【今週のサンモニ】加藤登紀子が暴いた「サンモニ」のダブスタと不寛容|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。

自民批判のための都知事選報道

2024年6月16日の『サンデーモーニング』のトップニュースは、東京都知事選の話題でしたが、相変わらずこの番組は、国民生活に関係する政策を議論する【争点型フレーム issue frame】の報道を行なうことなく、国民生活とは無関係の候補の選挙戦略を報じる【戦略型フレーム strategic frame / game frame】に終始しました。

しかも、話題の中心は、候補者ではなく自民党です。『サンデーモーニング』は、都知事選の話題を利用して、自民党を徹底的に非難したのです。

アナウンサー:東京都知事選挙の告示が迫る中、小池都知事が出馬を表明しました。裏金問題で逆風の自民党は小池氏を全面支援する方針ですが、微妙な温度差も浮かび上がっています。本人にどこまで似ているのか。思わず見てしまう心理を突いた広報戦略でしょうか。知事三期目への出馬表明の翌日、小池氏が公開したのはAIが造った動画。現職としての実績をアピールします。その対抗馬、蓮舫氏が訪れたのは、樹木を伐採する再開発に反対の声が上がっている神宮外苑。
(中略)月曜日、独自候補を擁立できない自民党が動きました。

萩生田光一・自民党都連会長(VTR):小池さんが3選の出馬をするならば支援をする方向で考えて行こうと。

アナウンサー:しかしその2日後、早速両者の距離感が垣間見れます。出馬表明を終え、都議会の各派へのあいさつ回りに訪れた小池氏。自民と同じ支援を表明した公明党の部屋では満面の笑みで一人一人握手。
ところが自民党に対しては協力を呼びかけられてもそそくさと部屋を後にしました。裏金事件が尾を引く自民党からの支援をどう受け止めるのでしょうか。自民党はいったいどのような支援をするのでしょうか。反自民を掲げる蓮舫氏の批判をかわしたい小池氏。

後藤謙次氏(VTR):裏金問題で窮地に陥る自民党に表立って応援をして欲しくないと。テーブルの下で握手しようと。小池さんは半分自民党なんですね。”半自民”なんです。

アナウンサー:裏金事件の発覚以降、選挙で連敗が続く自民党は、小池陣営に加わることで何とか勝馬に乗りたいところ。安倍派幹部五人衆の一人で自ら多額の裏金が発覚した萩生田氏は党の役職停止処分となりながら、都連会長にはとどまっていました。

後藤謙次氏(VTR):小池さんとのパイプ役が萩生田さん。裏金の処分問題でも無罪放免で交渉役としての立場を残した。なんとか応援団の一員になりたいのが自民党。

アナウンサー:小池氏の応援団として息を吹き返したい自民党。しかし国会では新たな波乱要因も。

馬場伸幸・日本維新の会代表(VTR):ウソつき内閣!

『サンデーモーニング』は、「裏金」というキーワードを枕詞のように何度も繰り返して使うことで自民党を貶めました。言葉だけ聞くと、『サンデーモーニング』は、自民党をあたかも「不可触賤民」のように差別的に取り扱っています。ここまで来ると偏執狂としか思えません。

「裏金」という言葉の繰り返しは、自民党に対して【嫌悪 disgust】あるいは【憎悪 hate】の感情を持つように視聴者を操作するものです。このように嫌悪感や憎悪感を植え付けて自説に導くのは【嫌悪に訴える論証 appeal to disgust】という誤謬です。

嫌悪に訴える論証|メディアリテラシー

大前提として、東京都知事選は都政に関わる政策を競う場であり、自民党の政治資金不記載事件とは無関係です。「自民党が公認する候補には懲罰的に投票しない」というのならまだしも、「自民党が支援する候補には懲罰的に投票をしない」という意志決定は非論理的です。

