されたもので、それ以前は「遺留分減殺請求」でした。これにより、次男は、

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「不動産の8分の1の共有を請求する」から、
「侵害された遺留分相当分の金銭を支払うように請求する」
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になりました。

注意点や手続きは複雑なので専門家に依頼

Aさんの場合は、民法による遺留分侵害額請求権を行使することができることがわかりました。ここからは注意点や手続きについて概要を確認します。

まず時効があるということです。遺留分侵害を知った日から1年以内、遺留分が侵害されていることを知らなかったとしても、10年経過すると時効が完成します。

次にどうやって行動を起こすか、という点です。話し合い、口頭、メール、電話などの手段がありますが、証拠を残すために内容証明郵便を使用することが確実です。

ただし、受取拒否や放置のケースも考えて弁護士に文面作成を含め依頼するのが確実です。また話し合いに応じてもらえない場合は、家庭裁判所への調停を申し立てるなどといった対応が必要になる場合もありますから、法律の専門家に第三者として介在してもらうことになります。

生命保険は相続財産とはみなされない

なお、両親がお互いを受取人にしている生命保険ですが、民法の規定では、亡くなった人の相続財産ではなく「受取人固有の財産」とみなされています。つまり、遺留分の計算には原則としては含まれません。

泣き寝入りか割り切りか

親族間での相続財産分割のもめごとに、プロの法律家を依頼することに抵抗を感じる場合もあるでしょう。また弁護士費用や書類作成などのわずらわしさを考えると泣き寝入りもやむなし、と思うかもしれません。

時効がありますから、「やっぱり主張しておけばよかった」という想いをあとあと引きずったままにするのか、ドライに割り切るのか、最終的にはAさんご自身で決断することになるでしょう。

出典

裁判所 遺留分侵害額の請求調停の申立書

執筆者:柴沼直美
CFP(R)認定者

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