『虎に翼』寅子が裁判官として直面する戦争孤児問題 よねとは“気まずい”再会を果たす

直明(三山凌輝)の純真さが一役買って少年裁判所と家事裁判所が手を取り合い、1949年1月に家庭裁判所が発足。『虎に翼』(NHK総合)第56話では、無事に任務を果たした寅子(伊藤沙莉)がついに裁判官としての一歩を踏み出す。

正月の三が日に多岐川(滝藤賢一)の自宅に呼び出された寅子。急用だというので急いで駆けつけると、多岐川はふんどし一丁で寅子を待ち構えていた。汐見(平埜生成)曰く、多岐川は縁担ぎによく滝行に励むが、周辺に好みの滝がないため、代わりに自宅の庭で水行するのが日課だという。

寅子は理解が追いつかないまま、桶の水をかけさせられることに。多岐川はその水を浴びながら何カ月も考え抜いた家裁の基本理念(独立的性格・民主的性格・科学的性格・教育的性格・社会的性格)を発表し、汐見がそれを書き取った。なかなかに異様な光景である。

予想だにしない破天荒な行動でいつも寅子を驚かせる多岐川。だが、人を幸せにするためのものとして誰よりも真摯に法律と向き合っている情に厚い男だ。特に、この国の子供たちを幸せにしたいという思いは強い。最高裁長官の星朋彦(平田満)から東京家庭裁判所判事補を拝命した寅子は、多岐川とともに戦争孤児の問題に向き合うことになった。

視察で上野を訪れた寅子は、戦争で親を失った子供たちの現場を目の当たりにする。終戦直後に政府は、戦争孤児の個人家庭への保護委託、養子縁組の斡旋、集団保護を盛り込んだ戦災孤児対策要綱を決定した。しかし、いずれもほぼ実行されず、終戦から4年が経っても子供たちは露頭に迷っている。視察中、小橋(名村辰)は少年とぶつかった拍子に財布を盗まれた。そうやって犯罪に手を染めなければ、生きていけない子供たちが大勢いたのだ。戦争を始めるのは大人たちで、子供は訳も分からずに巻き込まれていく。それは今も昔も変わらない。星が言うように、いつの時代も戦争の一番の被害者は子供たちだ。

寅子は財布を盗んだ子供を追いかけていった先で、よね(土居志央梨)と轟(戸塚純貴)に再会する。2人はカフェー「燈台」があった場所で、「轟法律事務所」を開いていた。寅子がよねと顔を合わせるのは、弁護士を辞めた時以来。仲間たちが様々な事情で女性法曹としての道を絶たれていく中、“最後の砦”として踏ん張っていた寅子だが、身重の体で限界を感じて弁護士を辞めるという苦渋の決断を下した。

そんな寅子に、「お前には男に守ってもらう道がお似合い」「こっちの道には二度と戻ってくんな」と厳しい言葉を投げかけたよね。轟は生きて再会できたことを喜んでくれたが、よねとは気まずい空気が抜けないままだ。だが、よねも寅子が生きていたことに内心はホッとしているように見えた。寅子が弁護士を辞めると決めた時に憤慨したのも、自分を頼ってもらえなかったことが辛かったからだろう。よねは弁護士資格を持っていないが、学生時代から一緒に法曹の道を追いかけてきた同志だ。同じ法律事務所で働き、一番近くにいたにもかかわらず、寅子はよねのことが見えていなかった。「あの時は逃げることしかなかった」と寅子は改めて謝罪するが、きっとそういうことではなく、よねの心のもやは晴れない。財布を盗んだ少年の兄・道男(和田庵)をはじめ、戦争孤児たちの面倒も見ていると思われるよねと轟。裁判官としての一歩を踏み出した寅子は戦争孤児の問題に向き合う中で、よねとの仲を取り戻すことができるのだろうか。
(文=苫とり子)

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