候補者にとって、「公認」は自らの意思に基づき能動的に受け入れるものですが、「支援」は自らの意思に関わりなく受動的に与えられるものであるからです。

小池氏は自民党に対して能動的に支援を要請していません。受動的な支援の表明に「心強い」と感想を述べただけです。日本共産党に対して能動的に支援を要請した蓮舫氏とは異なります。

いずれにしても、有権者が自民党支援の有無を小池氏への投票行動と関連付けることを助長するような『サンデーモーニング』の報道は公正ではありません。

なお、戦略型フレームで都知事選をとらえた場合に、むしろマスメディアが検証する必要があるのは、公職選挙法違反が指摘されている蓮舫氏の事前運動の可否です。自民党が小池氏を支援しようがしまいが、法律上も道義上も全く問題ありませんが、告示前に白昼堂々と特定の選挙の特定の候補に投票を呼び掛けた演説やビラの配布は、法律上も道義上も問題がある行為です。

加藤登紀子氏が初出演

さて、この日の『サンデーモーニング』では、全共闘時代からの正真正銘の左翼であり、いまや日本の左翼界のラスボス的存在ともいえる加藤登紀子氏が番組初出演しました。

ただでさえ、左翼一辺倒の偏ったキャスティングが問題視されているにもかかわらず、さらに凄い存在を連れて来ちゃうところが、『サンデーモーニング』の多様性のカケラもないところです(笑)

膳場貴子氏:加藤登紀子さんに初めてお越しいただきました。東京都知事選など政治の動き、どのようにご覧になっていますか。

加藤登紀子氏:裏金問題ってとってもわかりにくくて、都知事選でそれが絡んでくるというのが(笑)、そこに自民党が起死回生を狙っているというのは、ちょっと捻じれてるなって感じがして、まぁ折角ハッキリとモノを言う女子二人が登場しているので、ぜひ都政についてきちっと議論して、新しい課題をどんどん「見える化」して欲しいと思いますし、魅力のある選挙にして欲しいと。投票率が上がるくらいの「素敵な」っていうとおかしいか(大笑)、でも素敵な都知事選であってくれるように願ってますけどね(笑)

このテーマに対して、加藤登紀子氏から飛び出したコメントは、残念なくらい当たり障りのないものでした(笑)。

ところが、次のテーマに対しては、当たり障りのある興味深いコメントを長々と話したのです。

加藤登紀子氏は左翼を卒業した?

膳場貴子氏:男女平等についてのランキングが発表されました。146カ国中、日本は今年118位。僅かに順位を上げたものの、G7では依然最下位です。男女平等、日本ではなかなか進みませんけど、大先輩の加藤さん、どうご覧になっていますか。

加藤登紀子氏:ちょっと極端な話をするかもしれないが、日本の社会はまだ江戸時代が残っている。田舎に行くと凄くよくわかる。それは昔の五人組制度みたいなものとか、昔のまんまの「しきたり」を守ろうとする人達がいて、コミュニティが守られている。お祭りとか、全部そういうシステムだ。
田舎に行くと、男女の棲み分けがハッキリとある。それで集会でも開かれると、上座にばっと男がいて、台所側に女がいて、どっちが面白いかと言えば、女の方が盛り上がったりしている。だから、棲み分けがすべて居心地が悪いものではないが、そういうベースがある上に新しい世界が始まっている。

左翼の大御所であるはずの加藤氏は、【リベラリズム liberalism】を盲信し、真逆の【共同体主義 communitarianism】を否定するかと思いきや、意外にも特定の規範をもつ日本社会の共同体主義をしっかりと肯定しました。

ちなみに「上座にばっと男がいて、台所側に女がいて」というのは、コメンテーター席に男性コメンテーターが広々と座り、その向かい側に女子アナがすし詰め状態で座るという何年も続いた『サンデーモーニング』の男社会と非常によく似ていると思います(笑)。

