イングランドはなぜ苦戦したのか?ピクシー率いるセルビアの猛追劇【ユーロ2024】

ジュード・ベリンガム(右)写真:Getty Images

6月15日に開幕したUEFA欧州選手権(ユーロ2024)。日本時間17日、優勝候補のイングランド代表が、かつて名古屋グランパスで指揮をとっていたピクシーことドラガン・ストイコビッチ監督率いるセルビア代表と対戦した。

試合はイングランドがMFジュード・ベリンガム(レアル・マドリード)の得点により1-0で勝利。各チームが1試合を終えた時点で、イングランドがグループC首位に立っている。

しかしながら前半は圧倒するも後半にセルビアの猛追を受けて苦戦したイングランド。流血の惨事となったサポーターの場外戦も含めてその様子を振り返ってみよう。


ブカヨ・サカ 写真:Getty Images

前半はイングランドが横綱相撲で先制

イングランド対セルビア。立ち上がりからイングランドがゲームを支配し、ボールポゼッションは一時70%まで上昇した。守りを固めるセルビアは3バックだが、実際にはウィングバックが深くまで押し込まれて5バックのような状態に。

13分、右サイドでディフェンスラインの裏に走り込んだFWブカヨ・サカ(アーセナル)が倒れながら折り返す。セルビアのDFストラヒニャ・パヴロヴィッチ(ザルツブルク)のブロックに当たるも中央までボールが届き、ベリンガムが頭で合わせてイングランドが先制した。

リードを許し、攻める必要があるセルビアだが、その後もなかなか前方にボールを運ぶことができない。ピクシーことストイコビッチ監督は、身振り手振りでセルビアの選手たちに指示を出すも、表情は曇ったままだ。

立ち上がりから優勢だったイングランドは、早い時間帯に先制したことで余裕を持って試合を運ぶことができた。セルビアにとっては我慢の時間が続いた前半だった。選手の負傷でプレーが一旦止まったところから試合の流れが変わり始めるが、すぐにハーフタイムに突入した。


ドラガン・ストイコビッチ監督(ピクシー)写真:Getty Images

交代カードを使い切っても諦めないピクシー

ウィングバックのMFフィリップ・コスティッチ(ユベントス)が傷むと、セルビアは43分にDFフィリップ・ムラデノビッチ(パナシナイコス)を投入し、流れがセルビアに傾きかける。

それを察知したのか、ピクシーにスイッチが入る。ハーフタイムに、MFネマニャ・グデリ(セビージャ)をMFイヴァン・イリッチ(エラス・べローナ)に交代した。

59分、セルビアは左サイドの深い位置からDFフィリップ・ムラデノヴィッチ(パナシナイコス)がクロスを上げ、FWアレクサンダル・ミトロヴィッチ(アル・ヒラル)が走り込むと、イングランドの選手に後ろから倒される。PKかというシーンだったが、審判はノーファウルの判定。

ピクシーは61分に、ミトロヴィッチに代えてFWドゥシャン・タディッチ(フェネルバフチェ)、そしてMFサシャ・ルキッチ(フラム)に代えてFWルカ・ヨビッチ(ミラン)と二人同時に投入。74分には、FWアンドリヤ・ジヴコヴィッチ(PAOKテッサロニキ)に代えてMFヴェリコ・ビルマンチェヴィッチ(スパルタ・プラハ)を投入する。

ロスタイムも含めると20分は残り時間があろうかというタイミングで、早々と交代選手のカードを使い切ってしまった。もしその後に怪我人が出てしまったら、その時は野となれ山となれだ。結果として、イングランドを押し込み、セルビアの攻撃力に迫力が増してきた。

イングランドも応戦する。77分にジャロッド・ボーウェン(ウェストハム)の右クロスをセルビアのミロシュ・ヴェリコヴィッチ(ブレーメン)の上にせり出したハリー・ケイン(バイエルン・ミュンヘン)が頭で合わせるも、GKが手で弾いたボールはクロスバーに当たった。あわや追加点というシーンだった。

ドラガン・ストイコビッチ監督(ピクシー)写真:Getty Images

イエローカードもらうピクシー

選手の交代枠を使い切ったあともピクシー(ストイコビッチ監督)は精力的に動いた。そして執拗に審判に抗議して83分に警告を受けたのである。

後ろに引いて守備のブロックをつくるイングランドを相手にゴール近くでのプレーがなかなかできずに、最後まで追いつくことは出来なかったセルビア。しかし74分までに交代選手を全て使い切ったピクシーは思い切りがよかった。強豪を相手に状況を打開すべく、大胆になるしかなかったとも言える。なかなか火がつかなかったが、ようやく小さな煙が立ち上り始めたのを狼煙に、矢継ぎ早にどんどん薪をくべていって炎を大きくしていく。そのようなイメージだ。

結果は伴わなかったが、前半の絶望的な試合内容から、後半は五分五分の勝負にまでもっていった。セルビアのベンチワークは今後に期待を感じさせる。

前半の攻撃回数は、イングランドの19回に対してセルビアは6回だった。それが試合終了時には、31回に対して30回になっていたのだから、後半にかなり追い上げたことが分かる。

しかし最後は、自力に勝るイングランドが勝ち星を手にした。


セルビア対イングランド 写真:Getty Images

場外戦で流血の惨事、機動隊が出動し逮捕者も

同試合キックオフの前には、ゲルゼンキルヒェン市のバーの外でセルビアとイングランドのサポーターが衝突。テーブルや椅子が飛び交う大乱闘となり、ドイツ警察の機動隊200人が出動して鎮圧した。この事件で負傷者が出ている模様だ。

この試合に関連して、少なくとも7人のセルビアサポーターが逮捕されたという。

ドイツ警察当局は、セルビア対イングランドで過激なセルビアサポーターが暴力事件を起こそうとしているとして「高いリスクがある」と事前に警告していたが、それが現実となってしまった。

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