加藤氏は続けます。

加藤登紀子氏:何があるかと言うと2つ大きな問題がある。半世紀の間に、まず女性が、田舎が嫌で出て行っちゃう。嫁のきてがない。田舎はどんどん疲弊する。だから地域が崩壊して行く問題が今起こっている。もう一つは、男性が、凄く男女の棲み分けという精神性がある社会なので、ちょっとチクっと言わせていただくと、生活実態に対する経験が少ない。

つまり、感覚的に実際の生活をマネジメントできる能力がない人達ばかりがいる。だから男の人達がなんかつまらない議論ばかりしている。現実を解決してくれない。男性が圧倒的に強い社会の弊害が今日本でいっぱい出て来て、だけどそれを男女棲み分けしてきてずっと祭りを守ってきましたと。昔と同じようにやりましょうよって言ってきた地域社会を、ただばっさり切って行ってもいいものでもないと思う。日本という社会は非常に多重的な社会だというのは魅力なんだ。

加藤氏は、共同体主義をとる日本の田舎の問題として、女性の流出と男性の生活への経験不足を挙げた上で、それだからといってこのような社会を切ってはいけないと主張しました。

実はこの加藤氏の考え方こそが【多様性 diversity】に他なりません。いつも『サンデーモーニング』のリベラル気取りコメンテーターが主張しているのは「多様性」という名の下に自分の価値観を強制する【画一性 uniformity】に過ぎません。

加藤氏はさらに続けます。

加藤登紀子氏:だから是非、それをバッサリ切るのではなく、その中で暖かく、何か新しいものが、風通しの良い社会ができるためには、何が必要か。男性が変わること。まず男性に家事をして欲しい。ちゃんと家事をして女性と一緒に現実社会というものを営むということ。一生懸命やってほしい。政治家でもみんな。もう国あり、家無しというのはダメなんで。そこを変えないと。

確かにパスポートの問題は、実体験で難しい。仕事としてやっている名前とパスポートが違うというのは弊害がある。だけど制度を変えれば済む話ではない。やっぱり是非男性が風通しのいい、女性と一緒に現実が担える人になって欲しい。

結論を言えば、この一連のコメントのみから判断する限りにおいては、加藤氏は左翼ではありません。

なお、もし加藤氏のコメントを自民党の政治家が発言すれば、『サンデーモーニング』のコメンテーターは「性役割を肯定する古い考え方」と烈火のごとく叩きまくる可能性が高いと言えます。「田舎に行くと江戸時代が残っているのがよくわかる」「男は生活をマネジメントする能力がない」「男はつまらない議論ばかりしている」「男には家事をして欲しい」といった発言は、森喜朗氏の「女性が出席する会議は長い」と同じで、性別で人を括る失言のはずです。

『サンデーモーニング』は蓮舫氏に勝るとも劣らないダブスタ番組なのです(笑)

多様性を認めない『サンデーモーニング』

『サンデーモーニング』が多様性を認めないというエヴィデンスは、この日の放送でも認められました。

膳場貴子氏:EUの議会選挙。加盟27カ国、有権者4億人による投票が行われました。今回も過半数を占めたのが、親EU派。しかしドイツやフランスなどでは右派が勝利。議会全体では2割以上を占める結果となりました。特にフランスではマクロン大統領の与党連合が極右の国民連合に2倍以上の差を付けられ大敗。

元村有希子氏:世界で民主主義が痛んで来ている。EUは多様性と寛容を標榜して集まっている集合体だ。一足先に環境でも移民でもきちんとルールを決めて受け入れて行こうとムードを世界で引っ張ってきたが、それが足元から揺らいでいる。

『サンデーモーニング』は、自らの論調に合わない政治グループを「極右」と呼び、民主主義のルールに基づく選挙を介して台頭しているにもかかわらず、「民主主義が痛んでいる」などとその存在を否定します。

客観的に言えば、『サンデーモーニング』こそ、多様性と寛容を欠いた「極左」ともいえる存在なのです。ここで、重要なのは、特定の存在を排除する『サンデーモーニング』も排除しないで認めてあげることです。それが本当の多様性と寛容というものなのです。

藤原かずえ | Hanadaプラス

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